マリア・ショー氏署名記事
アナリストらによれば、中国が最近、ツバル近海に向けてミサイルを発射したことへの対応をめぐり、太平洋島嶼国は安全保障上の課題に直面している。また、「平和の海洋(ocean of peace)」という地域ビジョンを維持しようとする中で、各国と北京との関係が多様であることが、統一した対応を難しくしているという。
7月6日、中国は海軍の原子力潜水艦の1隻が模擬弾頭を搭載した「戦略ミサイル」を「太平洋上の関連する公海」に向けて発射したと発表した。中国側はこれを年例の通常軍事訓練であり、国際法を順守したもので、「特定の国や目標を対象としたものではない」と説明した。
北京は関係国に事前通告を行ったとしている。しかし、一部の政府関係者は通知期間の短さを批判しており、この措置は太平洋諸国やそのパートナー国の懸念を十分に和らげるには至らなかった。
ミサイルは、ソロモン諸島の北東約1,000キロメートル(621マイル)に位置するツバルおよびキリバスの排他的経済水域(EEZ)近くに着弾したとみられている。
太平洋地域では、20世紀後半に米国、英国、フランスが数百回に及ぶ核実験を実施した歴史があるため、長年にわたりミサイル実験に対して慎重な姿勢を取ってきた。
ツバル、パラオ、ソロモン諸島の首脳らは中国のミサイル実験を強く非難した一方で、水曜日にフィジーのスバで開かれた18か国加盟の太平洋諸島フォーラム(PIF)は、これに対する共同声明をまとめることができなかった。
加盟国は今後、スバで開かれる外相会議や、8月30日から9月4日にパラオで開催される首脳会議でこの問題を再協議する見通しだ。
パプアニューギニアのDivine Word Universityで国際関係論を教えるバーナード・シング・イェギオラ氏は、多くのPIF加盟国が中国と強固な二国間関係を維持していると指摘した。
パプアニューギニアは当初、中国のミサイル実験を批判したが、その後、ポートモレスビーの台湾経済文化事務所を閉鎖し、「一つの中国」原則への支持を再確認した。
イェギオラ氏は「これら二つの出来事を直接結びつける証拠はないが、そのタイミングは、中国との二国間関係がパプアニューギニアや他の加盟国の政策判断に影響を及ぼしている可能性を示唆している」と述べた。
さらに同氏は、「こうした各国の異なる国益が、PIFによる共通の立場形成を難しくしている」と語った。
中国は外交関係を結ぶ国に対し、「一つの中国」原則を認め、台湾が中国の一部であることを承認し、台湾と公式関係を持たないことを厳格に求めている。
イェギオラ氏によれば、過去に米国が太平洋で実施したミサイル実験についても、PIFが共同対応を示したことはなかった。ワシントンと北京はいずれも、太平洋島嶼国が地域内での核実験に長年反対してきたことを認識しているという。
1946年から1996年にかけて、米国、英国、フランスは太平洋地域、とりわけ仏領ポリネシアおよびマーシャル諸島で300回以上の核実験を実施した。その結果、放射能汚染、大規模な住民移住、高いがん発生率、そして世代を超えた精神的トラウマが残された。
こうした核実験への対応として締結された1985年のラロトンガ条約は、核実験や放射性廃棄物・有害物質の海洋投棄を禁止し、加盟国に核不拡散を義務付けるとともに、核保有国に対して地域を非核地帯として尊重することを求めている。
主に南太平洋諸国で構成されるこの条約には、フランス、英国、米国、中国、ロシアという5つの核保有国も署名している。
シドニーに本拠を置くLowy Instituteの太平洋諸島プログラム・ディレクターであるオリバー・ノベタウ氏は、中国によるミサイル実験に関してPIFが声明を出せなかった背景には、この地域の多様性があると指摘した。気候変動や漁業といった分野では合意形成が可能だが、それ以外では難しいという。
ノベタウ氏によれば、これらの国々は地域安全保障に関して共通の立場を持っていない。そのため、ソロモン諸島が提唱する地域安全保障条約が成功するかどうかにも疑問が残るという。
先月、5月に親中派のマネレ前首相から政権を引き継いだソロモン諸島のマシュー・ワレ首相は、「太平洋主導の安全保障体制」を中核とする太平洋全域の安全保障協定を提案した。
この構想は、地域の安全保障問題を主として太平洋島嶼国自身が対処することを目的としており、中国の安全保障上の役割を抑制する狙いがあるとみられている。
ノベタウ氏はまた、各国が過去の核実験に対して異なる経験を持っていることや、中国との経済関係の多様性も考慮すべき要因だと述べた。
例えば、仏領ポリネシアは最も多くの核実験の被害を受け、現在も世代を超えた健康被害に直面している。一方で、パプアニューギニアはそれほど大きな影響を受けていない。
同氏は「すべての当事者が同じ歴史的現実を共有していない以上、合意形成は難しい」と指摘した。
笹川平和財団の島嶼国・地域部で部長を務める塩澤英之氏は、太平洋島嶼国各国の中国大使館が、通知期間は短かったものの、発射について詳細な説明を行った可能性が高いと述べた。
塩澤氏は、「ミサイルは公海上に着弾しており、国際法上の問題は見当たらない」と語った。
また、このミサイルは核弾頭搭載能力を有していたものの、実際には核物質を搭載しておらず、ラロトンガ条約にも違反していないと説明した。
さらに、一部の太平洋島嶼国は、この発射によって「中国の戦略的計算の中で標的となり得る」という認識を強めたにもかかわらず、中国を刺激することを避けるため、強い声明の発表を控えたと分析した。
アナリストらによれば、この実験は、太平洋島嶼国と西側諸国との安全保障協力が深まることへの中国からの警告でもあった。実際、この発射は、オーストラリアとフィジーが平和の海洋同盟(Ocean of Peace Alliance)と呼ばれる画期的な相互防衛協定に署名した数時間後に行われた。
塩澤氏は、「一部の太平洋島嶼国にとって、この出来事は地域における大国間競争の激化が直接的な安全保障上の影響をもたらすことを示す警鐘となった可能性が高い」と述べた。
近年、中国は太平洋島嶼国との軍事・安全保障協力を強化しており、ソロモン諸島との安全保障協定締結や、フィジー、キリバスとの法執行協力の拡大を進めている。
経済面では、中国は主として水産物、木材、鉱物資源などの分野で太平洋島嶼国と貿易を行っている。また、港湾や水力発電所などのインフラ整備への投資に加え、無償資金協力や低利融資を含む資金支援も提供している。
※マリア・ショー(Maria Siow)氏は中国を拠点として長年活動する特派員・アナリストであり、東アジア問題を専門としている。国際関係学の修士号を取得している。
サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙のマリア・ショー氏による署名記事です。私のもとには7〜8年前から年に数回、同氏から取材依頼が届くようになり、その都度コメントを提供してきました。今回紹介した記事もその一つですが、北京発は珍しいです。
通常は3つほどの質問が寄せられ、それぞれに対して比較的長めのコメントをお返しします。それらをもとに、マリア氏が記事としてまとめ上げていきます。マリア氏の記事は、太平洋島嶼国をはじめ、米国、豪州、ニュージーランドなどの有識者から幅広くコメントを集め、それらを有機的につなぎ合わせる形で構成されることが多く、地域情勢を的確に捉えた内容となっている印象があります。
中国に関する地政学的な動きが生じると、取材の連絡をいただくことが少なくありません。結果として、コメントが中国を擁護しているように受け取られる場合もあるかもしれませんが、私は地政学的な緊張を必要以上に煽ることのないよう心掛け、できる限り冷静かつ客観的な分析に基づいた見解をお伝えしてきました。
もっとも、多くの場合、表面化している事象と水面下で進行している動きとの間には少なからぬ隔たりがあります。そのため、事情に通じた方々であれば、記事の行間からそうした背景情報や現場の空気感を読み取っていただけるかもしれません。
太平洋島嶼国は地域として「Ocean of Peace」の理念を、よりグローバルな形で発展させていきたいと考えています。その観点からすると、本件については、仮にPIF首脳会議のコミュニケに盛り込まれるとしても、特定の国名を明示するのではなく、「Ocean of Peace」の実現に向けた協力を広く呼びかけるような表現が、現実的ではないでしょうか。
(2026年7月25日 塩澤英之 海洋政策研究所島嶼国・地域部部長)