政治におけるジェンダーパリティの向上を目指して——女性政治家の育成に向けたパリテ・アカデミーとの協力

2020.05.22

政治家を目指す女性を対象にした実践トレーニングの様子

政治家を目指す女性を対象にした実践トレーニングの様子

 政府から企業の経営層にいたるまで、世界中のありとあらゆる分野において、リーダーシップを執る立場の女性は依然として少ない状況にあり、慢性的な課題となっています。中でも政治における女性のリーダーシップは強化の余地が多分にあります。主権国家の議会による国際的組織である列国議会同盟(IPU)が2019年に出した各国議会の女性進出に関する調査報告書によると、アジア地域における女性の議員数は国際標準を下回っており、日本は193カ国中165位と、20カ国・地域(G20)の中で最も少なくなっています。

 政治分野におけるジェンダーギャップへの知見を深め、女性議員を増やす支援策の一環として、笹川平和財団のアジア事業グループは一般社団法人「パリテ・アカデミー」と、今後のアジアにおける女性の政治参画をテーマとした合宿形式のイベントを共催しました。次世代の女性リーダーを鼓舞し、政治の世界で活躍する上で必要なスキルを身につけてもらうことを目的としたものです。

 「合宿」は2019年9月6日から3日間にわたり、専門家を招いてのセミナーを皮切りに始まりました。初日のセミナーでは、マレーシアの女性議員で閣僚にまで昇進したズライダ・カマルディン住宅・地方自治大臣を招いての基調講演のほか、三浦まり上智大学教授、申琪榮お茶の水女子大学准教授の進行のもと、日本と韓国における女性政治家の現状についてのディスカッションが行われました。その後、三浦教授と申准教授が共同代表を務めるパリテ・アカデミーによって、政治家を目指す女性を対象とする「第2回リーダーシップトレーニング」が実施されました。

「女性派」から権力の座へ

自らの政治キャリアを振り返るマレーシアのズライダ・カマルディン住宅・地方自治大臣

自らの政治キャリアを振り返るマレーシアのズライダ・カマルディン住宅・地方自治大臣

 パネルディスカッションに先立ち、ズライダ大臣が新政党の新人時代からマレーシア政府の主要閣僚になるまでの自身の道のりを紹介しました。1999年、当時結党間もなかった国民正義党(のちの人民正義党(PKR))の調査員として政治の世界での第一歩を踏み出したズライダ大臣。その後、党内で着実にステップアップを重ね幹部となり、やがて女性部長となります。 

 しかし、それからほどなく、ズライダ大臣は政党の中枢に入ることを目標に定めます。「女性派の一員でいるだけでは限界があると気づいた。意思決定できる地位に就くには、戦略的に行動する必要があった」と、当時の心境を振り返りました。そして、2008年には首都クアラルンプール郊外のスランゴール州アンパン選挙区から立候補して議席を勝ち取り、国会議員へと飛躍しました。

 政治家としてのキャリアの中で、ズライダ大臣は政権のあらゆるレベルにおいて一貫して女性を擁護し、次世代を担う女性たちに対する指導について熱心に取り組んできました。2018年5月から率いる住宅・地方自治省のトップとして、ズライダ大臣は省内の採用担当チームに対し、すべての採用枠において有能な女性候補を探すよう指示しています。「適任者の女性を探し出すことは、干し草の山から針1本を探し出すように大変なことだとしても、そうしてほしい」と粘り強く伝えているといいます。大臣の管理下にある155の地方自治体では、任命される議員の30%以上が女性になるよう、規定で定められています。

 女性議員を増やそうと努めることは、女性だけではなく社会全体の利益になると大臣は主張します。「大事なのは男性と張り合うことではなく、最高の地位を得て満足したいと願うことでもない。大切なのは、国全体の発展につながるよう、国のために最善を尽くし、女性の潜在能力を最大限に引き出すことである」と大臣は説明しました。

*参考:ズライダ大臣のスピーチ全文については、こちらをご覧ください。

アジア全域に根強く残る政治におけるジェンダーギャップの課題

 ズライダ大臣は女性の強力な支持者で、女性の政治参加を積極的に推進する施策を講じ、政府高官としての範を示してきました。その一方で、指導層が政策を遂行しなかったり、参画団体が政策に従わなかったりなど、ジェンダーパリティ(公正・同等)の向上政策を実行する上で課題も多く残っているのが現状です。 

 韓国では、国政選挙と地方選挙への女性の参画促進を目的とし、選挙における候補者の一定割合を女性とするよう規定したクオータ制が存在するにもかかわらず、国会における女性議員の割合は2019年時点で未だ17%前後と停滞しています。申准教授は「この状況を生み出している主な理由は、クオータ制を順守しなくても罰則がないため、各政党が規則を避けて通っているからです。クオータ制は法律とはいえ努力義務でしかなく、政党もクオータ制に従おうと努力する必要性を感じていない」と、韓国の現状について解説しました。また、これまでに女性候補者数がクオータ制で規定されている最低比率を上回ったのは1党しかないとも指摘し、「クオータ制が完全に順守されれば、国会における女性議員比率は、おそらく40~50%になるでしょう」と述べました。 
申琪榮准教授(左)と三浦まり教授

申琪榮准教授(左)と三浦まり教授

 続いて、三浦教授が日本の現況について説明し、特に地方における政治参画のジェンダーギャップの存在を強調しました。大都市圏では女性議員の比率が30%を超える議会もあるものの、遠隔地の地方議会のうち約4分の1で女性議員がゼロ、1名しかいない地方議会も4分の1となっています。日本政府はこの問題の解決に向けてさまざまな方策を進めてきました。そのうちの一つが、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」(2018年5月施行)です。この法律は、強制力がないとはいえ、男女の立候補者に均等な機会を与えるよう政党に促すことなどを目的に制定されました。それにもかかわらず、同法の施行後初の大型選挙となった2019年7月の参議院選挙では、与党である自由民主党からの女性立候補者は15%、公明党からはわずか8%でした。

 依然として課題はあるものの、三浦教授は楽観的にみており「数値目標は確かに大切です。この法律をきちんと守ろうと各政党が競って努力を重ねていくかもしれません」と述べました。また、文化的な動きが広まりを見せる中で、日本や韓国をはじめとする各国で、ジェンダーの不平等問題に市民が目を向けるようになってきています。こうした流れの背景には、公職選挙における女性の立候補者数の増加、政党内でのジェンダー問題に対する注目度の高まり、そしてメディアで報じられる女性の生き方の多様化といった影響があります。

次世代の政治を担うリーダーの動機付けとトレーニング

パリテ・アカデミーが行うトレーニングでのブレインストーミングの一コマ

パリテ・アカデミーが行うトレーニングでのブレインストーミングの一コマ

 政治参画にまつわるジェンダー問題を解決するには、政府によるトップダウン型の介入に加え、次世代の政治を担うリーダーの卵に公職選挙に立候補する上で必要なスキルを習得してもらい、立候補の志望者を増やして裾野を広げることも欠かせません。

  三浦教授と申准教授は、政治家を志望する女性を対象に、トレーニングと能力強化を目的とした「パリテ・アカデミー」を2018年3月に創設しました。今回のイベントには日本から24人、マレーシアからオブザーバー5人、カンボジアを拠点とするオブザーバー1人が参加しました。マレーシアから参加したのは、若い女性による政治参画を推進している「Girl2Leaderプログラム」のメンバーです。

 パリテ・アカデミーの研修は、笹川平和財団アジア事業グループの堀場明子主任研究員と共にオブザーバー参加した米ラトガース大学で行われている「Ready to Runプログラム」をモデルにしています。このプログラムは、米国の20以上の州で運用されていますが、これを足掛かりにパリテ・アカデミーは、実践的アプローチを通じて参加者のスキルを向上させることに取り組んでいます。例えば、政治綱領をキャッチーでコンパクトな1分間のスピーチにまとめ、本格的な選挙運動のシミュレーションも行っています。笹川平和財団とパリテ・アカデミーが共催する合宿はこれが2回目ですが、新たに加わったプログラムの項目として、SNSの活用方法についての個別指導、発声と姿勢の指導、複雑な日本の公職選挙法や選挙に向けた準備ついての速習コースなどが組まれました。トレーニング合宿は着実に成果を上げています。2018年の第1回トレーニングに参加した28人のうち、7人が選挙に立候補し、そのうちの4人が当選を果たしました。
よだかれん新宿区議会議員、篠原ゆか昭島市議会議員、 上田令子東京都議会議員(左から)

よだかれん新宿区議会議員、篠原ゆか昭島市議会議員、 上田令子東京都議会議員(左から)

 このプログラムでは、女性が政治の世界に挑戦したくなるような明確な「ロールモデル」を提供することにも努めています。現職の国会議員をはじめとする著名な女性政治家のインタビューをまとめたビデオを上映した後、現職の女性地方議員3人によるパネルディスカッションを行いました。ゲストは東京都議会の上田令子議員、昭島市議会の篠原ゆか議員、そして2018年に行われた「第1回パリテ・アカデミー トレーニングプログラム」の卒業生で、新宿区議会のよだかれん議員。3氏は立候補の経緯、政治家として働くことの苦労、やりがいについて自身の経験を語り、実践的な知識と有権者の心に訴えるスキルなどについて指導したほか、選挙演説のデモンストレーションも行いました。

 合宿を通じ、3人の女性政治家からのアドバイスが最も印象的に残った、と多くの参加者が答えていました。3氏の話し方からにじみ出るパワーに強い印象を受け、人と人とのつながりの大切さを強調していたことが特に心を打った、とのコメントや「政治の世界を目指すことは困難な目標ではなく、自分にも達成できそうだと思えるように3人とも話してくれたことに感銘を受けた」という声もありました。
ディスカッションを行うヌライニ氏(中央右) とオブザーバー代表団

ディスカッションを行うヌライニ氏(中央右) とオブザーバー代表団

 また、マレーシア代表団のメンバーで「Girl2Leaderマレーシア」の代表を務めるヌライニ・ハヅィカ・シャフィー氏は、トレーニング全体を通じて普遍的なメッセージに気づいたとコメントしました。特に、政治家を目指す動機や議員になるための訓練の場が不足している点を指摘し、「これは日本に限らずマレーシアも含め、あらゆる若い女性にとって問題である。若い女性は討論の場と機会を求めている」と述べました。今後、同様のトレーニングをマレーシアで実施する計画も進行しています。

 また、参加者の1人は、今回のトレーニングを通じて、自己意識を強く持ち続けることの大切さを学ぶことができ、これから議員を目指しながら、同時に子育ても両立する可能性を感じられた、と振り返りました。さらに「その面で今後のお手本になる人にたくさん出会えた。将来、実際に立候補するチャンスが巡ってきたらチャレンジしてみたい」と、意気込みを語りました。

 参加者はグループに分かれ、市議会議員選挙に向けた本格的な模擬選挙運動を行うという課題に取り組みました。前日のセッションで学んだ内容を実践する機会となるよう、各参加者に選挙事務長、広報担当、資金調達担当、候補者のいずれかの役割が割り当てられました。ほとんどの「陣営」が夜遅くまで、そして翌日の朝まで、自分たちの選挙スローガン、集票戦略、資金調達の方策などについて熱心に議論を重ねました。

 プレゼンテーション後の総括では、講師陣から「(参加者の)一人ひとりがトレーニング全体を通して学びとった知識を模範的に実践できていました。各参加者は割り当てられた選挙区のニーズを分析・把握する力を備えており、具体的な政策ビジョンを伴った独自のスローガンを策定できていた点が特に素晴らしかった」と評価され、研修は締めくくられました。
(英文ウェブサイト編集長 ジャッキー・エンズマン)

**原文となる英文記事につきましては、こちらをご覧ください。

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