中国の政治・経済・社会・外交・安全保障についての分析を発信

SPF China Observer

衛星画像分析 2024/05/01

中国の高速増殖炉から排水を確認:近く本格稼働へ

小林 祐喜(笹川平和財団研究員)

1. 中国の高速増殖炉に関する最新動向

 中国が福建省の海沿いに建設している高速増殖炉(Fast Breeder Reactor:FBR)をめぐる情報が錯綜している。FBRは使用済み燃料を再処理することにより、核兵器に最適な超高純度のプルトニウム239を大量に取り出すことが可能である。同施設は米国との戦力均衡を目指し、中国が核軍拡を図るうえでプルトニウムの供給拠点となる可能性が指摘されており、笹川平和財団は継続的に同施設の衛星画像分析を実施し、2023年中に稼働する可能性を指摘してきた。一方、同施設の関係筋の証言として、運転計画の遅れを指摘する情報もある[1]。

 そのため、当財団は衛星画像分析を手掛ける原子力資料情報室の松久保肇事務局長、高速増殖炉の構造に詳しい日本核物質管理学会の岩本友則事務局長とともに、新たに入手した衛星画像を含め、あらためて同施設の動向を分析した。その結果、昨年夏以降、同施設から大量の排水が続いていることを確認できた。大量の排水は原子炉の温度が高まり、冷却のために海水を取り込み、炉の周辺に水を循環させて排出していることを意味するため、このFBRは試運転が開始されたと考えられる。

 本稿では、新たな衛星画像や各種のデータを参照しながら、中国のFBRの現状と注目点および今後の動向を考察する。

2. 中国のプルトニウム保有状況と核軍拡の可能性

 世界の核物質の動向を調査しているInternational Panel on Fissile Materials(IPFM)は2024年4月、各国のプルトニウム保有量の最新データを公表した(表1参照)。

表1:各国のプルトニウム保有量

国名 プルトニウム(Pu)保有量(トン) うち軍事転用可能なPu(トン)
ロシア 193 88
アメリカ 87.6 38.4
イギリス 119.6 3.2
フランス 98 6
中国 3 2.9
パキスタン 0.54 0.54
インド 10 0.7
イスラエル 0.9 0.9
北朝鮮 0.04 0.04

出典)International Panel on Fissile Materials(IPFM)

 米国防総省は、毎年議会に提出している中国の軍事動向に関する報告書「MILITARY AND SECURITY DEVELOPMENTS INVOLVING THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA」(2023年版)の中で、中国の現行のプルトニウム保有量や後述するFBRでのプルトニウム増産の可能性から、「現行の中国の核弾頭数は500発を超え、2030年までに1,000発を上回るだろう」と指摘した[2]。二大核兵器国の米国、ロシア間の新戦略兵器削減条約(New Strategic Arms Reduction Treaty、新START)は、両国の配備核弾頭数の上限を1,550発と規定しており、同報告書は、2030年代の早い時期に中国がこの数字に追いつく可能性を示したことになる。

 しかし、核兵器の運用・管理の面から、保有する核弾頭をすべて実戦配備するのは現実的ではない。米ロ両国は非配備の核弾頭を3,000発以上保有している。また、中国は同国より保有する核弾頭が少ないイギリス(225発)やフランス(290発)[3]よりも軍事転用可能なプルトニウム保有量は少ない。核兵器1基あたりに必要なプルトニウムは3.5キロ±0.5で換算されるため、中国は現行のままでは、1,500発弱の核兵器保有が限界になる。仮に米国並みの配備核兵器数を目指すのであれば、プルトニウム増産と非配備核兵器の増強が不可欠である。そのため、福建省のFBRに関心が集まっている。

3. 衛星画像分析から見える中国の高速増殖炉の現状

 IAEAのリポートによると、中国は2017年、福建省でCFR600(最大出力600メガワット)と命名したFBRの建設を開始した[4]。2022年12月28日には、ロシアの国営原子力会社「ロスアトム」が、FBRを運転するための初期装荷燃料を中国に納入したことを公表している[5]。笹川平和財団は、2023年10月、衛星画像の分析により、排気塔から蒸気が発生していることを確認し、炉が運転開始状態になったと判断した(拙稿「中国の高速増殖炉が稼働か:核軍拡加速のおそれ」参照)。しかし、中国政府、および運営主体となる中国核工業集団公司(CNNC)がCFRの動向を一切明らかにしていないうえ[6]、運転計画の遅れを指摘する情報もあり、あらためて専門家とともに、衛星画像の分析に当たった。

 排気塔からの蒸気排出を確認するには、解像度の高い良質の画像が必要だが、入手が難しい。そのため、今回は施設からの排水に注目した。高速増殖炉を含む原子力発電所では、炉に関連する設備が高温にならないよう、河川あるいは海からの大量の水を配管で循環させて冷却し、排出している。炉の運転中は大型の排水口から常時大量の水が排出されるため、通常画質の衛星写真でも、水の渦をはっきり識別できる。昨年末に、国際原子力機関(IAEA)が北朝鮮の寧辺(ニョンビョン)に建設中の実験用原子炉について、運転開始の兆候と公表した際も[7]、排水を根拠の一つに挙げている。CFR600についても、排水の有無は炉の運転を判断する材料になる。

 下の衛星画像はそれぞれ、2023年4月11 日、同7月22日、同10月16日、2024年2月27日に撮影された高速増殖炉の敷地(衛星画像1、2、3、4)である。CFR600は海沿いに設置され、冷却用に海水を利用している。炉が収容されている建屋の上部にある海に面した個所に注目していただきたい。

衛星画像1

出典)© Planet Labs

衛星画像2

出典)Sentinel2 原子力資料情報室・松久保肇事務局長提供

衛星画像3

出典)© Planet Labs

衛星画像4

出典)Sentinel2 原子力資料情報室・松久保肇事務局長提供

 衛星画像1の排水口を見ると、水面が平穏を保ち、水の渦は確認できない。画像2では、排水口から白い帯状の渦が伸びていることが確認できる。画像3、4でも同様のものが映っており、少なくとも2023年7月以降、CFR600から大量の水の排出が続いていることが分かる。

 松久保事務局長は「衛星画像分析の結果から、昨年夏には、中国の高速増殖炉で試運転が開始されたと判断できるのではないか」と指摘する。岩本事務局長も「600メガワット級の高速増殖炉の場合、炉の安全に必要な設備を冷却するため、毎秒50トン程度の海水を取り込み、循環させて排出する必要がある。昨夏の時点では、その機能・性能確認のためのテストだったかもしれないが、その後一貫して排水が続いており、炉が運転状態になっている可能性は極めて高い」と説明する。両者の分析を裏付けるように、先に紹介したIAEAのリポートはCFR600について「The first fuel loading will be launched at 2023」(最初の燃料は2023年に挿入される)と記載している。岩本氏は日本における高速増殖炉「もんじゅ」(最大出力280メガワット:CFR600の約半分)の運転開始からの経緯(表2)を参照しながら、「CFR600は昨年7月ごろ、炉内で核分裂反応が始まって以降、徐々に出力を上げ、現在、出力50%程度で実証運転中ではないか」との見通しを示す。中国と、CFR600用の燃料を供給したロシアは2023年3月の中ロ首脳会談において、FBRに関する協力協定を締結しており[8]、2024年中に最大出力に近い本格稼働に移行するとみられる。

表 2:「もんじゅ」の主な経緯

1991年5月 高速増殖炉建屋、タービン建屋完工
1992年12月 性能試験開始
1994年4月 初臨界(核分裂反応の開始)を達成
1995年7月 発電、送電の開始
1995年12月 出力40%で運転中、炉の冷却に使うナトリウムの漏洩により火災
が発生。長期の運転停止
2010年5月 運転再開
2010年8月 炉内に重さ約3.3トンの機器が落下。運転再停止
2016年12月 政府が「もんじゅ」の廃炉を決定

出典)日本原子力研究開発機構(JAEA)『高速増殖原型炉もんじゅ』を参照に筆者作成

4. 高速増殖炉および中国の核をめぐる今後の動向

 今後、中国におけるFBRの動向を追跡するうえで、注意を要する点が2点ある。

 一つは中国がFBRについて、あくまで民生用と主張していることである。ただし、中国や燃料を納入したロシアは核拡散防止条約(NPT)で特別に核兵器保有を認められた国であり、核物質の移動やFBRの運転についてIAEAの査察は義務付けられていない。両国が同施設についてほとんど情報を公開しない中で、民生用であることを国際社会にどのように示すのか。非核兵器保有国で唯一、使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出すことを認められた歴史を有する日本は、IAEAと協力しつつ、中国に問題提起する必要がある。

 次に軍事転用する場合でも、中国がすぐに大量のプルトニウムを獲得できるわけではないことである。西側諸国がすべてFBRの開発から撤退、あるいは開発計画を凍結しているように、FBRの運転には技術上の困難が伴う。さらに、炉内で生成されたプルトニウムはそのままでは核兵器に転用できず、再処理をする必要があるが、中国は再処理工場をまだ完成させていない。こうした事情を踏まえれば、中国がプルトニウムの大量生産体制を構築できるまで、数年を要する。その間、日本を含む国際社会が、中国、ロシアに加えて米国に核の軍備管理や核物質の適正管理に関する対話を呼びかけ、民生用技術を軍事に転用することや核軍拡の動きを抑制するよう強く働きかけるべきである。

(了)

1 「中国の高速炉、運転計画に遅れか 核兵器転用に日米欧警戒」(共同通信配信)『東京新聞』2024年4月3日。 [https://www.tokyo-np.co.jp/article/321079]

2 Office of the Secretary of Defense, “MILITARY AND SECURITY DEVELOPMENTS INVOLVING THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA 2023” p. 104. [https://media.defense.gov/2023/Oct/19/2003323409/-1/-1/1/2023-MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA.PDF]

3 核弾頭数については、いずれもストックホルム国際平和研究所(SIPRI) “SIPRI YEARBOOK 2023” を参照。 [https://www.sipri.org/sites/default/files/YB23%2007%20WNF.pdf]

4 IAEA, “IAEA Report DOC CFR600” [https://aris.iaea.org/PDF/CFR-600.pdf]

5 Rosatom, “ROSATOM ships fuel for China’s CFR-600 fast reactor launch” December 28 2022 [https://rosatom.ru/en/press-centre/news/rosatom-ships-fuel-for-china-s-cfr-600-fast-reactor-launch/]

6 同炉の開発を手掛ける中国核工業集団公司(CNNC)のウェブページでCFR600やFast Breeder Reactor (FBR) と検索しても、ヒット数0と表示される。英語版のアドレスは [https://en.cnnc.com.cn/]

7 “IAEA Director General Statement on Recent Developments in the DPRK’s Nuclear Program” December/21/2023 [https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/iaea-director-general-statement-on-recent-developments-in-the-dprks-nuclear-programme]

8 “China and Russia sign fast-neutron reactors cooperation agreement” March/22/2023 [https://www.world-nuclear-news.org/Articles/China-and-Russia-to-cooperate-on-fast-neutron-reac]

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