Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第594号(2025.06.20発行)

「海の蘇生」を掲げる「BLUE OCEAN DOME」出展の経緯

KEYWORDS 万博/ゼロエミッション/海洋環境
認定NPO法人ZERI JAPAN理事◆竹内光男

認定NPO法人ZERI JAPANは、2019年のG20「大阪ブルーオーシャン・ビジョン」宣言を受けて、大阪・関西万博への参加を決めた。万博に出展中の「BLUE OCEAN DOME」は、民間で唯一、海をテーマとしたパビリオンである。「海の蘇生」を掲げ、さまざまな展示を通して、プラスチック海洋汚染の防止、海の持続的活用、海の気候変動の理解促進を目指している。
自然界に倣うゼロエミッション構想
認定NPO法人ZERI JAPANは、「2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)」へ民間で唯一、海をテーマにして出展しています。
自然界に廃棄物(ごみ)はありません。ZERI JAPANは、その自然界に倣(なら)って廃棄物ゼロの社会を目指して2001年に設立されました。ZERIとは、ゼロエミッション構想※1の略称で、Emissionは排出物、つまり生産や消費に伴って発生する廃棄物のことを指しますが、これを資源として再利用することで、限りなくゼロに近づけた循環型社会を目指して研究し行動していくことです。ZERI JAPANは、この構想を日本社会に根付かせるために、さまざまな啓発活動を続けています。
一例として、スウェーデンの都市で実証実験をして成功した技術を日本でも実施しました。生ごみを回収し、セメントを乾燥させるラインに投入して乾燥させ、それをコンクリートの原料と混ぜてエコセメントとして販売するスキームのコンサルティングを行いました。また、地球温暖化に伴う気候変動が止まらないため、地球温暖化研究の権威、山本良一東京大学名誉教授を中心として「気候非常事態宣言とカーボンニュートラル社会づくり支援ネットワーク」※2を2020年に設立しました。ZERI JAPANが事務局を担当し、脱炭素社会の実現に取り組んでいます。この活動が評価され、2021年には気候変動アクション環境大臣表彰を受賞しました。2023年からは、千葉県南房総市で、自治体や漁協などと共に、地域課題解決や生物多様性保全、ブルーカーボン創出を目指して、藻場の再生を進めています。
「大阪ブルーオーシャン・ビジョン」を契機に万博へ出展
ZERI JAPANは、これらの活動を続けながら、2019年に大阪で開催されたG20で「大阪ブルーオーシャン・ビジョン」が宣言されたことを受け、①海洋プラスチック汚染防止、②海の持続的な活用等、海の持続可能性の実現を目指す活動のプラットホームや、ZERIを深化させた持続可能な経済モデル「ブルーエコノミー」を実現するビジネスモデルとして、「ブルー・イノベーション」の創出と普及を目指しています。この運動が力強く実現するように、多くの企業や団体のご協力や支援をいただいています。そして、この地球を守るため、今までの生活スタイルや活動方法を見直し、健全な地球環境を取り戻すための行動変容につながるように、大阪・関西万博へ応募し、弊法人の活動等を理解いただき、採択されて出展に至りました。
大阪・関西万博に出展中のパビリオン「BLUE OCEAN DOME」(図1)は、海の蘇生をテーマに、プラスチック海洋汚染の防止、海の持続的活用、海の気候変動の理解促進を世界中に発信し、ネットワークの拠点形成を目指します。
■図1 パビリオン「BLUE OCEAN DOME」

■図1 パビリオン「BLUE OCEAN DOME」

西ゲートから続く「西通り」が大屋根リングに接する所の左手側に位置している(下は開幕前の航空写真)
「BLUE OCEAN DOME」と海ごみ活用
パビリオンを訪れる人々を出迎えるのは、巨大、緻密、清冽な「水」のスペクタクル。超はっ水塗料をほどこした真っ白な盤面を、ころころ、さらさら、にょろにょろと水が形を変えながら駆けめぐっていく。それは、地球を躍動させる水の循環。海から蒸発し、雨となって山に降り、川を流れ、湖や池をつくりながら海へと戻る水の一生を眺め、心を清める“みそぎ”の体験をしていただきます。続いて、宇宙空間のような漆黒のシアターへ。直径10mの高精細LEDスクリーンに映し出されるのは、青く輝く水の惑星・地球。いのちの誕生から、躍動する魚の群れ、サンゴ礁の豊かな生態系、未知の深海生物、そして海中を侵していくプラスチックごみまで。無数のいのちがさざめく「海」に没入し、環境の汚染に身を震わせる初めての映像体験をすることができます。
出口には、事業運営に協力をいただいているサラヤ(株)が「TEAM EXPO 2025」※3で製作した自動手指消毒ディスペンサー「PROTEGATE EXPO2025」(図2)が設置されています。近年、海洋の環境問題は深刻さを増しており、海洋プラスチックごみの海洋生物や生態系への影響も大きな問題となっています。すでに1億5,000万トンの海洋プラスチックごみがあり、さらに毎年1,200万トンが海へ流れ込んでいると言われています。サラヤ(株)は、製品をつくる企業の責任として、PROTEGATE EXPO2025には、再生プラスチックに加え海洋プラスチックごみを使用すべきと考えました。しかし、海洋プラスチックは塩分や砂などの不純物が混ざっている場合やプラスチック自体が劣化しているリスクがあり、再利用する際には、うまく形にならないことや、色など外観への影響があるなど、多くの課題があります。そこで、過去に海洋プラスチックを扱った実績を持つテラサイクルジャパン合同会社に依頼しました。本体のグレー部分は、同社提供の海洋プラスチックを配合した原料を使って押出成形されています。この海洋プラスチックは、長崎県対馬市の海岸に漂着したごみを回収し、分別、洗浄、乾燥、破砕してペレット状に加工したものです。青いノズル部分は、海洋プラスチックを原料として使用できる技術を持つ3D Printing Corporationの3Dプリンターで製造されました。再生ポリプロピレンに海洋プラスチックを配合した原料が使われています。
ZERI JAPANは、これらの展示と並行して、さまざまなブルーオーシャンプロジェクトを企画し実施しています。2030年のSDGsのゴールを目指し、活動が運動の環に広がるように努めて参ります。(了)
■図2 IoT技術を搭載し、薬剤やバッテリー残量をウェブ画面で確認可能にしてメンテナンスを省力化した手指消毒ディスペンサー「PROTEGATE EXPO2025」

■図2 IoT技術を搭載し、薬剤やバッテリー残量をウェブ画面で確認可能にしてメンテナンスを省力化した手指消毒ディスペンサー「PROTEGATE EXPO2025」

万博会場内2カ所の休憩所にも設置している
※1 1994年に国連大学(東京・青山)でグンター・パウリ氏が「ゼロエミッション構想(Zero Emission Research and Initiative)」を提唱し、1996年に国連開発計画(UNDP)とスイス政府がZERI財団を設立した。ZERI JAPANは同財団と理念を共有している。グンター・パウリ氏は、「ブルーエコノミー」の提唱者でもある。
※2 気候非常事態宣言とカーボンニュートラル社会づくり支援ネットワーク(気候非常事態ネットワーク:CEN) https://www.zeri.jp/cen/
※3 (公社)2025年日本国際博覧会が推進する参加型プログラム「TEAM EXPO 2025」 https://team.expo2025.or.jp/ja/

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