Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第606号(2026.06.20発行)
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インパクトファンドが拓く新しい海洋経済
KEYWORDS
ネイチャーポジティブ/インパクト投資/ブルーエコノミー
(株)UMITO Partners代表取締役◆村上春二
ネイチャーポジティブは理念から実装段階へ移行し、金融は自然資本を資本配分の中核に据え始めた。世界のインパクト投資市場は2030年に向けて約2倍規模への成長が見込まれ、海洋・自然分野は主要な成長領域となりつつある。本稿では市場動向と具体事例を踏まえ、海洋分野におけるインパクト投資の有用性と実装の要点を整理する。
ネイチャーポジティブは「次の成長戦略」になった
気候変動に加え、生物多様性の損失が企業経営と金融の前提条件を大きく変えつつある。ネイチャーポジティブとは自然への負荷を抑えるにとどまらず、生物多様性の状態を回復軌道へ転じさせる考え方である。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)をはじめとする国際枠組みの進展により、自然資本はCSR(企業の社会的責任)の対象ではなく、リスク管理と成長戦略の中核として扱われ始めた。
この潮流は海洋分野で特に顕著である。その理由は環境変化が既に経済活動へ直接影響している点にある。世界の水産資源の約90%が過剰利用または最大利用状態にあり(FAO, 2020)、気候変動の影響により漁獲可能バイオマスは2050年までに約10%減少すると予測されている(Lotze et al., 2019)。さらに食料生産は世界のGHG(温室効果ガス)排出量の約3分の1を占め(Tubiello et al., 2022)、動物性タンパク質生産に起因するGHG排出量は約17%に相当する(Twine, 2021)。加えて海洋のデッドゾーン(酸欠海域)と呼ばれる富栄養化による水質悪化の約78%が農業由来(Poore & Nemecek, 2018)、海を漂流するプラスチックの多くは漁具起源であり、北太平洋ごみベルトでは75〜86%に達する(Lebreton et al., 2022)と推計されている。
これらが示すのは海洋環境変化が既に産業基盤の不安定化を招いている現実である。同時に、問題が海だけでなく陸域の経済活動と密接に結び付いていることを意味する。
この潮流は海洋分野で特に顕著である。その理由は環境変化が既に経済活動へ直接影響している点にある。世界の水産資源の約90%が過剰利用または最大利用状態にあり(FAO, 2020)、気候変動の影響により漁獲可能バイオマスは2050年までに約10%減少すると予測されている(Lotze et al., 2019)。さらに食料生産は世界のGHG(温室効果ガス)排出量の約3分の1を占め(Tubiello et al., 2022)、動物性タンパク質生産に起因するGHG排出量は約17%に相当する(Twine, 2021)。加えて海洋のデッドゾーン(酸欠海域)と呼ばれる富栄養化による水質悪化の約78%が農業由来(Poore & Nemecek, 2018)、海を漂流するプラスチックの多くは漁具起源であり、北太平洋ごみベルトでは75〜86%に達する(Lebreton et al., 2022)と推計されている。
これらが示すのは海洋環境変化が既に産業基盤の不安定化を招いている現実である。同時に、問題が海だけでなく陸域の経済活動と密接に結び付いていることを意味する。
インパクト投資市場は拡大し、自然領域が主戦場に
こうした認識のもと、財務リターンに加え環境・社会インパクトを測定するインパクト投資市場は急拡大している。2024年時点で世界の投資残高は約1.57兆ドル規模へ拡大し、年平均成長率は約21%で成長を維持している(図)。長期的には自然・気候関連分野を含む市場がさらに拡張する可能性も示されている。
海洋分野はその中心的領域となりつつある。海は世界GDPの最大約7%を生み出しているにもかかわらず投資資金は十分ではなく、技術革新の余地が大きい。2050年までに世界のタンパク質需要は約53%増加すると見込まれ、利用可能な陸域資源の制約から海の活用が再評価されている。従来の環境負荷の高い生産モデルから再生型イノベーションへの転換が不可欠となる中、ブルーフード、バイオ素材、医薬・化粧品原料等の海洋関連分野には約200兆円規模の潜在市場が存在すると整理されている(FAO・WEF・UNCTAD等の推計に基づく試算)。海洋は環境対策の対象であると同時に成長市場でもある。
海洋分野はその中心的領域となりつつある。海は世界GDPの最大約7%を生み出しているにもかかわらず投資資金は十分ではなく、技術革新の余地が大きい。2050年までに世界のタンパク質需要は約53%増加すると見込まれ、利用可能な陸域資源の制約から海の活用が再評価されている。従来の環境負荷の高い生産モデルから再生型イノベーションへの転換が不可欠となる中、ブルーフード、バイオ素材、医薬・化粧品原料等の海洋関連分野には約200兆円規模の潜在市場が存在すると整理されている(FAO・WEF・UNCTAD等の推計に基づく試算)。海洋は環境対策の対象であると同時に成長市場でもある。
日本市場は「投資の量」から「成果の質」へ
日本でもインパクト投資は急拡大している。投資残高は2023年の約11.5兆円から2024年には約17.3兆円へ増加し、金融機関や年金基金の参入により自然分野への資金流入が加速している。しかし投資額が拡大するほど重要となるのは成果の質である。
グリーン/ブルーボンドやサステナビリティ・リンク・ローン※は大規模資金を動員できる一方、資金用途が広範に設定されることが多く、自然回復との因果関係を追跡することは容易ではない。また投資後の事業関与が限定されるため、技術開発や市場形成を伴う構造転換領域では追加的成果を生み出しにくい側面がある。自然資本クレジットも有効な仕組みではあるが制度整備や測定手法が発展途上であり、現場実装との接続が課題として残されている。
この文脈でインパクト投資は異なる機能を持つ。課題解決を目的に掲げ経営支援や市場形成へ関与し成果測定を行える点が特徴である。海外では微細藻類素材、代替タンパク質、海洋バイオ素材等が実装段階に入り、漁獲圧低減、水質改善、生息域回復など海洋機能回復と産業成長を両立している。これらは拡大する食料需要への対応と気候対策基盤形成を同時に担い、数十兆円規模の市場創出が期待される領域となっている。
こうした動向の一例として、当社は2026年4月に欧州投資会社Beyond Impactとパートナーシップを締結し、海洋特化型インパクトファンド「Blue Frontier Fund(BFF)」の組成を進めている。ブルーフード、バイオテック、ブルーカーボン、生物多様性再生領域への投資を通じ、金融知見と海洋環境保全や生産現場理解を接続しネイチャーポジティブを投資実装へ転換する試みである。海洋領域では投資家側の理解不足と産業側の資本市場アクセス不足という断絶が存在してきた。BFFはその橋渡しを担い、採取型から再生型へ移行する「新しい海洋経済」に寄与することを目的としている。
グリーン/ブルーボンドやサステナビリティ・リンク・ローン※は大規模資金を動員できる一方、資金用途が広範に設定されることが多く、自然回復との因果関係を追跡することは容易ではない。また投資後の事業関与が限定されるため、技術開発や市場形成を伴う構造転換領域では追加的成果を生み出しにくい側面がある。自然資本クレジットも有効な仕組みではあるが制度整備や測定手法が発展途上であり、現場実装との接続が課題として残されている。
この文脈でインパクト投資は異なる機能を持つ。課題解決を目的に掲げ経営支援や市場形成へ関与し成果測定を行える点が特徴である。海外では微細藻類素材、代替タンパク質、海洋バイオ素材等が実装段階に入り、漁獲圧低減、水質改善、生息域回復など海洋機能回復と産業成長を両立している。これらは拡大する食料需要への対応と気候対策基盤形成を同時に担い、数十兆円規模の市場創出が期待される領域となっている。
こうした動向の一例として、当社は2026年4月に欧州投資会社Beyond Impactとパートナーシップを締結し、海洋特化型インパクトファンド「Blue Frontier Fund(BFF)」の組成を進めている。ブルーフード、バイオテック、ブルーカーボン、生物多様性再生領域への投資を通じ、金融知見と海洋環境保全や生産現場理解を接続しネイチャーポジティブを投資実装へ転換する試みである。海洋領域では投資家側の理解不足と産業側の資本市場アクセス不足という断絶が存在してきた。BFFはその橋渡しを担い、採取型から再生型へ移行する「新しい海洋経済」に寄与することを目的としている。
■図 「GIIN Sizing the Impact Investing Market 2024」を基にUMITO Partnersが作成
海洋からネイチャーポジティブを実装する
海洋課題は構造的であり政策のみでは解決できない。イノベーション、産業、金融、現場を横断する転換が必要である。インパクト投資は抑制ではなく変化を加速させる手段として新産業創出と課題解決を促す。
当社は、海に関係する各種ステークホルダーをつなぎ、国際水産エコラベルの取得や流通のシステムチェンジなどを推進して海洋生態系にポジティブな影響を生み出すことを目的に2021年に起業した。以来、国内外の市場動向への理解と現場ネットワークを基盤に、海におけるネイチャーポジティブを構想から事業・投資へ接続し、漁業現場、企業、金融、研究者、政策をつなぎながら新しい海洋価値創出の実装を支援している。新規ファンドBFFの企画も、その一環である。
ネイチャーポジティブな海洋経済への転換は1社で完結できるものではない。多様な主体が共通ビジョンの下で協働する必要がある。当社「UMITO Partners」はその接続点として、これからもウミとヒトの関係をポジティブにつなぎ直す取り組みを進めていきたい。(了)
当社は、海に関係する各種ステークホルダーをつなぎ、国際水産エコラベルの取得や流通のシステムチェンジなどを推進して海洋生態系にポジティブな影響を生み出すことを目的に2021年に起業した。以来、国内外の市場動向への理解と現場ネットワークを基盤に、海におけるネイチャーポジティブを構想から事業・投資へ接続し、漁業現場、企業、金融、研究者、政策をつなぎながら新しい海洋価値創出の実装を支援している。新規ファンドBFFの企画も、その一環である。
ネイチャーポジティブな海洋経済への転換は1社で完結できるものではない。多様な主体が共通ビジョンの下で協働する必要がある。当社「UMITO Partners」はその接続点として、これからもウミとヒトの関係をポジティブにつなぎ直す取り組みを進めていきたい。(了)
※ サステナビリティ・リンク・ローン:借り手が設定したサステナビリティ目標の達成に応じて融資条件が変動する金融手法
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