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日米・安全保障研究ユニット SPF China Observer

「聯合利剣2024A」演習にみる中国の台湾周辺軍事活動の三つのトレンド

―(その3)軍事行動の宣伝化―

杉浦 康之(防衛省防衛研究所 地域研究部中国研究室主任研究官)


2024.08.22
7分

3.軍事行動の宣伝化

 2022年9月のペロシ米国下院議長訪台時の演習や、昨年の「聯合利剣」演習と同様に、中国は国内メディアを活用し、東部戦区メディア中心が作成した映像を交えて、一連の演習内容を積極的に宣伝した。今回の演習では実弾演習は実施されていないにもかかわらず、こうした映像のなかには3Dアニメーションを利用した実弾発射の様子を流すものもあった[1]。また国防大学や軍事科学院の専門家が中国メディアに登場し、今回の演習の目的・内容・効果に関する解説を行った[2]。人民日報系メディア『環球時報』英語版は、台湾のネチズンのコメントに基づき、一連の演習による圧力を感じている台湾空軍は、若手パイロットが疲労困憊で罰金を払ってでも退職を希望していることで崩壊寸前であると報じた[3]。こうした一連の動向は認知領域での戦いを念頭に置いた輿論戦活動であると考えられる。

 情報戦・心理戦をベースとする認知領域での戦いの重要性はウクライナ戦争で注目された[4]。人民解放軍は認知領域での戦いを伝統的に重視し、輿論戦・心理戦・法律戦という所謂「三戦」を軍事作戦に取り入れている[5]。人民解放軍はウクライナ戦争での認知領域での戦いから教訓を得ているとされる[6]。

 人民解放軍は、こうした認知領域での戦いを物理領域(陸・海・空・宇宙)と情報領域(サイバー空間・情報次元)と一体化して展開する[7]。こうした物理領域・情報領域・認知領域の関連性を概念化したものが図-2である。

図-2 中国人民解放軍の戦力概念と作成領域概念

(出所)読売新聞の報道を基に、各種資料や報道を加味して、筆者作成。

 物理領域での戦いは破壊活動を伴う武力行使であり、主たる戦力は陸海空の各種アセット(ミサイル戦力も含む)による機械化戦力(火力・機動力)と無人機等の智能化戦力が担う。仮想空間は情報領域と認知領域に分けられる。情報領域では、C4ISR能力や偽情報作成を主な内容とし、情報システムやサイバー攻撃・宇宙アセット・電磁波などの情報化戦力とAI・無人機・量子暗号技術などの智能化戦力が主たる戦力となる。認知領域は「三戦」を主たる内容とし、メディア・SNS・情報統制などの情報化戦力や情報拡散をするAIなどの智能化戦力が主たる戦力となる。

 物理領域・情報領域・認知領域での戦いは各々の成果を最大化すべく一体化して行われる。人民解放軍は機械化戦力・情報化戦力・智能化戦力を掛け合わせて物理領域・情報領域での相手への破壊・麻痺を行ったうえで、その効果を最大化するために情報化戦力と智能化戦力を掛け合わせて認知領域での相手の制圧を企図している。

 今回の演習は、2022年、2023年に行われた台湾周辺での大規模演習同様、こうした中国人民解放軍の軍事力運用方針に沿ったものであった。中国人民解放軍は陸・海・空・ロケット軍を投入し、その軍事力を誇示するとともに、虚実を織り交ぜた報道を展開して台湾と米国及びその同盟国を牽制しようとしたのである。

結論

 「聯合利剣2024A」は規模こそ小さかったものの、中国人民解放軍が習近平体制下で力を傾注してきた「システム体系作戦」構想と「一体化統合作戦」構想を体現した演習であった。また今回の演習において、2018年3月に武警を通じて中国人民解放軍の指揮下に編入された中国海警局と中国人民解放軍の連携は、2020年段階で指摘されていた、①遠海での法執行活動能力、②軍・武警・海警を繋ぐネットワーク情報能力、③中国海警局と中国海軍による統合された状況統制能力、④法執行体系の整備、という課題を克服しつあることを示した。そして中国人民解放軍は、今回の演習でも、機械化戦力・情報化戦力・智能化戦力を掛け合わせて物理領域・情報領域での相手への破壊・麻痺を行ったうえで、その効果を最大化するために情報化戦力と智能化戦力を掛け合わせて認知領域での相手の制圧を企図するという軍事力運用方針に沿った宣伝化を行った。さらに中国人民解放軍は「聯合利剣2024A」が終了した後も台湾周辺での軍事活動を継続し、台湾及び米国への牽制を継続している。

 このように「聯合利剣2024A」は、前年の「聯合利剣」と同様、常態化・実戦化・宣伝化という特徴が顕著であった。こうした傾向は今後も継続し、強化されているものと思われる。その意味では今後実施されるであろう「聯合利剣2024B」や「聯合利剣2024C」の動向には、その規模の大小にかかわらず、注意していく必要があろう。

 (了)

[1] 「東部戦区位台島周辺開展展聯合演訓」、「独家視頻:多科目、高強度!東部戦区位台島周辺演習最新現場」、「撃“台独大本営” 多軍種聯合打撃3D虚実動画発布」、「直撃現場!東部戦区持続位台島周編開展“聯合利剣—2024A”演習視頻発布」

[2] 「国防大学張弛:解放軍掌控整個台海戦場主動権」、「“聯合利剣-2024A”演習距距台島很近有何深意?専家解析」、「“毁、困、阻”一体設計!解放軍解在台島周辺開展聯合演訓 専家:已具備対全島全方位無死角打撃能力」。

[3] GT, May 27, 2024.

[4] 大澤淳「新領域における戦い方の将来像―ロシア・ウクライナ戦争から見るハイブリッド戦争の新局面」、高橋杉雄編『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか デジタル時代の総力戦』(文藝春秋社 2023年)、145-180頁。

[5] 山口信治主編『中国安全保障レポート2023 認知領域とグレーゾーンの掌握を目指す中国』(防衛省防衛研究所 2022年)、34-42頁。

[6] 曾怡碩「俄烏戦争中双方認知作戦対共軍的啓示與調整」『中共研究』第57巻第3期、2023年9月、125-126頁。

[7] 荊元宙・五十嵐隆幸「中国が目指す非接触型「情報化戦争」―物理領域・サイバー領域・認知領域を横断した「戦わずして勝つ」戦い―」『安全保障戦略研究』第4巻第1号、2023年12月、21-26頁。


論考(中国・台湾) 日米・安全保障研究ユニット
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