Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第581号(2024.10.20発行)

太平洋島嶼国向けのエネルギー分野における人材育成

KEYWORDS ハイブリッド発電システム/人材育成/技術協力
(独)国際協力機構国際協力専門員◆小川忠之

太平洋島嶼国はエネルギー自給率が低いことやエネルギー・セキュリティ確保などエネルギー分野にさまざまな課題を抱えている。
太陽光発電等やディーゼル発電設備(DEG)の最適な組み合わせにより相互補完する「ハイブリッド発電システム」は気候変動影響を最小限としつつ、電力安定供給を実現させるものであり、島嶼国または地域内で、持続的に維持管理していく体制を構築するための人材育成と技術協力が重要になっている。
太平洋島嶼国へのエネルギー支援
2015年に開催された第7回太平洋・島サミット(PALM7)において、日本政府はエネルギー安全保障の改善と温室効果ガス排出削減に資する支援として「ハイブリッドアイランド・プログラム」を提唱した。その後、2018年のPALM8と2021年のPALM9においても、日本政府はハイブリッドアイランド・プログラムの継続的な実施等を通じた、低炭素開発の達成を目指す太平洋島嶼国の取り組みを支援する点を各国政府との間で確認した。
ハイブリッドアイランド・プログラムにおいては、温室効果ガス排出量を抑制できるメリットはあるものの、気象条件によって発電量が変動する太陽光発電等の変動性再エネ電源(Variable Renewable Energy: VRE)と、気象条件によらず安定した出力を得られるが、エネルギー・セキュリティ確保の観点で課題を抱え、また環境負荷の高いディーゼル発電設備(DEG)の両者を最適な組み合わせにより相互補完し、気候変動影響を最小限としつつ、電力安定供給を実現させるための支援を実施している。さらに、このハイブリッド発電システムを、自国または地域内で、持続的に維持管理していく体制を構築することが重要なコンセプトとなっている。これは、過去の無償資金協力等による支援において、DEGを含む電力供給設備が供与されたものの、供与後の維持管理(特に、定期的に実施するDEGのオーバーホール作業と必要なパーツの調達)が複数国において課題となっていたため、地域プログラムとして形成されたものであり、その後の加速的な再エネ導入を踏まえプログラム内容も進化している。同プログラム実現のため、無償資金協力による太陽光発電や水力発電等の設備導入、技術協力による開発計画策定、人材育成や組織体制強化を組み合わせ持続的な開発効果を発現できるよう、現在は「グリーンパワーアイランド・プログラム」として実施されている。同プログラムにおける支援事例の一つとして、国単位だけではなく地域単位への広域な技術協力として「太平洋地域ハイブリッド発電システム導入プロジェクト」が2017年3月より実施されている。本プロジェクトでは、地域の拠点であるフィジーのリソース(人材、施設、制度等)を活用し、周辺4カ国(ミクロネシア連邦(FSM)、マーシャル諸島、キリバス、ツバル)を含めた人材育成を実施しており、DEGや太陽光発電設備の維持管理能力の強化を行っている。
太平洋地域ハイブリッド発電システム導入プロジェクト
太平洋島嶼国では、発電用燃料の大部分を輸入ディーゼル燃料に依存しているため、例えばソロモン、バヌアツ等、住宅用電気料金が約80〜90円/kWhにも達する国があり、さらには原油相場変動の影響を大きく受ける脆弱なエネルギー・セキュリティ構造になっている。このため、「太平洋地域ハイブリッド発電システム導入プロジェクト」においては、ディーゼル発電設備の運用・維持管理技術の向上に加えて、VRE発電設備の経済的・安定的な計画手法、ならびに太陽光発電(PVシステム)の稼働状況を定期的に確認し、故障等発生時にはその原因を究明するための維持管理能力の向上を支援している。
太平洋地域と地理的、気候的な環境が類似する沖縄や九州の離島でも、電力系統はディーゼル発電機を主体とする構成となっているが、燃料高騰による影響、高い発電原価と二酸化炭素排出原単位、風力発電や太陽光発電などの変動性電源の増加による電力システム運用上の課題を有している。これら問題解決に向けて、ディーゼル発電機の経済的な運用・メンテナンス技術に加え、各種実証研究等で得た経験・ノウハウも活かし、再エネ電源とディーゼル発電設備を組み合わせた、電力安定供給のための新しいコンセプトによるシステム(ハイブリッド発電システム)を構築している。このため、本プロジェクトでは、JICA直営の専門家に加えて、(株)沖縄エネテック/沖縄電力(株)共同企業体が短期専門家として対象5カ国に派遣されており、国内離島におけるハイブリッド発電システム計画・運用のノウハウを活用しつつ、再エネ電源の大量導入が進む大洋州の事例を国内にフィードバックすることで、双方向的にスキルアップするための取り組みを実施している。
また、同プロジェクトにおいては、人材、物流など太平洋地域の拠点であるフィジーにおいて、フィジー電力会社(EFL)が所有する既存の研修インフラを活用しながら、上記ハイブリッド発電システムの普及・拡大に必要な研修体制を整備するための支援を実施している(図)。
■図 フィジーを拠点とした地域研修体制の構築(出所:国際協力機構(JICA))

■図 フィジーを拠点とした地域研修体制の構築(出所:国際協力機構(JICA))

持続可能な体制への国際協力
2023年6月に同プロジェクトが完了し、フィジー地域拠点のTOT(Trainer of Trainee)人材の育成や、対象国における再エネとディーゼル発電機を組み合せた運転・機器メンテナンス能力向上等の効果が確認できた。さらに、再エネ電源の大量導入とエネルギー・トランジションを進めるためのロードマップ精査、需要側のマネジメントを含む新技術導入に向けた取り組みを支援するための広域技術協力「エネルギー・トランジションプロジェクト」が2024年4月から開始されている。本プロジェクトでは、フィジー、ツバル、サモア、パラオ、ミクロネシア連邦(ヤップ州)の5カ国を対象とし、前回協力に続きフィジーでの地域研修体制構築を支援しつつ、各国におけるエネルギー・トランジションを促進するための支援を実施している。パラオ、サモア等複数の国において、PVシステムを中心とした再エネ電源の導入が急速に進められた結果、慣性力不足や保護協調不良等、電力系統の安定運用を揺るがす課題に直面しており、より高度な需給・系統運用技術の導入が求められる状況となっている。本協力においては、日本や他の島嶼国における再エネ導入・系統安定化分野での取り組み事例を紹介しつつ、太平洋各国で相互にナレッジを共有できる人的ネットワーク構築にも貢献することが期待されている。
上記取り組みに加え、将来的に途上国のエネルギー・トランジションに貢献する人材育成の一環として、GX長期研修員(途上国の研修員が日本国内の大学で、エネルギー関連の社会科学・革新的技術分野の修士・博士号の取得を目指すプログラム)の受け入れや、クリーンなベースロード電源である海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion ; OTEC)の島嶼国への展開も検討しており、電力供給のみでなく、食糧問題や産業振興等、島嶼地域が抱える複合的な課題解決への貢献にも取り組んでいる。(了)

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