衛星画像分析 2026/6/25
中国の核燃料再処理施設が稼働:核燃料サイクルの確立へ前進
1. はじめに
中国が内陸部の甘粛省に建設を進めていた核燃料再処理施設の第一工場が稼働したとみられることが衛星画像により確認された。2026年1月より、工場に隣接する蒸気発生設備から定期的に蒸気が発生しているのを観察できる[1]。再処理施設は原子炉で使用された燃料を化学処理し、プルトニウムやウランを分離、回収して核燃料として再利用するための施設である。その工程で熱が必要なため、ボイラーなど熱を作り出すシステムが動き、蒸気が定期的に排出される。再処理施設の稼働は、核燃料サイクルの確立に中国が一歩前進したことを意味する。
第一工場は、日本を含む世界各国で普及している軽水炉[2]と呼ばれるタイプの原子炉で使用された燃料を再処理する施設である。しかし、後述するように軽水炉サイクルのみでは、天然ウランを有効活用しきれない。核燃料サイクルを完成させ、ウランの利用効率を上げるには、挿入した燃料より多くの燃料を回収できる高速増殖炉(Fast Breeder Reactor:FBR)を稼働させ、その使用済み燃料を再処理する施設も整備する必要がある。高速炉サイクルを含めた核燃料サイクルを商業規模で確立した国はまだないが、ロシア、中国が先行している。中国については、これまで拙稿「中国の高速増殖炉から排水を確認:近く本格稼働」など当欄で取り上げてきたように、沿岸部の福建省にFBRを建設し、2023年夏から試運転に入った。中国は今後、FBRの使用済み燃料を再処理する施設を整備し、核燃料サイクルの完成を目指すとみられる。
高速炉サイクルも確立されれば、話は原子力技術の民生利用だけにとどまらない。再処理されたプルトニウムの軍事転用、それに伴う核軍拡が懸念される。軽水炉由来のプルトニウムが軍事転用に必ずしも適さないのに対し、FBRの使用済み燃料は再処理することにより、核兵器に最適な超高純度のプルトニウムを取り出すことができるためである。中国は福建省のFBRについて民生用であることを強調しているものの、米国防総省は、米国との戦力均衡を目指し、中国がこのFBRを核軍拡に向けたプルトニウムの供給拠点とする可能性を指摘している[3]。
本稿は新たな衛星画像や各種のデータを参照しながら、稼働を始めた中国の再処理施設の現状を分析する。続いて中国による核燃料サイクル確立への道筋を想定するとともに、核物質の軍事転用のおそれについて考察する。
2. 再処理施設整備の背景と現状
中国は1994年に初めて商用原発の運転を開始して以来、着実に原子力によるエネルギー供給を増やしている。CO2の排出を実質ゼロにするカーボン・ニュートラルを2060年に達成すると表明しており[4]、発電中にCO2を排出しない原子力をその手段の一つに位置付けている。2014~2023年の10年間で計38基の原子炉を稼働させ[5]、2026年5月現在、軽水炉を中心に、日本の4倍にあたる60基の原子炉を稼働させている[6]。
あわせて中国は、核燃料の基となる天然ウランの供給が将来不足するおそれを考慮し、使用済み燃料からプルトニウムを分離し、ウランと混ぜた混合酸化物燃料(MOX燃料)にして再利用する核燃料サイクルの確立を目指してきた。そのため、甘粛省にまず、軽水炉で使用された燃料を再処理する試験プラントの建設を進め、2010年頃に運転を開始したとされる。しかし、不具合が続き、同施設が通常運転に至ったのは2019年頃と推定されている[7]。
2015年以降、この試験プラントの近隣に、新たに再処理工場の建設が開始された。中国政府および運営主体となる中国核工業集団公司(CNNC)は詳細を明らかにしていないが、衛星画像の分析から第一工場は2020年2月までに土木工事の段階を終了し、機器設置の段階に入った。また、公式発表はないが、2020年頃には第二工場の建設が始まったとみられる。2021年に公表された甘粛省の投資計画によると、第一、第二工場を含む再処理工場整備の投資総額は3,000億元(約6兆円)と記載されている[8]。
衛星画像1に示すように、第一工場(青い囲み)は2024年中に完工状態になり、稼働時期が注目されていた。年間200トンのウランを再処理する能力を有する[9]。青森県六ケ所村の再処理施設の能力が年間800トンであり、第一工場は小規模の再処理施設と言える。第二工場(赤)も整備が進捗し、2030年代初頭までに運転開始が可能になりそうである。第三工場(緑)とみられる敷地はまだ屋根が敷設されていない施設が多く、完工まで時間を要するだろう。
衛星画像 1:甘粛省の使用済み燃料再処理施設
出典:Google Earth
衛星画像 2:蒸気発生施設
出典:Google Earth
衛星画像2は画像1の敷地のうち、第一工場の右下に位置する蒸気発生施設に焦点を当てたものである。黄色い囲みが上記を排出するスタック(塔)である。画像使用権の関係で蒸気が噴出している画像を表示できないが、今年1月以降、定期的に噴出している。
蒸気の排出は何を意味するのか。使用済み燃料の再処理は以下の四つの工程を経る。
- - せん断・溶解→使用済み燃料を細かく分断し、硝酸の中に浸す
- - 分離→硝酸によって溶解したウラン、プルトニウム、その他の核分裂生成物を分離する
- - 精製→ウラン、プルトニウムに含まれる微量な生成物を除去すると共に、硝酸液中のウランおよびプルトニウムを濃縮する。
- - 製品化→ウラン、プルトニウムを、燃料加工のためにそれぞれ酸化物にする。
最初の工程「せん断・溶解」において硝酸を90度ほどに温める必要があり、多数のボイラーを稼働させなければならない。そのため蒸気が発生する。これらの工程に続くMOX燃料製造工場(衛星画像1、オレンジ色の囲み)については、建物自体は完工状態であるが、画像のみでは稼働しているのかどうか、判別できない。
3. 核燃料サイクルの確立へ
第一工場は軽水炉サイクルと呼ばれる工程である。軽水炉の使用済み燃料から、まだ燃えるウランや新たに生成されたプルトニウムを抽出し、低濃縮ウランまたは、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料にして再利用する。第一工場の稼働は中国がこの工程を確立しつつあることを示している。一方、FBRは炉内での反応により、ブランケット燃料と呼ばれる燃料にはならないウランがプルトニウムに変化し、結果として挿入した燃料以上の燃料が生成される。つまり、軽水炉の使用済み燃料からMOX燃料を製造し、それを高速炉で燃やせば、核燃料が増えていくため、理論上は数千年にわたって原子力発電が可能になる(図1参照)。
こうしたことから、FBRは「夢の原子炉」と呼ばれてきたが[10]、炉を冷却するためのナトリウムの管理が難しいなど克服すべき技術課題が少なくない。米国は80年代にFBRの開発を中止し、英国、フランスは90年代、[11]日本も「もんじゅ」と呼ばれたFBRの廃炉を2018年に決めた。現在FBRを運転しているのは、中国やロシア、インドなど少数である。FBRの使用済み燃料の再処理についても、せん断・溶解の工程が軽水炉のそれと異なるなど、技術上のハードルがある。中国における軽水炉の使用済み燃料再処理施設の稼働までを振り返ると、試験プラントの運転開始から15年近くを要している。その過程で獲得した技術を一部応用できるとしても、FBRで使用された燃料の再処理施設が稼働するまで、時間を要すると見込まれる。
図 1:核燃料サイクルの概念図
出典:資源エネルギー庁
4. 軍事転用の懸念
中国がそうした技術課題を克服し、FBRの使用済み燃料の再処理を含めた核燃料サイクルの確立に至れば、プルトニウムの軍事転用が懸念される。図2にあるように、天然ウランを原料とする核燃料は、炉内での反応速度や挿入される時間によって、抽出されるプルトニウムの性質が異なる。軽水炉は反応速度が緩やかで燃料が挿入される時間も長いため、多くのプルトニウム同位体が生成される。その中で、エネルギー放出に優れた239の比率は50%にとどまり、自ら激しく熱を発する238を含有する。そのため、軽水炉では起爆装置のほか核弾頭の基幹部品を傷つけてしまうため、軍事転用には必ずしも適しない。一方、FBR由来のプルトニウムは238を含まず、239の割合が97%超である。
図 2:原子炉のタイプごとの抽出プルトニウムの組成
出典:筆者作成
米国防総省が、福建省のFBRについて、軍事用プルトニウムの製造拠点になる可能性を警戒するのはこうした事情による。それには、中国にも責任の一端がある。核拡散防止条約(NPT)で核保有を認められた5か国(米英露仏中)は国際原子力機関(IAEA)による核関連施設の査察を義務付けられていない。一方で「IAEAにおけるプルトニウム管理に関する指針(INFCIRC-549)」に基づき、民生用プルトニウムの保有量を毎年報告することになっている。したがって、製造されるプルトニウムが民生用である限り、中国も報告に差し支えないはずである。しかし、中国は2017年以降、理由を明確にしないまま、5か国で唯一、INFCIRC-549に基づく報告を停止した。今後も、FBRや再処理施設の動向について、抽出されたプルトニウム量を含め、中国は明らかにしない可能性が高い。
5. おわりに:核物質利用の透明性向上確保を
核物質の軍事転用が懸念される状況に対し、国際社会、および日本はどう対応するべきか。核物質利用の透明性向上に焦点を絞って訴えていくべきだろう。
中国が甘粛省の再処理施設やFBRについて民生利用に留めるのであれば、他国が口出しをすることではない。しかし、NPTで特別に核保有を認められた国が、IAEAへの報告を一方的に打ち切るなど民生利用と軍事利用の区別をあいまいにするような行為を続ければ、同条約を基軸とする国際的な核不拡散体制を揺るがすことにつながる。イランが高濃縮ウランを生産するなど核拡散のおそれが高まっている中ではなおさらである。日本はすでにNPT再検討会議などの場で中国に対しIAEAへの報告再開を呼びかけるなど問題提起しているが、その取り組みを継続するべきである。まずは国際社会に対し、IAEA報告への中国の不誠実な態度が国際的な核不拡散体制に影響する問題であることを強く提起することである。軍事転用の防止を目的とした核物質利用の透明性向上は、核保有国も反対を表明しにくい。日本は他の核保有国や西側諸国ばかりでなく、今後原子炉の導入が見込まれるグローバルサウスの国々にも、透明性向上で足並みをそろえるよう呼びかけるべきである。次に日中間での対話も必要である。現状の日中関係を踏まえれば、政府間の対話実現は難しいが、両国の原子力規制当局は「日中韓原子力安全上級規制者会合 (TRM)」[12]の枠組みなどで対話を維持している。そこから核物質利用の透明性向上について意見交換するとともに、日韓の規制当局が協力して中国に報告義務の重要性と不透明性からくる不信感の払しょくを訴えることが一手になる。
中国が高速炉サイクルを確立するまで時間を要する。その間に核物質利用の透明性をさらに高め、民生用技術を軍事転用しない国際原則を確立できれば、日本の安全保障環境の改善にも寄与する。
1 Hui Zhang, “China has started operation of its demonstration reprocessing plant,” International Panel on Fissile Materials (IPFM), May 13, 2026.[https://fissilematerials.org/blog/2026/05/china_has_started_operati.html]
2 原子炉は核燃料の分裂反応を効率よく起こすため、中性子の放出速度を落とす素材(減速材)に何を使用するかによって炉の名称が変わる。軽水炉とは、炉内を普通の水(比重が大きい重水と区別するため軽水と呼ばれる)で満たし、ウラン燃料を挿入する原子炉である。水が減速材の役割を果たしながら、熱で大量の蒸気を発生させてタービンを回し発電する。現在、世界の80%以上の原子炉が軽水炉であり、日本においても運転中の原子炉はすべて軽水炉である。電気事業連合会「軽水炉のしくみ」など参照。[https://www.fepc.or.jp/supply/hatsuden/nuclear/shikumi/keisuiro/]
3 Department of Defense “MILITARY AND SECURITY DEVELOPMENTS INVOLVING THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA 2024” December 2024, p. 101.[https://media.defense.gov/2024/Dec/18/2003615520/-1/-1/0/MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2024.PDF]
4 資源エネルギー庁「第2節 諸外国における脱炭素化の動向」[https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/1-2-2.html]
5 日本原子力産業協会「中国 商業用原子力発電所の運転開始から30年――原子力発電設備容量がこの10年で大きく拡大」2024年6月。[https://www.jaif.or.jp/information/china2024]
6 IAEA “Power Reactor Information System: China,”.[https://pris.iaea.org/PRIS/CountryStatistics/CountryDetails.aspx?current=CN]
7 張会(Hui Zhang)「中国のプルトニウム・リサイクル計画-現状と問題点」『New Diplomacy Initiative』2022, Vol.15, 1頁。[https://pris.iaea.org/PRIS/CountryStatistics/CountryDetails.aspx?current=CN]
8 松久保肇「憂慮される中国の核燃料サイクル施設」原子力資料情報室通信614号、2025年8月、12~13頁。
9 Hui Zhang, “Pinpointing China’s new plutonium reprocessing plant,” Bulletin of the Atomic Scientists, May 5, 2020[https://thebulletin.org/2020/05/pinpointing-chinas-new-plutonium-reprocessing-plant/]
10 「夢の原子炉 もんじゅ消滅で敷地片隅に新研究炉 地元は温度差」『毎日新聞』2022年4月30日(会員限定)。
11 日本原子力研究開発機構「世界の高速炉の廃止措置」[https://www.jaea.go.jp/04/monju/world_decommissioning/]
12 原子力規制庁「第 15 回日中韓原子力安全上級規制者会合(TRM)の結果概要」2025年7月30日。[https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100011973?contents=NRA100011973-004-009#pdf=NRA100011973-004-009]





