Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第594号(2025.06.20発行)

里山・里海をフィールドとした大阪・関西万博に向けた阪南市の取り組み

KEYWORDS ブルーカーボン/生態系保全/子どもたち
大阪府阪南市未来創生部副理事(兼)まちの活力創造課長◆前田雅寛

阪南市はブルーカーボンを軸に生態系回復と持続可能な社会の実現を目指し、大阪・関西万博に向けてSDGs達成のための51件のプロジェクトを展開している。次世代の子どもたちが海洋教育を通じて環境保全に関心を持つことを促進し、ブルーエコノミーの推進と経済成長を図る。官民連携により、環境にやさしい生活の学習や体験を増やし、持続可能な地域の未来を目指している。
阪南市の里山・里海をフィールドとした取り組み
ここ、大阪・阪南には、人々の暮らしのすぐそば、ほどよい近さに森里川海があります。そして人々は、これらの豊かな恵みを日々感じながら、暮らしています。
それは例えば、古くは『土佐日記』に詠われているように、また、今も市の歌や校歌にも、森里川海が歌われていることにみることができます。そこには、はだしで行ける浜があり、おいしい魚や多様な生き物がいます。阪南の地先には豊かなアマモ場が広がっています。大阪湾の環境は改変され、自然が失われてきました。ここ阪南にある豊かさや恵みは、当たり前にあるのではなく、自然と共に営みを紡いできた人々がさまざまな活動を通じ、守り、育ててきたものです。
阪南市は、ブルーカーボンを軸とした海の再生活動に注力しており、2023年度の「全国海の再生・ブルーインフラ賞」受賞を契機に、取り組みは新たな段階へと進化しています。ブルーカーボンは地球温暖化対策として注目されていますが、その本質は二酸化炭素吸収に留まらず、生物多様性の保全や地域社会との連携といった多様な側面を持つべきです。ブルーカーボンクレジットによるビジネス化は、保全活動を加速させる可能性を秘めていますが、目的が歪み、短期的な利益追求に陥るリスクも伴います。真の目的は、生態系の回復と持続可能な社会の実現であり、そのために科学的根拠に基づいた活動と地域社会との共創が重要です。
本市では、地域の自然環境を最大限に活用し、里山・里海をフィールドにさまざまな活動を展開しています。これには、地域住民や企業、教育機関が一体となって取り組むプロジェクトが含まれ、地域の生態系を保全しつつ、持続可能な社会の実現を目指しています。特に注目すべきは、ブルーカーボンを活用した海洋再生プロジェクトで、これにより地域の海洋資源を活用した新たなビジネスモデルの創出も期待されています。さらに、地域の漁業者やNPOなどとの協力により、海洋環境の保全活動が地域経済の活性化に寄与することが期待されています。
海と山が出合うまち

海と山が出合うまち

大阪・関西万博に向けた取り組みとブルーエコノミーの推進
大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」の実現や、SDGsの達成に向けた取り組みを進めています。企業や各種団体と共に、「TEAM EXPO 2025」プログラムの共創チャレンジとして51件のプロジェクトを登録し、環境や健康、デジタル、地域の活性化などさまざまな分野での活動を展開しています。その一環として、「海のゆりかご再生活動」があり、次世代を担う子どもたちが地域の海を愛し、大阪湾や全国の海への関心を持つことで、持続可能な豊かな大阪湾の実現に向け取り組んでいます。
市教育委員会では、日本財団、笹川平和財団海洋政策研究所が主催する「海洋教育パイオニアスクールプログラム」を活用し、子どもたちは実際に海に入り、豊かな自然と触れ合う貴重な体験をしています。例えば、ある日の活動では、地元の漁師さんたちの協力を得て、子どもたちは海岸に集まり海の生態系についてのレクチャーを受けます。海の中でどのような生き物が暮らしているのかを学び、その後、子どもたちは波打ち際で石や流木をめくり、実際に海の生き物を観察します。見たことのない生物や、海藻に隠れるカニを見つけるたびに歓声が上がり、自然の神秘に触れる貴重な時間となります。
また、海岸のごみ拾い活動を行い、地域の環境保護の重要性も学びます。ペットボトルやビニール袋などのごみを拾う中で、子どもたちは海洋ごみの問題にも直面し、環境への配慮を深めます。地元の人々と一緒に活動を行うことで楽しみながら、地域の一員としての自覚を育みます。そして、このような体験を通じて、子どもたちは海を愛し、地域を大切にする心を育んでいきます。
これらの取り組みの効果は、二十年後、三十年後に現れ、その評価が行われます。その頃に主役として活動しているのは、今の子どもたちです。彼らが将来、正しい評価をし、次の世代へとつないでいけるように、現在の大阪湾や阪南の環境を自らの体験として知ってもらうことが大切です。そして、活動を通じて、子どもたちだけでなく、地域住民全体で大阪湾の再生に関心を持ち、共に取り組む環境づくりを目指しています。
これらの活動は、ブルーエコノミーの推進と密接に関係しています。ブルーエコノミーは、海を守りながら経済成長と社会の持続可能な発展を目指す概念であり、万博はその実現に向けた絶好の機会となります。万博会場が四方を海に囲まれた“海の万博”とも称されることから、海の生物多様性を保全しつつ、海洋を活かしたカーボンニュートラルや水産・観光振興など、経済のさらなる発展につながる取り組みを推進し、発信することが求められています。
阪南の子どもたち

阪南の子どもたち

今後の展開
大阪・関西万博を契機に、本市は地域の持続可能な発展を目指し、ブルーエコノミーの推進を通じて新たな経済成長モデルを模索しています。地域の自然資源を活用し、環境と経済の両立を図る取り組みを進めることで、地域社会全体が持続可能な未来に向けて歩んでいくことが期待されています。
また、阪南市は国際的な交流を通じて、地域の取り組みを世界に発信し、他地域の成功事例を学ぶことで、さらなる発展を目指しています。
現在、市民、漁業者、NPO、行政などが個別の立場や組織を超えて、持続可能な地域の未来を実現するための活動が求められています。環境保全では、実際に今起きていることを自分自身で感じ取り、五感で体験することが重要です。官民連携の推進やアマモ場の保全・再生の取り組みを通じて、環境への気づきや環境にやさしい暮らし方の学習や体験を増やし、多くの人が気づきから行動に移せるようになればと考えています。(了)

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