11月22日付け、パラオのISLAND TIMES紙記事を引用したPACNEWS記事になります。
※パラオの漁業に関する内容についてですが、9月29日付のブレーキングニュース「
マリンサンクチュアリ法(PNMS)の一時停止案、パラオ酋長評議会が下院に再考求める」で詳しく解説していますので、そちらをご一読ください。
現在、パラオはナウル協定締約国グループ(PNA)に加盟が認められており、その隻日法(Vessel Day Scheme)に基づき漁業販売できる日数はマリンサンクチュアリ法(PNMS)に関わらず年間500~700日が割り当てられています。パラオの場合は海域が狭くマグロ漁場が限られているため、販売できる日数は他のPNA加盟国よりも少なくなっていますが、海外でのカツオ・まぐろ類の需要があり他のPNA加盟国の日数販売が好調な限り、その日数を他のPNA加盟国に転売することができるため、自国EEZでの漁業活動なしに入漁料収入を得ることができる状況にあります。この日数を1日当たり一万米ドルで他のPNA加盟国に売ることができれば、年間5百万米ドルから700百万米ドルの収入となり、これはマリンサンクチュアリ法(PNMS)導入以前の入漁料収入を越える額となります。ただし、パラオには、海外の需要が落ち他のPNA加盟国の日数が売り切れない場合には、入漁料収入が得られないというリスクがあります。
今回の大統領の前半から中盤までの発言では、次の2点がポイントになっています。
(1)パラオでのマグロ水揚げ
(2)高価値マグロの航空機による輸出
(1)のパラオでの水揚げについては、これを行うことで港湾周辺を中心に民間部門への経済波及効果が向上します。漁船の寄港数が増えれば、水、食料、燃料などの物資の調達や船員の陸上での経済活動が期待できるからです。
(2)の高価値マグロの航空機による輸出についてですが、この場合のマグロはカツオではなくメバチマグロなどを対象としていると考えられます。キハダも入るかもしれません。以前、筆者が2014年前後にフィジーで一部関わっていた日本との直行便再開に向けた協議を踏まえると、太平洋島嶼国に限らず航空路線を維持するためにはカーゴが重要だと考えられます。ある国では、マグロを輸出することで、搭乗率が6割程度であっても路線を維持することができるという話がありました。
例えば、数日前、ウィップス大統領は台湾の中華航空について強い不満を表明しています。今年3月、同大統領は台湾を訪問し、台湾バブルとして台湾との直行便再開と年間10万人の旅行者を目指した増便に合意しました。しかし、最初の1便は200名近い搭乗者がいたものの、その価格の高さと、パラオ国内における行動制限の窮屈さなどから台湾内での航空券販売が停滞し、航空便がしばしばキャンセルされています。この不安定さに対し、同大統領は台湾がパラオを大事に思っていないといった発言を行っていました。
今回の漁業に関する発言は、この台湾との直行便との話にも繋がり、マリンサンクチュアリ法の改定にも繋がるものと考えられます。台湾の漁業者も本来であればパラオ海域で操業し、台湾にマグロを輸出したいところですが、現在のマリンサンクチュアリ法は20%海域における国内消費向けの操業を認める一方で、基本的に海外への商業輸出を認めていません。
パラオの国内法を改正し、パラオでの水揚げと輸出を認めれば、中華航空の運航が安定し、場合により台湾漁業者にも恩恵がもたらされるでしょう。
最後に紹介されている大統領の一般教書演説における発言については、国と州の関係に関わるものであり、現地でどのように捉えられているのか丁寧に見る必要があります。なぜなら、パラオの憲法において、沿岸12海里までの資源は国ではなく州に所有権と管理権があるとされているためです。国は12海里から200海里までの資源を管理できるため海外にマグロ資源を対象とする漁業権を販売できますが(現在はマリンサンクチュアリ法の制約がある)、12海里内の資源については州が州法に基づき管理しており国は州政府との取り決めがない限り直接的に関与することはできません。
国が資源管理に間接的に関与できるようにしたのが保護区ネットワーク法(PAN法)になります。また国は特定の生物(例えば、ジュゴン、ナポレオンフィッシュ、数種類のナマコなど)を保護対象とすることで、12海里内の資源管理に関わることができ、共和国法に基づく取締りも行うことができます。
2015年から2019年までのパラオ経済は、GDPが約280百万米ドル、政府支出が約90百万米ドルであったため、政府部門と民間部門の比率が1対2であったと見ることができます。政府部門については、米国コンパクト関連が25百万米ドル前後、台湾の援助が15百万米ドル程度、税収、入漁料収入などからなりました。民間部門については多くが観光に関連しており、税収は観光産業の影響を受けます。
2010年頃まで数年のパラオ経済は年間訪問者数10万人前後でGDP200百万米ドル程度でしたが、観光振興により2015年は年間訪問者数が16万人を超えGDPが280百万米ドルまで成長し、その7割程度(約200百万米ドル)が観光産業に関連するものでした。一方で海外からの開発援助による建設分野も大きな経済効果があり、中国からのチャーター便減便やデルタ航空による日本直行便廃止により観光客数が減少に転じた2017年から2019年のパラオ経済を下支えしました。
パラオは他の太平洋島嶼国よりも海域が小さく漁場が限られている中で、海外の開発援助に関連するものを除けば、観光分野が唯一期待できる成長分野でしたが、コロナ禍で大幅に縮小しました。しかし、漁業分野の経済効果は現在のナウル協定関連による効果も含めて10百万米ドル程度であり、観光産業が失った経済効果(最大200百万米ドル)を補うことは不可能と考えられます。
マクロ経済の安定化という観点では、2020年にレメンゲサウ前政権が米国トランプ政権に提案していた米軍施設の設置と軍の常駐化は、土地代、雇用、現地経済活動などにより、数十百万米ドル規模の経済効果をもたらす可能性があります。一方で、11月22日付けPACNEWS記事では、バイデン政権となってから米国とミクロネシア3国それぞれとのコンパクト改定交渉は進んでおらず、超党派で議員10名がバイデン政権に対し、交渉にしっかり取り組むことを求めるというものがありました。トランプ政権下では両者の対話が進み、交渉も急ぐ流れにありましたが、バイデン政権になりスローダウンしたようです。パラオの場合は2024年10月から2039年9月の期間の特に経済関係の取り決め、ミクロネシア連邦とマーシャルについては2023年10月以降(15年もしくは20年となると思われる)をカバーする再改定コンパクト(第3次コンパクト)の交渉となりますが、経済分野も交渉内容に含まれることから、今後の推移が気になるところです。