2025年以降の世界の紛争、国際危機グループ 理事長コンフォート・エロ氏
世界が直面しているグローバルな危機とは何か、そして日本にどのような影響を及ぼすのか。国際危機グループ理事長のコンフォート・エロ氏と笹川平和財団の西田一平太上席研究員がこのテーマについて掘り下げ、ヨーロッパと中東で進行中の紛争、米中対立の激化、そしてトランプ2.0、グローバル・サウスへの影響などについて語り合いました。
遠藤氏 大変な親日国だと感じました。国民皆兵的な「全人民が戦闘員だ」という説明を随所で聞きましたが、むしろベトナム戦争を知らない世代が台頭してきており、国民が戦闘員として国に奉仕するということを、当たり前なこととして感じていない世代が増えてきている気もしました。人民全員が戦闘員だということを私たちにことさら説明するというのは、逆に国民統合に悩んでいるのかなという感じもしないではないです。ベトナム戦争などを経験してきたベトナムのしたたかな生き方も感じました。
中国に非常に気を使っているところも見えましたが、それは当然です。中国と海で隔てられた日本とは違い、中国はベトナムとは地続きの隣国ですから。一方で、ベトナムの姿勢は社会主義国であるがゆえにブレがなく、信頼できます。
――今後、自衛隊とベトナム人民軍との協力を、どのように進化させていけばいいと考えますか
遠藤氏 あくまで個人的な見解ですが、例えば航空救難や水中不発弾の処理、PKO(国連平和維持活動)があろうかと思います。こうした協力から入るのがいいのではないでしょうか。ベトナムはとくにPKOに注力しようとしており、熱意が伝わってきます。PKOはある意味、日本の「お家芸」なので、いっそう協力できるでしょう。
ベトナムが今、関心をもっているのは早期展開プロジェクトです。自衛隊はすでに、RDEC(国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト)の枠組みでベトナムのお手伝いをさせていただいています。RDECは、日本の資金で国連がドーザーやバケット、グレーダーなどの重機を購入し、そうした機材を操縦、整備できる人材を育成するために、自衛隊が教官を派遣しています。昨年は私の同期がベトナムを訪れ、軍に東ティモールでの経験をレクチャーしています。
私は前職が北海道恵庭市の第3施設団長で、昨年はケニア、今年はウガンダに対するRDECに携わっていました。ベトナムは中部方面隊が支援しています。工兵部隊をPKOに派遣する意思があるベトナムに能力を付与し、インフラ整備に従事する人材を育成しているわけですが、協力のステージはさらに上がるかもしれません。
――日越佐官級交流事業そのものについての評価は
遠藤氏 よく積み上げられてきた事業だと思います。5年前には、日越関係がこれほどまで成熟するとは予想されていなかったでしょうが、防衛協力と軍種交流が進み活発化したのは、笹川平和財団の事業が果たしている役割が小さくない。日越佐官級交流事業の意義はベトナム人民軍の中枢部でもかなり理解されていると思います。そして、交流事業に参加した「卒業生」たちが、責任ある部署におり活躍されている。これは自衛隊もそうです。歴代の団長はそれぞれ枢要な地位に就いて活躍しています。それもあってこの事業は良く理解されており、もしかすると私たちの方が、(当局間による)ハイレベル交流よりも見ることができたのかもしれません。それほどベトナム側には胸襟を開いてフランクに対応していただいた。我々の発言や考え方に対するベトナム側の受け止め方を聞けたことは有意義で、日本に帰ってからも役立つと思います。
私は陸上幕僚監部装備計画課で、防衛生産技術の移転などをやっていました。タイやベトナムなど東南アジアからの引き合いが強いのですが、こうしたものは日本の省庁間の理解が必要ですし、許認可官庁が足並みを揃えて進まなければできない。しかし防衛交流、3軍種交流では1.5トラックも有効です。どこの基地を視察するかなどを調整する段階で、日越当局者同士のすり合わせができているということにも、大きな意義があると思います。
また今後は、両国の意図をほぼ組んだ水先案内的な役割ということも、この事業だからこそできる気がします。