Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第574号(2024.07.05発行)
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事務局だより
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆John A. Dolan
◆島嶼国を中心に現代社会が直面している自然環境の変化への対応と人材教育が今号のテーマである。1本目では成澤氏よりパラオ共和国の海と気候変動への取り組みについて考察を寄せていただいた。成澤氏のご専門は海洋環境人類学・海洋環境倫理学。その魅力的な視点を生かすため、パラオ大統領からUNFCCC/COP28(2023)の政府代表団アドバイザーに指名された。パラオの自然や海を守ることに貢献したいという使命感で国際枠組みに挑んだが、いささか暖簾に腕押しの感を覚えたようだ。私が参加したCOP21(2015)や22(2016)の頃と比べ、OPRIを含む海洋関係団体の活動もあって「海洋と気候変動対話」が設立・運用されていることは喜ばしい変化だが、海の存在感が薄いとの印象は変わらなかったという。残念ながら「国連海洋科学の10年」の最中でも事情があまり改善していないようだ。COP28では「損失と損害基金」の有用な交渉の場面もあったが、海洋環境問題は交渉議題の中心にならず、「世界が海を大切に見ていない」との声も現場で耳にしたという。それでも重要な機会を逃さず太平洋島嶼国間の新しいイニシアチブ(Unlocking Blue Pacific Prosperity)を発表できた。
◆2本目の林氏はカロリン諸島での伝統的な航海術の衰退と復活への道を報告いただいた。旅行ライターだけにその歴史的背景と本人の体験談を交えた実に面白いストーリーである。読後、この魔術に近い航海術についての書籍はないかと検索したくなった。UNESCOの無形文化遺産(危機遺産)である航海術が関係者の努力により救われそうだが、復興が貨幣経済社会で「大変なお金と時間がかかる贅沢な活動」なのに対して、離島ではお金がかからないという貴重な指摘も広く周知されたい。
◆3本目のRicketts氏は、海洋安全保障の観点から海をめぐる新しい事情と脅威の対応策としてアカディア大学(カナダ)が導入した認証プログラムを紹介する。従来の犯罪的行為や資源の大規模な過剰利用に加え、気候変動の対応も海洋安全保障の定義に入れるべきだとの考えから、ハリファックスの造船会社と国際海洋安全保障専門家協会(IAMSP)と提携し、海洋安全保障専門家資格(PCMS)プログラムを2022年からスタートした。アカデミックコースと実務コースを卒業したら専門家資格を大学からもらえ、実務経験を積んだ修了生にはIAMSPの認定資格も与えられる。「包括的に批判的思考ができるように訓練」を受けた受講生は海洋関連業界にとってはありがたい。
◆今号は島嶼国の海洋管理の課題と成功、島民の奥深い伝統文化の見直し、そして現状にすぐ取り組める人材を送り出す大学の試みを紹介した。島嶼国にご関心あれば、是非、7月8日〜19日に行う(公財)笹川平和財団 海洋政策研究所主催の「太平洋島嶼国ウィークス(Pacific Island Nations Weeks)」※のセミナーシリーズやフェスタに参加して下さい。(研究員 John A. Dolan)
◆2本目の林氏はカロリン諸島での伝統的な航海術の衰退と復活への道を報告いただいた。旅行ライターだけにその歴史的背景と本人の体験談を交えた実に面白いストーリーである。読後、この魔術に近い航海術についての書籍はないかと検索したくなった。UNESCOの無形文化遺産(危機遺産)である航海術が関係者の努力により救われそうだが、復興が貨幣経済社会で「大変なお金と時間がかかる贅沢な活動」なのに対して、離島ではお金がかからないという貴重な指摘も広く周知されたい。
◆3本目のRicketts氏は、海洋安全保障の観点から海をめぐる新しい事情と脅威の対応策としてアカディア大学(カナダ)が導入した認証プログラムを紹介する。従来の犯罪的行為や資源の大規模な過剰利用に加え、気候変動の対応も海洋安全保障の定義に入れるべきだとの考えから、ハリファックスの造船会社と国際海洋安全保障専門家協会(IAMSP)と提携し、海洋安全保障専門家資格(PCMS)プログラムを2022年からスタートした。アカデミックコースと実務コースを卒業したら専門家資格を大学からもらえ、実務経験を積んだ修了生にはIAMSPの認定資格も与えられる。「包括的に批判的思考ができるように訓練」を受けた受講生は海洋関連業界にとってはありがたい。
◆今号は島嶼国の海洋管理の課題と成功、島民の奥深い伝統文化の見直し、そして現状にすぐ取り組める人材を送り出す大学の試みを紹介した。島嶼国にご関心あれば、是非、7月8日〜19日に行う(公財)笹川平和財団 海洋政策研究所主催の「太平洋島嶼国ウィークス(Pacific Island Nations Weeks)」※のセミナーシリーズやフェスタに参加して下さい。(研究員 John A. Dolan)
※太平洋島嶼国ウィークス(Pacific Island Nations Weeks) https://cp-entry.com/pinw
第574号(2024.07.05発行)のその他の記事
- 太平洋島嶼国による海洋環境への取り組み ~パラオ共和国の事例から~ 東北大学大学院環境科学研究科博士後期課程院生/東北アジア研究センター◆成澤みく
- カロリン諸島の伝統的航海術の現状と継承の課題 旅行ライター◆林和代
- 気候変動時代における海洋安全保障 ~教育・訓練の新たなパラダイムの必要性~ 前アカディア大学学長、地球・環境科学部門教授◆Peter RICKETTS
- 事務局だより (公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆John A. Dolan