笹川平和財団・安全保障研究グループは2020年6月17日、
「世界の核軍縮・核不拡散への日本の貢献 ~唯一の戦争被爆国としての責任を果たす政策を~」と題した提言書を公表しました。提言書は同グループが設置した「新たな原子力・核不拡散に関するイニシアチブ研究会」が作成したもので、オンライン会議システムによる説明会にはメディア関係者、核不拡散・軍縮に関わる研究者が参加しました。
研究会の提言書は今回が第三弾となります。冒頭、当財団の田中伸男会長(現顧問)は「原子力については福島原発事故を反省する中で、いったいどういうことを考えていけば良いのか、ということでさまざまな研究を行ってきた」と研究会の活動概要を説明しました。そして、日本が青森県において大量のプルトニウムを保有し、海外にも再処理を依頼して保管していることに対し、原子力の平和利用への疑念が海外に存在する可能性があることから、提言書の第一弾として「プルトニウムの国際管理に関する日本政府への提言」を作成し、続く第二弾の提言書として、2018年以降に米国と北朝鮮が直接対話を始める中で、日本がどのようにして朝鮮半島の非核化にかかわるのかを主眼に、「北朝鮮非核化への日本の役割」をまとめたことを紹介しました。
さらに、今回の「世界の核軍縮・核不拡散への日本の貢献」に関しては「広島と長崎への原爆投下、被爆国である日本が、核拡散防止条約(NPT)体制に対してどう向き合うべきかを提言するために作成した」と述べました。
続いて鈴木達治郎・長崎大学教授(研究会座長)と西田恒夫・元国連大使(研究会幹事)が、提言の内容と核不拡散に関する世界の現状を専門家の視点から説明しました。
鈴木氏は、提言書が大きく2つの提言で構成されていること、そのポイントとして「米ロ両国が小型核兵器の開発を進めるとともに、核兵器の使用も辞さずという政策を取っている中で、核リスクを低減するために核兵器の『先行不使用(No First Use)』、および核兵器の使用を相手国の核兵器使用に対する報復に限定する『唯一の目的』を支持することを日本に求めた。日本政府はこれまで明確には支持しておらず、新しい提言として入れた」と述べました。
また、提言書では、核兵器禁止条約(TPNW)の加盟に向け、日本は条件が整うまでオブザーバー国として条約の締約国会議に参加し、支援に向けた取り組みを行うよう政府に求めており「日本は消極的な態度を根本的に見直し、署名と批准に向けた取り組みを今こそ始めるべきだ。署名した場合の影響や日米安保条約との整合性、これらを独立的に検討する諮問会議の設置も提言している。最終的には核抑止力に依存しない安全保障環境を構築することが大事だ」と指摘しました。
こうした提言の背景となる国際情勢について鈴木氏は、核軍縮を支えてきた米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)が2021年2月に期限切れを迎え、核兵器禁止条約(TPNW)の批准国が増えて条約発効に必要な50カ国の批准の見通しが出てきたことを挙げ、「日本がどう向き合うかが問われている」と強調しました。
西田氏は「核不拡散を取り巻く世界の状況は停滞しており、むしろ核拡散に逆戻りしかねない状況だ。戦後日本の外交の柱となったのは広島、長崎の体験であり、軍縮を進めるよう世界に働きかけることが戦後の日本の国の在り方だ。世界の現状は核兵器国、その抑止力に加護されている国と、抑止力に依存しない非核兵器国との間に溝ができていて、国際世論が分断されかねない状況にある」と述べ、日本が「橋渡し役」を務める必要があるとの認識を示しました。