Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第575号(2024.07.20発行)
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海洋掘削を通じた海のダイナミクスへのリテラシー促進
KEYWORDS
国連海洋科学の10年/国際深海科学掘削計画(IODP)/J-DESC
(国研)海洋研究開発機構高知コア研究所上席研究員、日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC)理事◆諸野祐樹
「国連海洋科学の10年」で掲げられている海洋に関係するミッションの達成に貢献すべく、日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC)は、国際深海科学掘削計画(IODP)の日本国内組織として海洋底下に隠されたさまざまな謎の解明を通じ、人類社会に貢献する科学に取り組んでおり、海洋科学と海洋掘削科学のリテラシー向上を目指している。
「海」はどこまでが「海」なのか
最近、全国の科学館や博物館において、簡単な実験も含めながら陸からはるか遠く離れた海の底のさらに下にすむ生き物についてご紹介するイベントを開催しています。そこで必ずお聞きするのが、「360°全部海、陸が見えない体験をしたことがありますか?」という質問です。
調査などで海に出かけることが多い私たち研究者が忘れてしまいがちなことですが、広大な海に出かけることは、一般の方々にとっては未体験であることがほとんどです。イベントでは30~50人参加者のうち一人か二人が手を挙げてくだされば多い方で、誰もいらっしゃらないこともあります。私たち人間が暮らしている陸地は地球表面積の約3割ほどで、その倍以上、7割の面積を占めていても、なかなか目にすることができない遠くの海やその中のことを想像するのは、とても難しいものです。夜に空を見上げると星が瞬いているのが見えますが、見えない遠くの海やその中のことは、想像するだけでも大変です。
さらに、広大な海には必ず底(海底)があります。私たちはこの海底から下の地層を掘削して研究を行っています。海の底のさらに下は地層世界ではありますが、海水が深部まで循環しており、海の延長線上にあるのは間違いありません。研究試料を獲得するために陸から遠く離れた海に長期の航海に出ることもあり、自分たちは海洋研究を行っているのだと思っていました。ところが、『国連海洋科学の10年に関する実施計画』(UNESCO,2021)を見てみると、その冒頭近くに“「海洋」は海洋表層から海底まで広がる”と書かれていました。しかし海は、海底までだけではなく、海底のさらに下にも広がっているのです。
私たち日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC)は、一般の方々、専門の職業についておられる方を問わず、海底のさらに下の地層世界を研究する海洋掘削科学に関して皆さんの知識・認知(リテラシー)を促進することがとても重要な取り組みであると考えました。一方、その活動は「国連海洋科学の10年」で掲げられているミッションの達成にも貢献できると考え、「科学海洋掘削を通じた地球・海のダイナミクスへのリテラシー向上」※1というアクティビティとして、ユネスコ政府間海洋学委員会へ申請することといたしました。その結果、2022年10月19日にユネスコ政府間海洋学委員会から正式に515番目のアクションとして承認の通知があり、同年の11月29日より活動を開始しています。
調査などで海に出かけることが多い私たち研究者が忘れてしまいがちなことですが、広大な海に出かけることは、一般の方々にとっては未体験であることがほとんどです。イベントでは30~50人参加者のうち一人か二人が手を挙げてくだされば多い方で、誰もいらっしゃらないこともあります。私たち人間が暮らしている陸地は地球表面積の約3割ほどで、その倍以上、7割の面積を占めていても、なかなか目にすることができない遠くの海やその中のことを想像するのは、とても難しいものです。夜に空を見上げると星が瞬いているのが見えますが、見えない遠くの海やその中のことは、想像するだけでも大変です。
さらに、広大な海には必ず底(海底)があります。私たちはこの海底から下の地層を掘削して研究を行っています。海の底のさらに下は地層世界ではありますが、海水が深部まで循環しており、海の延長線上にあるのは間違いありません。研究試料を獲得するために陸から遠く離れた海に長期の航海に出ることもあり、自分たちは海洋研究を行っているのだと思っていました。ところが、『国連海洋科学の10年に関する実施計画』(UNESCO,2021)を見てみると、その冒頭近くに“「海洋」は海洋表層から海底まで広がる”と書かれていました。しかし海は、海底までだけではなく、海底のさらに下にも広がっているのです。
私たち日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC)は、一般の方々、専門の職業についておられる方を問わず、海底のさらに下の地層世界を研究する海洋掘削科学に関して皆さんの知識・認知(リテラシー)を促進することがとても重要な取り組みであると考えました。一方、その活動は「国連海洋科学の10年」で掲げられているミッションの達成にも貢献できると考え、「科学海洋掘削を通じた地球・海のダイナミクスへのリテラシー向上」※1というアクティビティとして、ユネスコ政府間海洋学委員会へ申請することといたしました。その結果、2022年10月19日にユネスコ政府間海洋学委員会から正式に515番目のアクションとして承認の通知があり、同年の11月29日より活動を開始しています。
J-DESCとは
科学的な掘削を通じて、科学者たちは地下のサンプルを入手し、地震や津波、気候変動、火山噴火などの自然災害に関するさまざまな重要な知識を掘り起こしてきました。50年以上前の1968年から深海掘削計画(Deep Sea Drilling Project)として米国内プロジェクトとして始まった海洋掘削は、1975年からは国際プロジェクトとなり、現在はInternational Ocean Discovery Program (IODP)※2として海洋底下に隠されたさまざまな謎の解明を通じ、人類社会に貢献する科学に取り組んでいます。
J-DESCは日本地球掘削科学コンソーシアム(Japan Drilling Earth Science Consortium)の略称で、国際プログラムであるIODPの日本国内組織として地球掘削科学の科学推進や各組織・研究者の連携強化を目的に、大学や国立研究機関が中心となって2003年に設立した連合体です。現在50以上の国内機関が加盟しており、地球掘削科学の推進に係る企画を提案するとともに、各研究機関等および研究者等が実施する活動の有機的な連携を図り、地球科学の発展に寄与することを目指しています。
その主な活動としては、IODPで実施される国際掘削航海へ乗船する研究者の推薦、科学計画や将来へ向けた提言などのとりまとめなど、科学者コミュニティのとりまとめのほか、J-DESCコアスクールという、経験を積んだ研究者によるハンズオントレーニング(年4〜5回)や、研究者・学生向けのワークショップ、一般の方々向けのシンポジウムなどの開催、日本が所有する科学海洋掘削では世界最高性能の掘削船である地球深部探査船「ちきゅう」への大学院生乗船などを推進しています。また、会員が提案する教育活動・シンポジウムの活動支援、ニュースレター・メールニュースなどの発行を通じた広報活動なども実施しています。
J-DESCは日本地球掘削科学コンソーシアム(Japan Drilling Earth Science Consortium)の略称で、国際プログラムであるIODPの日本国内組織として地球掘削科学の科学推進や各組織・研究者の連携強化を目的に、大学や国立研究機関が中心となって2003年に設立した連合体です。現在50以上の国内機関が加盟しており、地球掘削科学の推進に係る企画を提案するとともに、各研究機関等および研究者等が実施する活動の有機的な連携を図り、地球科学の発展に寄与することを目指しています。
その主な活動としては、IODPで実施される国際掘削航海へ乗船する研究者の推薦、科学計画や将来へ向けた提言などのとりまとめなど、科学者コミュニティのとりまとめのほか、J-DESCコアスクールという、経験を積んだ研究者によるハンズオントレーニング(年4〜5回)や、研究者・学生向けのワークショップ、一般の方々向けのシンポジウムなどの開催、日本が所有する科学海洋掘削では世界最高性能の掘削船である地球深部探査船「ちきゅう」への大学院生乗船などを推進しています。また、会員が提案する教育活動・シンポジウムの活動支援、ニュースレター・メールニュースなどの発行を通じた広報活動なども実施しています。

J-DESCコアスクール同位体コースの様子、クリーンルームでの試料調製
J-DESC-IODP Initiative:全方面での海洋科学リテラシー向上
J-DESCにとって、「国連海洋科学の10年」は深く関連するべき取り組みであり、どのような形で貢献するべきか、J-DESC理事会において議論をしました。そこで、実はコアスクールやシンポジウム等、J-DESCが主体的に開催してきた活動・イベントそのものが、「国連海洋科学の10年」を広く日本社会に広める一助となりうるとの考えに至りました。これまでの取り組みとしては、3つのコースに分かれたハンズオントレーニングであるコアスクール、掘削船と陸上の学校・科学館・博物館などをオンライン接続で結び、実際に掘削を行っている船上の研究者と学生・一般参加者が交流するライブイベント(2022年から現在まで17件実施)、国内・国際学会でのブース出展(13回)、研究集会や講習会の共催(4件)、および一般の方々を対象とした講演会(延べ1,000人以上参加)などを実施しており、海洋や海洋底下の科学、「国連海洋科学の10年」と海洋コミュニティが挑戦している10の課題などについて認知拡大へ取り組んでいます。
私たちは掘削を行う掘削船のことを「プラットフォーム」と呼んでいます。何かを行うときにその基盤となるものや環境のことを一般的にプラットフォームと言いますが、J-DESCでは、コアスクールやシンポジウムなど、さまざまな催しを"学びや交流の場"として提供しており、これを進行の基盤、つまり「プラットフォーム」と考えて、「国連海洋科学の10年」のプロモーション/コミュニケーション機関としての機能を拡大することを目指しています。海洋科学全般に関する知見・認知の拡大、すなわちリテラシーの向上を目的としてさらに活動を拡大していきたいと考えています。(了)
私たちは掘削を行う掘削船のことを「プラットフォーム」と呼んでいます。何かを行うときにその基盤となるものや環境のことを一般的にプラットフォームと言いますが、J-DESCでは、コアスクールやシンポジウムなど、さまざまな催しを"学びや交流の場"として提供しており、これを進行の基盤、つまり「プラットフォーム」と考えて、「国連海洋科学の10年」のプロモーション/コミュニケーション機関としての機能を拡大することを目指しています。海洋科学全般に関する知見・認知の拡大、すなわちリテラシーの向上を目的としてさらに活動を拡大していきたいと考えています。(了)

高校生を対象とした掘削船とのライブ中継イベント
※1 英文名称 : Advancing literacy on Earth and Ocean Dynamics through ocean scientific drilling, J-DESC-IODP initiative
https://j-desc.org/about_us/un_decade_ms/
※2 益田晴恵著「新しい深海科学掘削計画と気候変動問題への貢献」本誌501号(2021.06.20発行)
https://www.spf.org/opri/newsletter/501_1.html
https://j-desc.org/about_us/un_decade_ms/
※2 益田晴恵著「新しい深海科学掘削計画と気候変動問題への貢献」本誌501号(2021.06.20発行)
https://www.spf.org/opri/newsletter/501_1.html
第575号(2024.07.20発行)のその他の記事
- 海洋掘削を通じた海のダイナミクスへのリテラシー促進 (国研)海洋研究開発機構高知コア研究所上席研究員、日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC)理事◆諸野祐樹
- 測深技術の進歩と海洋底科学 東京大学大気海洋研究所教授◆沖野郷子
- 「国連海洋科学の10年」における水中文化遺産プロジェクト 東京海洋大学大学院(ユネスコ水中考古学大学連携ネットワーク)教授◆岩淵聡文
- 編集後記 (公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口秀