豪州議会は、提案されているAustralia-Vanuatu Nakamal Agreement(以下、ナカマル協定)に関する審査について意見提出の受け付けを開始した。Joint Standing Committee on Treaties(JSCOT)は、この協定が太平洋地域における豪州の安全保障上の利益を前進させるかどうかを審査する予定である。
豪州議会によると、同委員会はこの協定に関する審査を開始した。この協定は、豪州とバヌアツの双方に新たな義務とコミットメントを設けることにより、両国間の安全保障関係を強化することを提案している。
声明によれば、この協定の下で、バヌアツは自国の領土が外国の軍事基地として利用されることを防止することを約束し、一方で豪州は警察活動、開発支援および災害対応における支援を拡大することになる。
「ナカマル協定は、双方の当事者に新たな義務とコミットメントを設けることにより、豪州とバヌアツの安全保障関係を発展させることを提案している。」
また、提案されているコミットメントには、「バヌアツが自国領土の外国軍事基地への利用を防止することを約束すること、および豪州が警察活動、開発支援、災害対応に関する支援を増強すること」が含まれるとしている。
同委員会は、この協定が太平洋地域における豪州の安全保障上の利益を強化するかどうかを評価する。
豪州議会は、この協定およびその影響について、個人および団体からの意見提出を呼びかけている。
意見提出の受付は2026年7月29日(水)まで行われ、同委員会のウェブサイトを通じてオンラインで提出することができる。同ウェブサイトでは、条約全文、National Interest Analysis、および意見提出に関する案内も閲覧可能となっている。
ナカマルとは、バヌアツにおける伝統的な集会所を意味しますが、一般にはカバを飲む場所として広く知られています。ナカマル協定(https://www.dfat.gov.au/countries/vanuatu/vanuatu-australia-nakamal-agreement)では、「ナカマルという概念は、地域社会とその指導者たちが、相互の尊重、信頼、理解のもとで議論し、協議し、決定を下し、意見の相違を解決する伝統的な集いの場を意味する」と明記されています。
全12条から成る協定の内容からは、豪州の強い関与の意思と、それに対するバヌアツの警戒感およびしたたかな交渉姿勢を読み取ることができます。
バヌアツは自国の主権を強く強調するとともに、豪州先住民との歴史的なつながりや、「ブラックバーディング」と呼ばれる負の歴史にも言及しています。一方で、豪州からは、バヌアツ国内の労働市場への支援、デジタル経済への参画促進、経済および財政の安定化に向けた予算支援などの協力を取り付けました。さらに、気候変動対策として2050年までの経済のネットゼロ達成に向けた再生可能エネルギーの拡大支援、大規模自然災害や人道危機発生時の人道支援(豪州が対応できない場合には、バヌアツが第三国に支援を要請できることを含む)、ならびに豪州を訪問するバヌアツ国民に対する移動の円滑化措置なども盛り込まれています。
その一方で、バヌアツは、投資を通じた市民権取得を他の市民権取得形態と明確に区別するための効果的な制度整備を約束しています。これは、いわゆる「パスポート販売」に対する懸念への対応と位置づけられます。
とりわけ注目されるのが、安全保障分野に関する規定です。第7条「安全保障と安定」では、「太平洋地域の集団的安全保障と主権を強化するため、バヌアツは自国の領土が外国の軍事基地または軍事インフラとして使用されることを許可してはならない」と規定しています。また、「豪州をバヌアツの長年にわたる主要な警察協力パートナーとして認識し、バヌアツは太平洋諸島フォーラム加盟国からの警察協力要請への対応を優先する」と定めています。さらに、両国は警察訓練・装備、警察活動、海上安全保障、サイバーセキュリティ、情報協力、インフラ分野におけるバヌアツ警察への支援強化に合意しました。
加えて、第8条「強靱なインフラ」では、重要インフラに対する新たな安全保障上およびサイバー上の課題を認識した上で、バヌアツは自国の重要インフラが軍事化、外国による干渉、あるいは無断アクセスから保護されることに同意しています。また、重要インフラへの第三者の関与が提案された場合には豪州と協議することを約束し、豪州はこれに対して技術的助言および実務的支援を提供することとされています。
特に第7条および第8条は、実質的に中国による安全保障分野および警察部門への関与を抑制する枠組みを構築するものと評価できます。
豪州は、ツバルとのファレピリ連合条約(2023年11月締結)、ナウル・豪州条約(2024年12月締結)、パプアニューギニアとのプクプク相互防衛条約(2025年10月締結)に続き、約1年間にわたる交渉を経て、2026年6月29日にバヌアツとのナカマル協定の締結に成功しました。
さらに豪州は、フィジーとのブバレ協定の改定や、ソロモン諸島との協定改定も模索しています。これらが実現すれば、近年の中国による地域の安全保障・警察分野への関与拡大や、それに対する一部太平洋島嶼国の曖昧な対応によって脆弱化が懸念されていた地域安全保障基盤の強化と安定化につながる可能性があります。
中国と国交を有する太平洋島嶼国にとって、中国が依然として重要な経済開発パートナーであることに変わりはありません。しかし、近年の米国による米国自由連合国とのコンパクト改定や一連の豪州の取り組みは、中国が経済分野では重要な役割を果たし得る一方で、戦後長年にわたり構築されてきた地域安全保障体制には関与すべきではないというメッセージを含んでいると考えられます。
(2026年7月6日 塩澤英之 海洋政策研究所島嶼国・地域部部長)