Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第581号(2024.10.20発行)

太平洋、サモア、そして伝統文化

KEYWORDS 太平洋島嶼国/サモアの知識体系/伝統的知識
サモア国立大学上級講師、太平洋研究教育局(REP)エグゼクティブディレクター◆Brian T.Alofaituli

サモアの知識体系(SKS)は、サモアの無形・有形の文化遺産を用いた複合的な「知の在り方」であり、海洋保全に文化的背景を与える。
本稿では、文化、歴史、発展、近代性、グローバリゼーションに織り込まれたサモアの知識体系(SKS)の価値を簡単に紹介する。
サモアの知識体系
太平洋は、サモアの伝統、文化的慣習、表現において重要な役割を果たしている。今日、近代化へのシフトは、何世紀にもわたってサモア人を支えてきたこれらの慣習を減少させている。航海術、気象パターンの読み方、ヴァア(カヌー)の作り方、海辺において特定の鳥や魚、動物が重要な役割を果たしていることやそれらの利用法を知ること、漁の技術。これらは、近代化とグローバリゼーションへの自然な移行により目立たなくなり、沈静化してしまっている。サモアの伝統文化は、実践と海との関係において発展してきたが、その深い歴史的、文化的、精神的エッセンスは、歌、民話、弁舌、織物、系図、家族や村の名前、言語を通して、伝統的知識の中に残っている。
西洋の経験的データに加え、伝統的知識は、地球環境問題、文化遺産、海洋保全に取り組むにあたって国、地域、国際的な枠組みや対話の一部となっている。特に、サモアの知識体系(SKS)は、海洋保全に文化的背景を与える役目を持つ。SKSは、サモアの無形・有形の文化遺産を用いた複合的な「知の在り方」である。この多層的な知識は、精神的・共同体的な関係や物質的文化、そして言語・歌・踊りを通じた文化的表現を統合している。SKSはサモアの思考、態度、そして共同体の習慣に深く根付いている。
サモアの人々の交流の中で、尊敬や敬意、すなわちmīgao(ミーガオ)は不可欠であり、自然なものであるべきである。ミーガオによって、人々の相互関係や地球、海とのつながりに対する意識が高められる。サモアを取り巻く海、サンゴ礁、魚、そして海洋生物を守ることは国の優先事項であり、それはサモアのアイデンティティや「知の在り方」が海と結びついているからだ。『サモア発展の道筋』※1によると、太平洋はサモア人を取り囲み、守り、養っている。したがって、生物多様性に富んだサモアの海を守ることは、国家的・地域的優先事項であり、集団的な努力が求められている。21世紀に入り、海とそのサモアにおける重要性をより積極的に尊重しようという動きが生まれている。
サモアの知識体系(SKS)では人、陸、海、全てがつながる(出所:著者(サリエモア、レヴィ周辺にて))

サモアの知識体系(SKS)では人、陸、海、全てがつながる(出所:著者(サリエモア、レヴィ周辺にて))

複雑な伝統文化と文化的慣習
西部のウポル島、サヴァイ島、マノノ島、アポリマ島はサモア独立国に属し、東部のトゥトゥイラ島とマヌア諸島は米国領サモアである。これらは現代の 2つの政治的派閥であるが、サモア諸島は共通の言語、物質文化、血縁、歴史、そして首長制度を有している。サモアのことわざに "E tala lasi Samoa"(サモアには多くの物語がある)という言葉があり、サモアとその複雑な伝統文化を理解するための多様な解釈、物語、系譜が存在する。最初の入植者からキリスト教や帝国勢力の到来まで、太平洋はサモアにとってさまざまな変化をもたらす開かれた道であった。サモアに変化の波が押し寄せる中、地元の非営利団体や政府機関は、海とその中の生命を保護し、海と伝統文化の何世紀にもわたる絆を維持しようと尽力している。
何世紀にもわたり、サモアのマタイ(酋長)は儀式的な集まりでの演説においてことわざを用いてきた。海に関することわざは、家族や村の中での出来事に文脈を与え、特定の状況に対する助言として表現される。例えば、"O le va'a ua motu ma le taula"(錨のない船)ということわざがある。これは、十分な支援のない旅人を表す言葉だ。また、サヴァイ島にあるプアヴァとファガレレに由来する"E lutia I Pu'ava, 'ae mapu I Fagalele"ということわざがある。プアヴァには危険な潮流があるが、ファガレレは穏やかな湾であり、このことわざは「困難はいつまでも続かない」ことを示唆し、個人または家族を励ますためによく使われる。サモア語はサモアらしさを支える多くの柱のひとつである。サモア人は言語、特に酋長の演説術を維持することを通じて、これらの詩的表現を用いて海を理解することができる。サモアの物質文化においても、海は、酋長の権威を象徴するものを提供している。例えば白い貝殻(Cypraea ovula)はサモアのプレ(権威)を象徴し、戦時には、タウムアルア(taumualua)と呼ばれる戦闘用カヌーの船首と船尾に白い貝殻が飾られた。
サモアの知識体系(SKS)における特別な文化的慣習は、より健全な沿岸・海洋システムへの意識を高める役割を果たしている。地域的なアプローチとして、太平洋の歴史、知識、科学は「現代の課題に対する解決策を握っている」※2。サモアや太平洋地域全体では、漁業を含め、葬儀や村の行事の際には、特定のタプ(禁じられた慣習)が存在しており、これらは乱獲を抑え、地域社会による海洋資源の共同管理を実践するための方法であった。特にサモアの村々では、アトゥレ(メバル)やパロロ(多毛類)の収穫期には、共同で漁業が行われ、村独自の伝統的な慣習が披露される。イアサまたはラウメイ(共にウミガメ)のような神聖または禁忌とされる魚が獲れた場合、酋長に捧げられる。
19世紀のタウムアルアの舳先(出所:サモア国立大学)

19世紀のタウムアルアの舳先(出所:サモア国立大学)

海と伝統文化の保全へ
本稿では、文化、歴史、発展、近代性、グローバリゼーションに織り込まれたサモアの知識体系(SKS)の価値を簡単に紹介した。文化は進化し、ダイナミックに動くものであり、次の世代はサモア文化を同じように評価しないかもしれない。だからこそ、今日の社会、政治、環境問題に取り組むとき、さまざまな「知の在り方」を織り交ぜ続けることが極めて重要である。ミーガオ(畏敬の念)があるからこそ、私たちはお互いに、そして環境に対して、責任ある決断を下すことができる。文化や言語の実践は、私たちがいる空間によって左右される。ゆえに、海と伝統文化の両方を守るために、私たちの行動には意識的な決断が必要である。(了)
※1 Ministry of Finance, Government of Samoa. Pathways for the Development of Samoa FY2021/22- FY2025/26
※2 Pacific Community(2022).Strategic Plan 2022-203: Sustainable Pacific development through science, knowledge and innovation.
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。
https://www.spf.org/en/opri/newsletter/

第581号(2024.10.20発行)のその他の記事

ページトップ