Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第584号(2024.12.05発行)

フェロー諸島:その特徴と国際関係、日本との絆

KEYWORDS 北極圏/海洋安全保障/海洋資源
フェロー諸島自治政府副首相兼外務・産業・貿易相◆Høgni HOYDAL

フェロー諸島は北大西洋にある群島で、起伏に富んだ景観と豊かな海洋資源、ヴァイキングの遺産で知られ、特に安全保障と気候変動の観点から、北大西洋において戦略的位置を占めている。
フェロー諸島は日本とは持続可能な資源管理における結びつきをもっている。
小さな島国だが、豊かな海洋資源をもつフェロー諸島は、気候変動や安全保障、経済発展という課題を切り抜けるためにも国際協力に貢献していく考えだ。
フェロー諸島と国際社会
フェロー諸島は北大西洋にある群島で、起伏に富んだ景観と豊かな海洋資源、ヴァイキングの遺産で知られています。陸地面積は合わせて約1,400km2の18の島々からなるフェロー諸島は、その200海里排他的経済水域のゆえに、海洋で大きな存在感を持っています。この広大な水域がフェロー諸島の経済と文化、アイデンティティの中心です。フェロー諸島の人口は5万5,000人、古ノルド語から派生したフェロー語を話し、デンマーク王国内で高度な自治権を享受しています。
フェロー諸島は、特に安全保障と気候変動の観点から、北大西洋において戦略的位置を占めています。フェロー諸島は冷たい北極海の水と温かい大西洋の水が交わる重要な地点にあり、海洋生物にとって豊かな環境となっています。この合流点は地球全体の海流と気候調節にとって極めて重要です。気候変動のためにこの自然の「ポンプ」に何らかの支障が出れば、北極圏全体、そしてそれを越えた地域まで、広範囲に及ぶ影響を与えかねません。
フェロー諸島はまた、安全保障の点でも戦略的に重要です。海戦上のチョークポイント(戦略上重要な海上水路)であるGIUK(グリーンランド、アイスランド、英国)ギャップは、北大西洋の海洋交通を監視・管制するうえで非常に重要です。現在の地政学的緊張を考えると、NATO(北大西洋条約機構)とその同盟国にとって、フェロー諸島の位置は重要性を増していると言えます。
小さなフェロー諸島ですが、地球規模の課題に取り組むさまざまな国際フォーラムに積極的に参加しています。ブリュッセルやコペンハーゲン、ロンドン、レイキャビク、モスクワ、北京、テルアビブ、ワシントンなどの主要都市に外交代表部を置いています。私たちは、特に海洋管理や気候変動、安全保障に関する国際法や国際条約の順守を約束しています。EU(欧州連合)には加わらず、独自の貿易協定および漁業協定を維持するという私たちの決断は、自分たちで海洋資源を管理し、グローバルな問題に独立して関与するという決意を明確に示しています。
フェロー諸島と日本:歴史的・文化的な結びつきと経済協力
フェロー諸島と日本の関係は、相互尊重と、特に海洋政策や持続可能な資源管理における島国としての利害の共有を特徴としています。両者共に海洋に関わる強力な伝統と海との深いつながりを持っています。私たちは北極評議会における日本のオブザーバーとしての役割と、小型鯨類を含む海洋資源の持続可能な利用にフォーカスする北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)への参加を評価しています。
文化面においても、さまざまな取り組みを通じて、フェロー諸島は日本との結びつきを強めようとしてきました。例えば、映画の上映やフェロー語日本語辞典の作成などの文化交流は、両国民間のコミュニケーションや理解を促進してきました。経済面では、フェロー諸島は日本との貿易関係の拡大を熱望しています。フェロー諸島経済は海洋資源に大きく依存しており、輸出額の約90%を魚類および水産養殖製品が占めています。フェロー諸島は高品質の魚介類で知られ、特にサーモンは世界でも指折りの最高級品だと自負しています。より緊密な経済関係の強化によって、フェロー諸島も日本も、貿易の拡大や海洋研究および持続可能な活動における協力から利益を得ることができます。
フェロー諸島と日本は既に、研究と教育、文化、観光、貿易、気候変動に重点を置いた「協力覚書」に署名しています。この合意は、二者の関係を一層強化し、協力の新たな機会を探るための具体的な道筋を生み出す枠組みを設定するものです。
■地図:フェロー諸島(Faroe Islands)

■地図:フェロー諸島(Faroe Islands)

(出典:フェロー諸島自治政府サイト https://www.faroeislands.fo/the-big-picture
持続可能な開発と課題:海洋資源の管理、観光、環境保護
海洋資源の持続可能な管理は、フェロー諸島の経済および環境政策の基盤です。フェロー諸島には漁業と捕鯨の長い伝統があり、これらの活動は私たちの文化と経済に深く根付いています。私たちはこうした活動が持続可能で海洋生態系に害を与えないものであることを保証するために、科学的データと国際協力が重要だと強調しています。
フェロー人の捕鯨手法、特にゴンドウクジラ漁は、しばしば国際的な論争の的となります。しかし、私たちはこの漁が、環境への影響を最小限に抑えながら必要な資源を供給するもので、持続可能だと擁護しています。商業取引を行わず、漁獲物を地域社会で分けるフェロー諸島の捕鯨法は、持続可能な資源利用のモデルです。
観光はフェロー諸島経済の新興部門であり、現在は輸出額の約6%を占めています。フェロー諸島は手つかずの自然が残る秘境として宣伝されており、エコツーリストや冒険を求める人々だけでなく、ユニークな逃避先を求める大都会からの旅行者にもアピールしています。しかし一方で、観光客の流入は、脆弱な自然環境や地域社会に課題を突き付けてもいます。こうした課題に対処するため、フェロー諸島議会は「持続可能な観光に関する法律」を採択しました。この法律は地域社会に観光客の数を規制する権限を与えるもので、観光開発が環境保全や文化保護とうまく釣り合いを取れるようにするものです。観光によって得られた収益は、自然保護と地域社会支援に再投資され、持続可能で再生型の観光産業の創出を目指します。
国際協力の重要性
フェロー諸島は人口も国土も小さいかもしれませんが、その立地と広大な海洋領域、豊かな海洋資源、国際協力への貢献のために、国際舞台で果たす役割は重大です。フェロー諸島と日本の関係は、距離的には遠く離れていても同じような課題に直面する島国同士が、持続可能な資源管理や文化交流などの共通の利益のためにどのように協力できるかを示す好例です。気候変動や安全保障、経済発展という課題を切り抜けるために、フェロー諸島は国際協力の重要性を引き続き強調していきます。そこには、日本のような国との関係強化も含まれているのです。(了)
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。
https://www.spf.org/en/opri/newsletter/

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