中国による希少鉱物の「武器化」とその背景
中国によるレアアースを含む希少鉱物、その関連製品の輸出規制が相次いでいる。 2025年4月、7種のレアアースについて輸出管理の厳格化を開始し、日本や米国、欧州で自動車生産の一時停止を余儀なくされた。
中国によるレアアースを含む希少鉱物、その関連製品の輸出規制が相次いでいる。2025年4月、7種のレアアースについて輸出管理の厳格化を開始し[1]、日本や米国、欧州で自動車生産の一時停止を余儀なくされた[2]。さらに中国は2026年1月、高市早苗総理大臣の台湾有事をめぐる発言[3]への対抗措置として、レアアースを含む軍民両用品の対日輸出規制を発表した。貿易統計によると、同年3月の中国によるレアアース磁石の日本への輸出は大幅に減少した[4]。
希少鉱物は風力発電の大型タービン、電気自動車のモーターなど動力源、データ装置に使用され、21世紀の国際潮流となっているデジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)双方の実現に欠かせない。さらには、戦闘機、ロケットのエンジンなどにも不可欠で安全保障に直結する。
中国が希少鉱物を通商、外交上の「武器」にできる背景として二つ挙げられる。一つは中国が希少鉱物の採掘だけでなく、精錬や製品化技術を含めて国際市場を支配する体制を構築したことである。もう一つは、世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥り、自らの裁量で希少鉱物を権益拡大や外交目的の達成に活用できる余地が広がったことである。
本稿ではまず、レアアースを含む希少鉱物の基本事項を整理し、続いて中国が希少鉱物の「武器化」体制を構築した過程を検証する。最後にWTOの機能が失われる中、日本がどう対応すべきかを考察する。
希少鉱物のうち、レアアース(希土類)とは、永久磁石など電気的、化学的な特性を有する17種類の元素を指し、うち質量が軽い7種類を軽希土類、重い10種類を中、重希土類と呼んでいる。いずれも先端技術産業に欠かせないが、中、重希土類は安全保障に直結する分野に必須であり、より重要度が高い[5]。軽希土類が比較的世界全体に分布しているのに対し、中・重希土類はイオン吸着鉱と呼ばれる鉱床に形成されやすく、それが中国の中南部に集中的に形成されている[6]。例えば、中国江西省の信豊鉱山は中・重希土類の含有率が45%を超えているのに対し、レアアース産出量で世界第2位の米国カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山は中・重希土類の比率が1.3%に過ぎない[7]。中国による輸出規制が世界に影響を与えるのはこのためであり、2025年4月に輸出管理を強化した7種のレアアースもすべて中・重希土類である(表1参照)。
表 1:中国が輸出管理を強化した主な希少鉱物(赤字はレアアース)
名称 |
主な用途 |
|---|---|
| サマリウム(Samarium) | センサー、医療機器、自動車部品 |
| ガドリニウム(Gadolinium) | 磁気共鳴画像(MRI)造影剤、原子炉の制御棒 |
| テルビウム(Terbium) | 偽造防止の蛍光印刷、レーザー加工 |
| ジスプロシウム(Dysprosium) | 電気自動車(EV)、ハイブリッド車のモーター、風力発電タービン、データ保存装置 |
| ルテチウム(Lutetium) | レーザー、放射線治療 |
| スカンジウム(Scandium) | 電極材料、レーザー、航空機部品 |
| イットリウム(Yttrium) | 電子フィルター、レーザー、超伝導体 |
| ガリウム | 太陽光パネル、データセンターのサーバー電源 |
| ゲルマニウム | 光ファイバー、赤外線レンズ |
| アンチモン | 難燃剤、鉛バッテリーの電極 |
| タングステン | 超硬工具、耐熱部品、放射線遮蔽材 |
出典:『レアメタル レアアースの驚くべき能力』(齋藤勝裕、C&R研究所、2019年5月)などを参照に筆者作成。
輸出規制の対象はレアアースに限らない。2023年以降、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、タングステンの関連製品など相次いで輸出制限を実施している[8]。いずれも中国が採掘や精錬で国際市場を支配している品目である。
2026年1月に発表された対象を日本に限定する輸出規制は、希少鉱物の品目を特定せず、軍民両用製品としている。中国商務省は「民生用は規制の影響を受けない」と付加したが、同年3月の中国によるレアアース磁石の輸出は全世界向けが前年同月比1.6%減に対し、日本向けが27.2%減と日本への輸出規制がとりわけ厳しく実施されたことがうかがえる[9]。また、タングステンの加工品である炭化タングステンは同年1月に約14トンの対日輸出があったが、2月から4月にかけてゼロになった[10]。
中国は、希少鉱物が同国に集中分布する事実に安住しなかった。上流(採掘、分離精製)から下流(製品化)までを独占し、世界各国が中国抜きに先端技術製品を製造できない体制の構築を目指した。発端は1992年、当時の実質的指導者だった鄧小平氏の「中東に石油があるように、中国にレアアースがある。レアアースは我が国に必ずや優位性をもたらすだろう」(中東有石油、中国有希土、一定把我国希土的優勢発揮出来)との発言だった[11]。
その一環として90年代以降、主に活用されたのが輸出規制と外資の制限である。輸出許可証の発給により中央政府による監視を強め、経営体力に乏しい中小業者が希少鉱物を採掘しすぎたり、それを安価に海外へ輸出したりしないよう管理するとともに、国内のレアアース企業の再編、統合を進めた。また、レアアース精錬工程への海外企業の投資を制限し、海外企業には中国企業との合弁を条件として参入を認めた。輸出規制により、希少鉱物に国内と国外で価格差を設けることで、中国企業との合弁による外資の中国進出を促し、希少鉱物に関する加工技術の内製化を進めていった[12]。
精錬部門はこれらの政策の効果が如実に表れた。レアアースは精錬の過程で、有毒ガス、汚泥、放射性物質など大量の汚染物質が生成される。一つの鉱石に混在するレアアースを分別するには、多数の化学薬品を使用しなければならないためである[13]。80年代まで、米国やフランスがレアアース精錬部門の国際市場をリードしてきたが、西側諸国では、環境保護の機運が高まった。さらに、中国の輸出規制によりレアアースの購入価格が上昇したことで、大半の事業者がレアアース精錬から撤退、あるいは中国に精錬技術を移転した。その結果、国別のレアアース精錬において中国は世界の90%以上を独占するようになった(図1参照)。
図 1:レアアースの国別精錬比率(2024年)
出典:国際エネルギー機関(IEA)“Global Critical Minerals Outlook 2025”161-178頁を参照に筆者作成
それでも中国は満足しなかった。むしろ「先進国は中国で精錬されたレアアースを安価に購入して付加価値の高い製品を生産して稼いでいる」と、環境汚染のリスクばかりを負担させられていることへの不満が高まった[14]。この不満が2010年代以降、中国による希少鉱物のさらなる輸出規制の強化につながった。
そのうち中国がとりわけ重視したのが、レアアースを原料として加工され、自動車のモーターや風力発電のタービンなど動力源に使われる高性能磁石である。かつては日本やドイツの企業が耐熱性や磁力において高い品質を誇り、中国も輸入に頼っていた。しかし、中国による輸出規制の強化で、中国企業との合弁による生産にシフトせざるを得なくなり、中国への技術移転が進んだことで、中国企業がレアアース磁石製造の主導権を握るようになった。現在の世界シェアは、中国勢が80%を超え、日本勢はかろうじて10%超を維持しているに過ぎない[15]。こうして中国はレアアースの上流から下流まで独占的地位を築くことに成功した。
こうした輸出規制を中国が思い通りに展開できたわけではない。むしろ、2010年代初頭はWTOを舞台にして、中国による規制がWTO協定に照らして妥当かどうかが議論され、WTO協定違反と勧告された分野については中国が一定の是正措置を講じるなど、国際的なルール形成機能が働いていた。
2010年9月、尖閣諸島沖の日本領海内で操業していた中国の漁船に対し、海上保安庁が退去するように要求したが応じず、漁船が海保の巡視船に体当たりした。その結果、海保が漁船の船長を公務執行妨害の疑いで逮捕する事態が起きた。中国は激しく反発し、レアアースの対日輸出を制限した。同年9月には2,246トンだった中国からのレアアース輸入が、10月には1,278トンにほぼ半減するなど大きな影響が出た[16]。2012年3月、日本は米国や欧州連合(EU)などとともに、この実質的な報復としての輸出規制だけでなく、2010年以前から実施されていたレアアースをはじめとする希少鉱物の輸出割当の削減も含め、WTO協定違反を構成するとして、中国に協議要請を行った。
一方、中国は輸出税の賦課や輸出数量制限で構成される輸出規制は、レアアースの採掘、精錬工程における環境負荷の大きさを考慮したもので、鉱山の乱開発の防止、および輸出税収による環境対策の強化が主目的であり、正当化されると主張した。
図 2:WTOの紛争解決手続きの流れ
出典:WTOウェブページなどを参照に筆者作成。
図2にあるようにWTOではまず、関係国間の協議による解決が目指される。本件は協議が不調に終わり、パネルが設置された。日本、米国、EUおよび中国の主張から、レアアース輸出規制に関する主な論点は以下の3つであった。
- 輸出税の賦課は中国のWTO加盟議定書11条3項における輸出税を付加しない旨の規定に違反、あるいは抵触するか
- 輸出数量制限は「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)11条1項の数量制限禁止に違反、あるいは抵触するか
- 中国による輸出規制がGATT20条(b)に規定される環境保護のための措置、またはGATT20条(g)に規定される有限天然資源の保護として正当化されるか
2014年3月、パネルは中国による主張を認めず、中国の輸出規制がWTO違反とする日本側の主張を支持した。中国は同年4月にWTO紛争処理上級委員会に対して不服を申し立てたものの、8月、上級委員会はパネルの判断を支持する報告書を公表した[17]。
この件に先駆け、2009年には米国や欧州連合(EU)が中国によるマンガン、亜鉛など9種の鉱物に関する輸出規制に対してWTOに基づく協議要請を行い、2012年、WTO上級委員会はほぼ上記と同様の判断で、WTO違反との裁定を下している[18]。
このように2010年代は、WTOが調停機関として、国際的な通商体制に関するルール運用機能を果たしていた。しかし、中国は一定程度WTOの判断を受け入れて、一部是正措置を講じたものの、輸出規制を正当化する別の論拠を見出すことも忘れなかった。GATT21条に定める安全保障例外である。自国の安全保障に重大な影響が想定される場合、軍民両用関連の部品などの輸出規制が認められる仕組みである。これは加盟国の自己判断にゆだねられる性質を有するため、恣意的な運用への懸念がある[19]。実際、2026年1月の対日輸出規制では、軍事転用の防止を実施の理由に挙げている。
さらに、2019年、米国の第一次トランプ政権は、自国への不利な裁定への不満を理由として、図2に示す上級委員会の委員選任を拒否した。最高意思決定機関を喪失したWTOは国際通商の番人としての地位を失い、機能不全に陥った[20]。
中国による希少鉱物「武器化」の過程を検証すれば、国際調停機能の弱体化も相まって、対応は容易でなく、影響の長期化が予想される。日本が取り組むべきこととして、短期、中期、長期に分けて提案したい。
まず、中国以外の供給網構築である。日本はオーストラリアやフランス企業への出資や融資によりレアアースの供給契約を結ぶなど調達先の多様化を進めている[21]。前半で取り上げたレアアースの重希土類など、中国以外では供給が困難な希少鉱物、その加工品もあるが、中国依存の解消は西側諸国の共通課題になりつつあり、同志国間で連携を図るべきである。
中期的には、国内での一定程度の自給体制の構築を図るべきである。2026年2月、南鳥島南方海域において海底約5,700m付近の泥を採掘し、レアアースの中・重希土類が埋蔵されていることを確認した[22]。精錬やレアアース磁石など関連製品製造の技術を再結集できれば、中国による輸出規制への耐性を高めることができる。海底のレアアース泥は陸上の鉱石と違って砕く工程が不要であるうえ、鉱石よりトリウムなどの放射性元素の含有が少ない。上記の泥の分析においても、有意な汚染物質は検出されなかった。この点も自給体制の構築に有利に作用するだろう。
長期的には、国際通商ルールの運用機能を回復させることである。WTOが機能不全に陥って以降、中国による希少鉱物の輸出規制だけでなく、米国による関税措置など、特定の国の裁量による一方的な通商措置が横行している。トランプ政権が新たな関税措置を発動したばかりであり[23]、米国の説得は容易でないが、日本はEUやカナダなどWTOの機能回復に向けて意思が一致する国々と、米国の政権交代後をにらんだ方策を検討しておくべきだろう。WTOの紛争解決制度改革検討会合に米国が参加して改革案を提示し[24]、また、2026年1月にトランプ大統領が表明した国際機関からの脱退リストにWTOが入っていなかった事実は、WTOの機能回復に向け、ささやかな希望になる。
いずれにしろ、一朝一夕に解決できる問題ではない。中国が数十年かけて築き上げた希少鉱物の「武器化」に対し、日本が短期間で対応体制を整えるのは不可能だからである。同盟国、同志国と連携しつつ、輸出規制の影響を最小限に抑えられる体制構築を一歩ずつ進めるほかない。
[1] 中華人民共和国商務部「商务部 海关总署公告2025年第18号 公布对部分中重稀土相关物项实施出口管制的决定」2025年4月4日。 [https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2025/art_9c2108ccaf754f22a34abab2fedaa944.html]
[2] 欧州事情については、欧州自動車部品工業会(CLEPA)ウェブサイト “Urgent action needed as China's export restrictions on rare earths disrupt European automotive supply chains” June 4, 2025参照。 [https://www.clepa.eu/insights-updates/press-releases/urgent-action-needed-as-chinas-export-restrictions-on-rare-earths-disrupt-european-automotive-supply-chains/]
日本については、スズキウェブサイト、ニュースリリース「国内生産機種の一部生産停止について」2025年5月30日参照。 [https://www.suzuki.co.jp/release/d/2025/0530/]
[3] 高市総理は2025年11月7日、第219国会予算委員会において、中華人民共和国が台湾を支配下に置く目的で台湾に対して武力行使を行った場合、日本の存立危機事態になり得るとの答弁を行った。
衆議院「第219回国会 予算委員会 第2号 会議録」2025年11月7日。 [https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001821920251107002.htm#p_honbun]
[4] 「中国、3月のレアアース磁石の対日輸出27%減、規制強化が影響か」『朝日新聞』2026年4月20日。 [https://www.asahi.com/articles/ASV4N2FZ9V4NUHBI00JM.html]
[5] 齋藤勝裕『レアメタル レアアースの驚くべき能力』C&R研究所、2019年、120-127頁。
[6] 福田一徳『日本と中国のレアアース政策』2013年、木鐸社、20-21頁。イオン吸着鉱はレアアースを含む花崗岩類が高温多湿の環境下で風化により分解され、粘土鉱物の表面にレアアースイオンが吸着されることで形成される。
[7] 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「レアアースの供給と課題」2024年6月27日、6頁。 [https://journal.jogmec.go.jp/content/300600821.pdf]
[8] 日本貿易振興会(JETRO)「中国のレアアース輸出管理(1)」2026年3月10日。 [https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2026/0101/5229e687b7a111eb.html]
[9] 脚注4参照。 [https://www.asahi.com/articles/ASV4N2FZ9V4NUHBI00JM.html]
[10] TBS NEWS DIG「中国 レアメタル『タングステン』加工品の日本向け輸出停止 対日輸出規制強化が影響か」2026年5月27日。 [https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2689540?display=1]
[11] 加藤泰浩『太平洋のレアアース泥が日本を救う』PHP研究所、2012、75-76頁。
[12] 福田一徳『日本と中国のレアアース政策』45-77頁。
[13] 齋藤勝裕『レアメタル レアアースの驚くべき能力』128-131頁。
[14] 『レアメタルニュース』アルム出版社、no. 2371, 2008年、3頁。
[15] 『レアアース磁石、奪われた日本勢のシェア 気づけば中国製 レアアースと覇権 (2)』『日本経済新聞』2025年6月17日(会員限定)。
[16] 東京大学社会科学研究所ウェブサイト 丸川知雄「2010年のレアアース危機」2016年6月23日。 [https://web.iss.u-tokyo.ac.jp/crisis/essay/2010-2010979192-924201042010-wto201092219412010-nhk924924-120109220310180922461012781200920112102010.html]
[17] WTO “CHINA – MEASURES RELATED TO THE EXPORTATION OF RARE EARTHS, TUNGSTEN, AND MOLYBDENUM,” August 7, 2014. [https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000096414.pdf]
[18] 福田一徳『日本と中国のレアアース政策』86-99頁。
[19] 経済産業省「安全保障例外~GATT21条の解釈をめぐる論点と最近のWTO先例」2023年4月。 [https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/3_dispute_settlement/32_wto_rules_and_compliance_report/322_past_columns/2023_04.pdf]
[20] 「WTO改革案が浮上、24年初めまでの合意目指す 機能不全打開へ」『ロイター(日本語版)』2023年10月27日。 [https://jp.reuters.com/world/us/EYQDBKDWTJP6JP4CT2NPSVHVF4-2023-10-27/]
[21] 経済産業省「日本として初となるレアアース(重希土類)の権益を獲得します」2023年3月7日。 [https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230307001/20230307001.html](リンク切れ)
[22] 海洋研究開発機構(JAMSTEC)「南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の結果について」2026年7月24日。 [https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20260724/]
[23] 「トランプ政権、新たな関税を発動 強制労働対策が不十分として60の国・地域に」『BBC(日本語版)』2026年7月24日。 [https://www.bbc.com/japanese/articles/cgmky0wmxy1o]
[24] JETRO「WTO改革の行方」2023年8月29日。 [https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/0801/c949a55fd30ef6a6.html]