Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第575号(2024.07.20発行)

編集後記 

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口秀

◆今年4月10~12日の3日間、スペイン政府主催、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC/UNESCO)共催の「2024年海の10年会議」が、沿岸部に位置し、カタルーニャ州の州都であるバルセロナで開催された。バルセロナは、13世紀から今に至るまで海運・造船の拠点として長い歴史を持つ上に、近年は海洋研究・海洋科学の中心地と位置付けられ、州政府主導で、国連が掲げる海洋の持続可能性への強いコミットメントを掲げている。バルセロナが、初めての「海の10年会議」の開催地に選ばれた理由はそこにある。
◆他方、わが国における取り組みは、(日本では「国連海洋科学の10年」(https://oceandecade.org/ja/)と呼ばれる。)いつも「国連海洋科学の10年」の解説から始まり、各項目に該当する取り組みの有無を海洋関連機関に照会したり提案させたりした結果を寄せ集めて国連のうたい文句に合わせた形だけを作るため、コミットメントとしての説得力に欠けていると言わざるを得ない。さらに、2021年から開始され今年でもう4年目に突入しているが、わが国では、盛り上がりに欠け、認知度もかなり低いことも事実だ。
◆しかし振り返ってみると、「国連海洋科学の10年」については、その国内委員会の設置*と事務局運営を、日本海洋政策学会の協力の下、(公財)笹川平和財団海洋政策研究所が担ってきたわけで、この認知度の低さと、地域や国単位でのコミットメントが明確になってない原因と責任は政府や関係者ではなく、むしろ我々の側にあるのかもしれない。時代が時代なら所長は切腹ものである。
◆そこで、切腹する前に一言残しておきたい。こうなった原因は、わが国が、戦後トップダウン政策を否定する風潮の中、国連などから大号令が出されると、関係機関のトップは慌てるだけで、歴史や伝統に根ざす自負心も忘れて、地域や国が目指す方向性や将来像も明確にできないまま、始終、末端に丸投げのボトムアップもどきの形だけを作ることが習慣になってしまったからではないかと考えている。常日頃からトップが大方針をきちんと下に示している民間などが大きな成果を得ている実例は幾らでもある。スペイン政府の海洋政策も然りである。
◆本号の3人の著者は、それぞれの分野第一線で活躍する優秀な研究者であり、実に興味深い研究を自由に進め、海洋科学の発展に大きく貢献され研究成果は著名な雑誌に掲載されており認知度は十分に高い。海底のさらに下に広がる世界の話、なのに、海の深さを測る技術の発展の話、そして、これまであまり知られていなかった水中文化遺産の話の3本の記事を読むとそれだけでわくわくする。「国連海洋科学の10年」が設定された背景は、国連が定めた17個の持続可能な開発目標のうち14番目の「海の豊かさを守ろう」は、まだ人類が海のことを10%程度しか理解してないので、10年では、とても達成できそうもないため、世界全体で海洋の理解の加速を求めたことだ。この3人の著者は間違いなく理解の加速に貢献されている。
◆にもかかわらず、国内での認知度も低く国単位のコミットメントが曖昧なのは、優秀な研究者達に、「我々は「国連海洋科学の10年」にこれだけ貢献しております。リテラシー向上にも努めております。」などと、無理やり言わせながら、ただネタをかき集めて束ねるからだ。そんなボトムアップもどきで誰が得をするのか?誰も得をしないことには誰も熱中するはずがない。よって、海洋政策研究所は、海洋関係者と国民に対して、海洋国としての歴史や伝統に根ざす自負心を掻き立て、将来像を明確にした政策をお示しできるよう心を入れ替える。(所長 阪口秀)
※ V. RYABININ著『国連海洋科学の10年』日本国内委員会発足に寄せて、本誌第500号(2021.06.05発行)
https://www.spf.org/opri/newsletter/500_1.html

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