本記事では、グアム、北マリアナ、パラオ周辺を対象とする米軍の合同軍事演習Valiant Shieldに関するもので、初めてパラオで実弾演習が行われること、環境への影響に対する懸念と措置、経済効果が述べられています。
パラオでは2017年頃から米軍の関与姿勢が変化し始め、特に2年ほど前からさらに米軍のプレゼンスが高まっています。パラオでの関連する流れを簡単に振り返ります。(参考:ブレーキングニュース「
パラオ大統領台湾訪問、トラベルバブル始動へ(2021年3月29日、AFP/PACNEWS)」など)
1.2013年~2022年2月まで
2013年 経済成長を目指し中国観光客市場開拓、議会で中国との貿易協定締結の動き
2014年~2016年 中国からの観光客急増、現地観光客シェアの過半数を占める、2015年がピーク
2016年頃 中国民間によるアンガウル島観光開発案(滑走路、港湾の再開発含む)
2017年 米トランプ政権(共和党)誕生
パラオ議会で中国との投資協定締結の動き(2/3条項で否決)
中国、パラオに台湾との断交迫るが拒否。中国、パラオへの直行便停止措置
米海軍が北朝鮮の大陸弾道弾対策としてレーダー設置を提案(パラオ側の意向を汲みEEZ管理
のための海域レーダーを含む5~6基)、パラオ側は土地確保へ
2019年2月、ミクロネシア大統領サミット、PIFの中国関係強化姿勢非難、台湾の対等な扱い求める
PIF事務局長ポストがミクロネシアの番と主張
5月、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル大統領が史上初ホワイトハウスで米大統領と会談
8月、ポンペオ米国務長官、ミクロネシア連邦訪問、米国自由連合国首脳と会談
9月、ソロモン諸島、キリバスが相次いで中国と国交樹立、台湾と断交
ミクロネシア大統領サミット:次期PIF事務局長候補擁立、紳士協定強調
10月、ポンペオ国務長官、ツバルなど台湾承認国での先進国および台湾の開発協力連携を期待
2020年(※コロナパンデミックの時代に入る)
※パラオ南西諸島、アンガウル島、バベルダオブ島ガラード州、カヤンゲル島などがレーダー候補地に
9月、エスパー国防長官、パラオ訪問、「中国は安全保障上の脅威」と会見で明言
パラオ大統領予備選
ミクロネシア大統領サミット、PIFに紳士協定順守と脱退可能性を通告
11月、ウィップス次期大統領当選
2021年1月、ウィップス政権誕生
2月、PIF臨時サミット、プナPIF次期事務局長選出、
パラオPIF脱退表明、他のミクロネシア諸国も同調
3月、パラオ ウィップス大統領 台湾訪問、米国大使も
5月、パラオ ウィップス大統領 グアム訪問、米国と協議
8月、パラオ ウィップス大統領 ハワイ 米インド太平洋軍司令官と協議
パラオ ウィップス大統領 DC訪問、国務長官、国防長官らと協議
11月、ソロモン諸島で暴動、中国が警察部門への関与拡大へ
2022年2月、米 インド太平洋戦略発表
ブリンケン国務長官フィジー訪問
ミクロネシア大統領サミット、PIF脱退手続きの6月までの凍結決定
ロシア、ウクライナ侵攻
2.2022年2月以降(日付は※なしの場合、PACNEWS記事掲載日)
3月24日 ソロモン諸島・中国安全保障協定草案リーク
NZ国防相、フィジー訪問
英国、フィジーと海洋安保協定締結
3月28日 NZ外相、フィジー訪問
NZ・フィジー、ドゥアバタ・パートナーシップ締結
3月30日 カブア・マーシャル大統領、法的正当性を欠くとし、プナPIF事務局長の退任に反対
4月19日 カート・キャンベル 米国国家安全保障会議インド太平洋調整官フィジー、ソロモン、PNGへ
4月19日 中国政府、ソロモン諸島との安保協定締結発表
4月21日 カート・キャンベル調整官、フィジー訪問、地域安全保障を議論
米国・フィジー防衛・安全保障協力協議
パニュエロ・ミクロネシア連邦大統領、米国とのコンパクト改定パッケージ案発表
4月25日 豪州、フィジーの新海軍基地支援発表
オーストラリア総督、フィジー訪問
ミクロネシア連邦、米国とコンパクト改定協議
4月27日 ウィップス・パラオ大統領、米国とコンパクト改定協議へ
5月6日~8日(※)日本 林外相、フィジー、パラオ訪問
5月18日 パラオ、米国とのコンパクト部分改定交渉迅速化
5月22日(※) バイデン米大統領訪日(3日間)
5月24日(※) クアッド首脳会議(日本)
5月26日(※) 王毅中国外相、太平洋島嶼国歴訪開始(10日間)
フィジー、インド太平洋経済枠組み(IPEF)参加
5月30日 中国・太平洋島嶼国10カ国外相会談、地域協定締結ならず
6月7日(※)ミクロネシア5カ国のPIF脱退回避
このように見ていくと、大きくはいくつかの流れがあることが分かります。
1つ目は、台湾有事を想定した北太平洋地域、とりわけパラオを含む安全保障を取り巻く動き。これにはコンパクト改定交渉も関わります。
2つ目は昨年11月のソロモン諸島の暴動を端緒とした中国の地域安全保障枠組み変更への挑戦とそれに対する旧宗主国を中心とした先進国側の対応。こちらもコンパクトが関わります。
3つ目はこれらの中国の動きやロシアのウクライナ侵攻など世界情勢の不安定化を背景とした地域結束への回帰機運の醸成。
さらに、本記事ではあえて取り上げていない太平洋島嶼国および旧宗主国の気候変動をめぐる動きがあります。
2つ目および3つ目の内容については、現時点で状況は落ち着いています。1つ目については、つい数日前にパラオのアンガウル島でパトリオットミサイルの実射訓練が行われるなど、今後もその動向が注目されます。
(塩澤英之主任研究員)