1. はじめに:原潜をめぐる北朝鮮の動向
原子力潜水艦の開発をめぐる北朝鮮の動向があわただしい。ロシアの貨物船が自国の退役原潜の原子炉部品を積み、北朝鮮に向かっていたとされる途中、地中海で沈没したと2025年末にスペインの捜査当局が言及した[1]。同年に、韓国の国防相も同国国会においてロシアによる北朝鮮の原潜開発に関する支援の可能性を指摘した。さらに、同年末には、金正恩(キムジョンウン)総書記が、建造中とされる原潜を視察したと朝鮮中央通信が報じた[2]。金正恩氏は、それが核弾頭を備えた潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載できる戦略原潜であることを示唆している。その写真も公開されたが、撮影日が記載されていないことなどから、短期間で運用を開始できるのか、果たして原子炉は搭載されているのかなど、議論が起きている。
ディーゼルやバッテリーを動力とする通常型原潜が定期的に浮上し、動力源の補給が必要なのに比べ、発電用原子炉と同じく核分裂反応を動力に利用する原潜は一度燃料を挿入すれば、長期間潜水可能な利点を有する。また、原潜は、深海に長期間潜み、敵からの核攻撃を受けた際に核による報復攻撃を主任務とする戦略原潜と、海中を活動し、敵の艦船や潜水艦を攻撃する攻撃型原潜に大別される。上記原潜が戦略原潜とすれば、北朝鮮の狙いは米国に対する抑止力の強化とみられる。
原潜開発に関連するとみられる動きはほかにも観察される。2025年8月、北朝鮮北西部・ 寧辺(ニョンビョン)でウラン濃縮施設とみられる建物が新設された。核兵器用だけでなく、原潜用ウラン燃料の製造に充当される可能性がある。同じく寧辺にある原子炉も稼働状態に入った。国際原子力機関(IAEA)によると、この炉は原潜に搭載されるのと同じ型式の軽水炉[3]であり、発電だけではなく、原潜の運用をにらみ、操作の訓練に使用されることも想定される。
とはいえ、発電用原子炉の開発、および運転技術を保有していることが即、潜水艦に搭載する原子炉の開発につながるわけではない。潜水艦に炉を搭載するには、小型化、軽量化しつつ、出力は維持する必要がある。さらに、運転技術においても、発電用原子炉が運転開始から一定期間を経れば、100%に近い出力で安定運転するのに対し、原潜の運転は状況に応じて、出力を変えなければならない。発電用の小型炉を動かしたばかりの北朝鮮にとって、独力で原潜用の原子炉を開発し、運転技術を獲得するのは容易でなく、ロシアの技術協力は欠かせないだろう。
北朝鮮が核弾頭を搭載できる原潜の保有に至れば、北東アジアの安全保障環境に与える影響は大きく、同国による開発動向を分析する重要性が増している。本稿で原潜や軽水炉、ウラン濃縮施設の現状を衛星画像の観察などに基づいて整理し、専門家の見解を交えながら考察する。
2. ロシアによる協力の可能性
北朝鮮に原潜の原子炉部品を運搬していたとされるロシアの貨物船は、同国の国防省傘下の企業が所有する「ウルサ・マヨール」(Ursa Major)号である。同号は2022年、クリミア半島に貨物を輸送したとして、米国の制裁対象となり、監視されていた。地中海での沈没で乗員16名が死亡、2人が行方不明になった[4]。
スペイン政府は2026年5月、同国議会に書簡を送り上記内容を詳細に説明している。書簡によると、船長への聞き取りで「原潜で使用されるものと同型の原子炉2基の部品」を輸送していたことが判明した。また、同号はロシアのサンクトペテルブルクから極東ウラジオストクに向かうと届け出ていたが、最終目的地は北朝鮮の羅津(ナジン)港だった可能性が高いと指摘している[5]。これらは政府から議会への報告であり、スペイン政府としてロシアが原潜の原子炉部品を北朝鮮に輸送しようとしていたと結論づけたことになる。
また、原子炉の型式について、スペインの捜査当局は旧ソ連時代のVM-4SG型と確認している[6]。これは旧ソ連時代の第2世代の原潜に搭載されていた加圧水型軽水炉で、濃縮度を20%に高めたウランを燃料として使用し(後述の表1参照)、90メガワット(MW)の出力で運転する。日本で運転中の原発の出力がおおむね1,000MWであり、出力はその10分の1程度に相当する(ウラン濃縮度とその用途は後述の図2参照)。
北朝鮮が2024年10月、ウクライナ戦線に兵隊を送って以降、その見返りとしてロシアから原潜開発などで支援を受けることを想定し、筆者は笹川平和財団上席フェローの小泉悠氏とともに、衛星画像の観察を続けてきた。まず、調査対象としたのが、北朝鮮に近いロシア沿海州にあり、原潜から取り出された原子炉が保管されているドゥナイ港の動向である(衛星画像1)。画面右側の赤いコンテナの内部に旧原潜の使用済み原子炉が収納されている。昨年11月、そのコンテナのうち、下から2列目に配置されていたコンテナの一部(衛星画像1の青い矢印)が画面左側の港湾部に移されたことを観察できた。北朝鮮へ移送される可能性があるとみて、観察を継続し、その後も港湾内でのコンテナ移動は確認できたが、閲覧可能な衛星画像に限りがあり、2026年8月現在、港湾からコンテナが外部に運び出された確証は得られていない。
衛星画像 1:ドゥナイ港に置かれている退役した原潜の原子炉
出典:Google earth
スペイン政府が議会に提出した書簡に基づけば、ドゥナイ港とは別に退役した原潜の原子炉を保管しているサイダ湾から地中海を経由して北朝鮮に輸送しようとしたとも考えられる(図1参照)。サイダ湾はフィンランドに隣接するロシア・コラ半島に位置する。同湾の動向もまた観察対象として調査を継続する必要がある。
図 1:ドゥナイ港、サイダ湾の位置
出典:筆者作成
現状、ロシアが原子炉を北朝鮮に提供した確証はつかめないが、そもそも、原子炉やその関連部品の提供は、原潜開発の進展にどの程度寄与するのか。日本核物質管理学会の岩本友則事務局長は「原子力分野において、機器そのものや設計図を入手することは開発のスピードを加速させる。それは、イランがウラン濃縮に欠かせない遠心分離機の設計図をパキスタンから密かに入手してから技術力を向上させたことからも明らかである」と解説する[7]。
3. 北朝鮮による「原潜」の公開とその意味
北朝鮮は2025年12月25日、同国初の原潜だと主張する艦艇の新たな画像を公開した。朝鮮中央通信によると、原潜とされる構造物の排水量は8,700トンで、他国が保有する原潜の大半と同等かそれ以上の規模になる。
写真 1:北朝鮮が公開した原潜とみられる建造物
出典:朝鮮中央通信=共同(共同通信社提供)
原潜開発は、金正恩氏が2021年の朝鮮労働党大会で初めて言及して以来、同国の目標の一つになった。その際、5か年計画で原潜を保有することが盛り込まれた[8]。
原潜の長所は、動力源の永続性にある。動力源の原子炉が長く稼働するため、潜航し続けることができる。しかし、原潜用の原子炉を開発し、運用できる技術を有する国は限られ、現在、米国、ロシア、中国、フランス、英国、インドの6か国のみが原潜を運用している。
どの程度の永続性を担保するかは各国の方針によって異なる。表1に示すように、米国や英国は就役から退役まで一切燃料交換しないことを前提に極めて濃縮度の高いウランを使用する。一方、先述したように北朝鮮が入手を図ろうとしたとみられるVM-4SG型は、一定期間での燃料交換を想定し20%程度の濃縮ウランを用いる。
表 1:各国原潜に使用されるウラン燃料の濃縮度
国名 |
ウラン濃縮度 |
|---|---|
| 米国 | 90%超 |
| 英国 | 90%超 |
| ロシア・VM-4SG型 | 20% |
| インド | 中濃度(30~45%:推定) |
| フランス | 低濃縮(20%未満) |
| 中国 | 低濃縮(20%未満) |
出典:日本原子力研究開発機構(JAEA)「文献紹介;インドのウラン濃縮計画」(2007年3月)ほか、各種資料を参考に筆者作成
北朝鮮がこの時期に建造現場を公開した意図については、原潜建造5か年計画の最終年に当たることや、同年10月、韓国と米国が、韓国による原潜の建造で合意したと公表されたことを意識した可能性が高い。この合意の直前、韓国国会の国防委員会における国政監査に出席した安圭伯国防相は具体事例の言及は避けたものの、「韓国政府も、ロ朝軍事協力の深化が原潜関連技術の移転につながる可能性を注視している」と答弁している[9]。
一方、朝鮮中央通信は報道時点で原潜の建造工程の進ちょくについては言及していない。そのため上記写真の分析については、さまざまな見解が寄せられている。少なくとも2026年8月現在、同通信は、この写真の潜水艦が進水したことを報道しておらず、他国の分析機関も進水を確認していない。原潜用の原子炉について、ロシアの技術支援を仰いでいるとみられることから、北朝鮮がすでに炉を開発したとは想定しにくい。写真に映る構造物に原子炉は搭載されていないとみられ、5か年計画通りには、原潜は完成しなかったと判断するのが妥当である。
4. 他の原子力関連施設の動向
内陸部にある原子力施設にも新たな動きが観察される。まず、2024年9月、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、金正恩氏が核の生産施設を視察し、現地指導したと報道した。視察先には、核弾頭用の核物質を製造するウラン濃縮施設も含まれ、同国がウラン濃縮施設の現場を写真付きで公表するのは初めてだった。
写真 2:北朝鮮が公開したウラン濃縮施設
出典:朝鮮中央通信=共同(共同通信社提供)
図 2:ウラン濃縮とその用途
出典:筆者作成
原潜の原子炉に挿入されるウランの濃縮度は原潜を保有する国によって幅がある(表1参照)。北朝鮮はすでに核兵器級の高濃縮ウランを製造できる技術を保持しているため、原潜用濃縮ウランの製造に支障はないと考えられる。
ニョンビョンの軽水炉にも動きがある。IAEAは2023年12月末に、「ニョンビョンに建設された軽水炉が臨界に達した兆候がある」と表明した(衛星画像2)[12]。この軽水炉は2009年、北朝鮮が独自に建設計画を公表したもので、100メガワットの発電能力を有するとされる。先述したVM-4SG型原潜に搭載される軽水炉と同じ加圧水型で、出力もほぼ同規模である。
この軽水炉について、IAEAは衛星画像を活用して排水棟から排出される水の有無や排水時の温度を分析することで、稼働状況を監視してきた(衛星画像2参照)。原子炉が稼働しているときは炉周辺の機器を冷却するため、水を循環させる。そのため、温かい水が排出される。2025年8月、IAEAはこうした分析を北朝鮮に関する報告書としてまとめ、公表した。それによると、2024年9月から10月の間運転を停止し、その後、11月から2025年4月まで運転してまた停止し、同年5月に再稼働していることが判明した[13]。
発電用の加圧水型軽水炉はウラン235の割合を5%程度まで高めた燃料を使用するため(図2参照)、4年程度の長期運転が可能になる。原潜用もまたウラン235の濃縮度が高く、仮に濃縮度を80%以上にすれば、退役まで燃料交換を必要としない。
以上を踏まえれば、北朝鮮の加圧水型軽水炉が試運転とは言え、2023年末の稼働開始から1年半弱で停止と稼働を2度繰り返す必要があったのかは疑問が残る。技術課題の可能性も考えられるが、岩本氏は「原子炉がトラブルを起こしやすいのは、起動時と停止時である。原潜の運転を想定し、原潜と同じ型式であるこの軽水炉を活用して安定起動・運転の技術習得に向けた訓練をしているのかもしれない」と指摘する[14]。
衛星画像 2
出典:Vantor
5. 日本および国際社会への示唆
ここまでの分析は、仮説にとどまっている部分もあるが、スペイン政府の調査や韓国国防相の国会での答弁は、公式見解とみなせるものである。それらを考慮すると、北朝鮮の原潜開発に関し、ロシアが技術支援をしていること、北朝鮮が原潜そのものの開発に加え、原潜の運用に欠かせないウラン濃縮の規模拡大など関連技術を向上させていることは間違いない。ロシアと北朝鮮の協力は米国への対抗という共通の目的があり、北朝鮮が戦略原潜を示唆する原潜の運用に至れば、米国に対する核抑止力の強化につながり、安全保障を米国の拡大核抑止に依存している日本や韓国への影響は避けられない。
しかし、日本および国際社会に北朝鮮の原潜開発の動きを阻止する手立てはない。北朝鮮はすでにIAEAの査察官を追放しており、北朝鮮の原潜開発、あるいはそれに関連するウラン濃縮施設の拡充について、国際社会が監視する仕組みもない。北朝鮮の動向に関する予見性は低下の一途をたどっており、日本を含む各国の調査・分析機関が衛星画像などを活用した分析と情報交換を重ね、予見性を少しでも向上させるよう努める必要がある。
[1] The Maritime Executive “Report: Lost Russian Ship Was Carrying Nuclear Submarine Reactor Parts” December 28, 2025. [https://maritime-executive.com/article/report-lost-russian-ship-was-carrying-nuclear-submarine-reactor-parts]
[2] AFP News 「金氏、原潜建造現場を視察 米韓協力「脅威」 KCNA」2025年12月25日。 [https://www.afpbb.com/articles/-/3615766]
[3] 原子炉は核燃料の分裂反応を効率よく起こすため、中性子の放出速度を落とす素材(減速材)に何を使用するかによって炉の名称が変わる。軽水炉とは、炉内を普通の水(比重が大きい重水と区別するため軽水と呼ばれる)で満たし、ウラン燃料を挿入する原子炉である。水が減速材の役割を果たしながら、熱で大量の蒸気を発生させてタービンを回し発電する。現在、世界の80%以上の原子炉が軽水炉であり、日本においても運転中の原子炉はすべて軽水炉である。電気事業連合会「軽水炉のしくみ」など参照。 [https://www.fepc.or.jp/supply/hatsuden/nuclear/shikumi/keisuiro/]
[4] Euronews “Russian cargo ship sunk off Spain carried nuclear reactors for North Korea, probe reveals” May 13, 2026. [https://www.euronews.com/2026/05/13/russian-cargo-ship-sunk-off-spain-carried-nuclear-reactors-for-north-korea-probe-reveals]
[5] 脚注4参照。
[6] 脚注1参照。
[7] 2026年8月2日、米国オースティンで開催された世界核物質管理学会年次総会の会場にて聞き取り。
[8] 読売新聞「金正恩氏が原潜の建造現場を訪問と朝鮮中央通信…ロシアから小型原子炉の提供を受けた可能性」2025年12月25日。 [https://www.yomiuri.co.jp/world/20251225-GYT1T00268/]
[9] [라이브] 2025 국정감사 국방위 : 韓国国会国防委員会における国政監査(YouTube) 2025年10月13日。潜水艦に関するやり取りは33~35分。発言要旨の日本語訳は笹川平和財団安全保障日米グループの李信愛研究員に依頼した。 [https://www.youtube.com/live/nA_awGBnk9A?t=1980s]
[10] KBS World “IAEA: Kangson Complex Shares Infrastructure Characteristics with Yongbyon Uranium Enrichment Facility” June/04/2024 [https://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=e&Seq_Code=185838]
[11] IAEA, “APPLICATION OF SAFEGUARDS IN THE DEMOCRATIC PEOPLE’S REPUBLIC OF KOREA,” 18 August 2025. [https://www.iaea.org/sites/default/files/gc/gc69-13_0.pdf]]
[12] “IAEA Director General Statement on Recent Developments in the DPRK’s Nuclear Program” December/21/2023 [https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/iaea-director-general-statement-on-recent-developments-in-the-dprks-nuclear-programme]
[13] 脚注11参照。
[14] 脚注7と同様。