Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第587号(2025.01.20発行)
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北極サークル総会における極域対話の発足とその潜在的影響
KEYWORDS
極域対話/第三極/地域協力
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆Santosh Kumar RAUNIYAR
2024年の北極サークル総会で「極域対話」が発足し、北極、南極、第三極(ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域)をつなぐ協力の枠組みが構築された。
極域対話は雪氷圏に関連する課題に対する統一的行動への野心的な一歩である一方、その成功に向けては、重要な課題が残っている。
極域対話は雪氷圏に関連する課題に対する統一的行動への野心的な一歩である一方、その成功に向けては、重要な課題が残っている。
極域対話の始まり
2024年の北極サークル総会は、「極域対話(Polar Dialogue)」の発足により、極域ガバナンスおよび科学協力における重要な節目を迎えた。極域対話は、従来の北極に焦点を当てた枠組みを超え、北極、南極、そして「第三極」(ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域)といった氷に覆われた地域をつなぐ架け橋を構築した。これは高く評価されるべき一歩だが、極域対話が地球規模の気候問題や地政学的課題に対応する変革的なメカニズムとして確立されるためには、克服すべき重要な課題が残されている。
前進か、それとも野心的なスタートか?
極域対話は、2023年にフランスのエマニュエル・マクロン大統領主導の下、パリ、レイキャビク、モナコ、ベルリンで行われた「ワンプラネット・ポーラー・サミット」の議論を基盤とする。その「極域および氷河圏の科学、政策、地域知識を統合する」という目標は称賛に値するが、これが理論的な抱負を超えて具体的な成果を生み出すかは未解決の課題である。
現時点では、極域対話は協力のための初期段階の枠組みを提供している。その効果は、地球規模の気候ガバナンスにおける長年の課題、特に地政学的に複雑で政策が分断されている「第三極」のような地域の問題を解決できるかにかかっている。北極圏は国際的認知度が高く、確立された研究ネットワークを有する一方、約20億人にとっての水源である第三極は依然として十分に知られていない。この格差の是正こそ、気候行動における公平性実現の基盤でなくてはならない。
現時点では、極域対話は協力のための初期段階の枠組みを提供している。その効果は、地球規模の気候ガバナンスにおける長年の課題、特に地政学的に複雑で政策が分断されている「第三極」のような地域の問題を解決できるかにかかっている。北極圏は国際的認知度が高く、確立された研究ネットワークを有する一方、約20億人にとっての水源である第三極は依然として十分に知られていない。この格差の是正こそ、気候行動における公平性実現の基盤でなくてはならない。
第三極における緊急性
第三極の氷河は、北極の約4倍の速さで融解しており、水資源の安全保障、生物多様性、生活に深刻な影響を与えている。にもかかわらず、世界の関心は北極圏に偏っている。この認知の不均衡は、ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域のコミュニティの脆弱性を悪化させ、国際的な政策の調整を遅らせている。
第三極地域では、上流、中流、下流のコミュニティがそれぞれ異なる形で気候変動の影響を受けているため、これらのグループ間で対話と協力を促進することが不可欠であるが、言語の壁、社会経済的な不平等、資源へのアクセスの格差といった物流的課題がコミュニティ間の効果的な交流を妨げている。こうした状況において意義ある極域対話を達成するには、先住民の知識を統合し、持続可能な生態系管理に活用すること、コミュニティ間の交流と結束を強化し、単なる象徴的な参加にとどまらず継続的な対話や資源共有、能力構築を促進すること、さらに、自然を基盤とした解決策を拡大し、生態系修復を基盤とした持続可能かつ費用対効果の高い気候変動対応策を実施することが優先される。
例えば、第三極のヤク飼育者の知識は高地でのレジリエンスに関する貴重な洞察を提供しており、北極のトナカイ飼育者も極寒の生態系を管理する専門知識を示している。これらの知識は保存されるだけでなく、適応戦略の策定に活用されるべきである。
第三極地域では、上流、中流、下流のコミュニティがそれぞれ異なる形で気候変動の影響を受けているため、これらのグループ間で対話と協力を促進することが不可欠であるが、言語の壁、社会経済的な不平等、資源へのアクセスの格差といった物流的課題がコミュニティ間の効果的な交流を妨げている。こうした状況において意義ある極域対話を達成するには、先住民の知識を統合し、持続可能な生態系管理に活用すること、コミュニティ間の交流と結束を強化し、単なる象徴的な参加にとどまらず継続的な対話や資源共有、能力構築を促進すること、さらに、自然を基盤とした解決策を拡大し、生態系修復を基盤とした持続可能かつ費用対効果の高い気候変動対応策を実施することが優先される。
例えば、第三極のヤク飼育者の知識は高地でのレジリエンスに関する貴重な洞察を提供しており、北極のトナカイ飼育者も極寒の生態系を管理する専門知識を示している。これらの知識は保存されるだけでなく、適応戦略の策定に活用されるべきである。
ガバナンスと地政学:繊細なバランスの取り方
地政学的緊張は北極や第三極の特徴であり、重複する主権や対立する主張によってガバナンスが複雑化している。北極で増大する北大西洋条約機構(NATO)の存在感とその戦略的政策は、北極域の地政学的重要性を浮き彫りにしている。第三極は、急速な氷河融解と水資源不足によって、国境を越えた水資源共有を巡る対立悪化に直面している。
極域対話は、これらの地域でのガバナンス枠組みを調和させ、地域間協力を促進するプラットフォームとして機能すべきである。しかし、北極のガバナンスモデルを第三極に適用しても、社会的・政治的・生態学的文脈の違いにより望ましい結果をもたらさない可能性がある。ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域は人口密度が高く、多様な文化や政治的背景を持つ地域であり、地域の現実を統合したガバナンス枠組みが求められる。極域対話は、先住民および地域社会を巻き込んだボトムアップ型のアプローチを優先し、文脈に沿った政策介入と社会的な包摂性を確保すべきである。
極域対話は、これらの地域でのガバナンス枠組みを調和させ、地域間協力を促進するプラットフォームとして機能すべきである。しかし、北極のガバナンスモデルを第三極に適用しても、社会的・政治的・生態学的文脈の違いにより望ましい結果をもたらさない可能性がある。ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域は人口密度が高く、多様な文化や政治的背景を持つ地域であり、地域の現実を統合したガバナンス枠組みが求められる。極域対話は、先住民および地域社会を巻き込んだボトムアップ型のアプローチを優先し、文脈に沿った政策介入と社会的な包摂性を確保すべきである。

極域対話の様子(2024年10月)
今後の課題
北極サークル総会で繰り返し議論されたテーマは、雪氷圏関連課題の緊急性について一般の認識を高める必要性であった。北極と比較して、第三極に対する世界的な認知度の不足は、政策行動への勢いを築く上で大きな障害となっている。
今後、極地対話は具体的な行動を促進する結果重視の取り組みへ進化させる必要がある。そのためには、(1)北極と第三極間の連携強化、(2)現代技術と伝統的知識の統合、(3)地域社会や先住民族を含む包括的なガバナンスの推進が求められる。また、(4)第三極の重要性や課題に対する国際的認識を高めるための公衆の関与を強化し、(5)紛争解決や水共有、生物多様性保全などの革新的な政策ソリューションを生み出す場としての役割を果たすべきである。
極域対話は、雪氷圏に関連する課題に対する統一的行動への野心的な一歩である。しかし、その成功は、地球規模および地域規模のガバナンス、技術応用、公共関与における重要なギャップを埋める能力にかかっている。特に、第三極のニーズを優先し、極域全体での公平な協力を促進することによって、このイニシアチブは地球規模の気候ガバナンスにおける変革的な存在となり得る。2025年開催予定の「北極サークルデリーフォーラム」と極域対話は、極域対話が意義ある変化を推進する可能性を測る試金石となるだろう。(了)
今後、極地対話は具体的な行動を促進する結果重視の取り組みへ進化させる必要がある。そのためには、(1)北極と第三極間の連携強化、(2)現代技術と伝統的知識の統合、(3)地域社会や先住民族を含む包括的なガバナンスの推進が求められる。また、(4)第三極の重要性や課題に対する国際的認識を高めるための公衆の関与を強化し、(5)紛争解決や水共有、生物多様性保全などの革新的な政策ソリューションを生み出す場としての役割を果たすべきである。
極域対話は、雪氷圏に関連する課題に対する統一的行動への野心的な一歩である。しかし、その成功は、地球規模および地域規模のガバナンス、技術応用、公共関与における重要なギャップを埋める能力にかかっている。特に、第三極のニーズを優先し、極域全体での公平な協力を促進することによって、このイニシアチブは地球規模の気候ガバナンスにおける変革的な存在となり得る。2025年開催予定の「北極サークルデリーフォーラム」と極域対話は、極域対話が意義ある変化を推進する可能性を測る試金石となるだろう。(了)
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。
https://www.spf.org/opri/en/newsletter/
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