Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第593号(2025.05.20発行)

海のDXとその先へ

KEYWORDS 海との共存共栄/2050年の世界観/Ocean 5.0
古野電気(株)経営企画部部次長◆永田靖徳

古野電気(株)が掲げる「Ocean 5.0」構想は、2050年頃の社会で「経済価値」と「社会価値」の両立を目指す未来ビジョンのコンセプトである。過去から未来への技術革新を「Ocean 1.0」から「Ocean 5.0」に分類し、持続可能な海洋社会の実現を目指す。志を同じくする他企業との共創にも積極的に取り組み、これまでにない新しい社会と新しい航海への貢献に努めたい。
「Ocean 5.0」への変革
古野電気(株)は1948年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功して以来、舶用電子機器分野で独自の超音波技術と電子技術をもとに、世界初・日本初の商品を複数提供してきた。現在は、これまで培ってきた技術を基に、船舶の航海支援や自動運航船の実現に向けた「海のDX」にも取り組んでいる(図1)。当社ではDXを進めていく中で新しい価値の創出を模索しているが、これからの数年~数十年は、デジタル化が加速し業界自体に大きな変革の時代が到来すると考える。そういった危機感や期待感がムーブメントとなり、これまでにない取り組みを開始した。
まずエンジニアリングを超えた全社プロジェクトを立ち上げ、さらなる未来、2050年頃の社会で重要となるであろう「経済価値」と「社会価値」の両立を創造した。さまざまな海洋の未来や社会環境に関する論文や書籍をもとに、社内で未来ビジョンのコンセプトづくりを行い、その活動で得た未来社会のコンセプトを「Ocean 5.0」と命名し、2024年7月に専用サイトの立ち上げとともに、社外に公開した。過去からの変革を定義し、過去では人が海の恩恵を受けるために、海洋汚染や乱獲など、海の状態を悪化させていた時代を経て、Ocean 5.0の未来社会では、海の状態を良いままに、その恩恵を人類に限らず、すべての生きるものが受けられる時代の到来をより明確にした(表)。
■図1 古野電気(株)が取り組む「海のDX」

■図1 古野電気(株)が取り組む「海のDX」

■表 古野電気(株)では、現在をOcean 4.0と定め、Ocean 5.0に至る道筋を専用サイトで公開している。(https://future-vision.furuno.co.jp/)※表をクリック

■表 古野電気(株)では、現在をOcean 4.0と定め、Ocean 5.0に至る道筋を専用サイトで公開している。(https://future-vision.furuno.co.jp/)※表をクリック

「Ocean 5.0」で定める重要なテーマ
2050年の未来社会において、重要となるテーマを「海の情報、海の流通、海の資源、海の災害、海の環境、生物多様性、海での暮らし」の7つと定め、企業が貢献するテーマの深堀りを開始している。以下でいくつか紹介する。
例えば、「海の情報」テーマでは、海洋をめぐるデータを収集し、災害予測、気象予測などの事業を創造する「経済価値」と、データの活用を通じて安全安心な海洋社会を実現する「社会価値」を定義。当社では海洋のデータを収集するシステムを構築し、価値のある情報に変換。海洋のデジタルツイン化を通じて、人々の安全安心な行動を支援していくことを目指す。
「海の流通」テーマでは、海洋流通において経済効率性を向上させた快適な物流を実現した「経済価値」と、海洋における事故や遭難を無くし、誰もが安全安心に海の流通に関われる「社会価値」の両立を目指す。船舶・海上都市など、人々が活動する海洋内の物体を俯瞰して安全に管制し、船の完全な自律航行のための技術を駆使して、リスクのない人やモノの移動を実現していく。
「生物多様性」テーマでは、すべての人が安定的に高品質な水産資源を享受できる漁業の「経済価値」と、海洋生物の絶滅の危機を脱し、生物多様性を損なわない持続可能な海洋の「社会価値」の両立を目指す。当社は海洋生物の多様性と食物連鎖のバランスを維持するための養殖/バイオテック技術により、生物多様性を損なわない新世代の漁業を実現していく。例えば、自社開発の定置網モニタリングシステム「漁視ネット」(図2)は、Ocean 4.0のフェーズにある現在では、陸上から遠隔操作にて定置網の中の魚の状況を監視するシステムに留まっているが、Ocean 5.0の実現に向け、海流や海水温の変化、生物多様性のリモートモニタリングシステム、AI予測を可能とする資源管理への貢献としての進化を目指したい。
また「海での暮らし」テーマでは、海上において新たな生活空間を整備する事業の創造、人類が海洋でより安全安心に暮らす自由なライフスタイルを実現できる社会を目指す。このテーマは、当社が単独で実現できるテーマではないため、どうすれば人々に快適な生活空間を新たに提供できるか、海上・海中の移動体と周辺の状況、ここに海況や気象のビッグデータを駆使し、リスクのない生活を実現できるか、を考えるため、これまで交流のなかった分野にも拡大し他社との共創を進めていく。
■図2 2025年2月に発売した定置網モニタリングシステム「漁視ネット」の小型計測ブイ

■図2 2025年2月に発売した定置網モニタリングシステム「漁視ネット」の小型計測ブイ

新時代の航海とは
古野電気(株)は、2048年に創立100周年を迎える。これまでの技術や事業ロードマップ活動は、過去からのフォアキャスト発想が主流であった。しかし、これからは、2040年や2050年という先を見据えて事業を展開することが重要だと考える。現在の当社を取り巻く環境から飛躍し過ぎているのではないかとの社内意見もあるが、将来からバックキャストした計画と既存のロードマップを整合させ、そこから得る新たな課題解決に努めることで、企業風土を変革していく。志を同じくする他社との共創にも積極的に取り組み、これまでにない新しい社会や新しい航海への貢献に努めたい。(了)

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