Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第573号(2024.06.20発行)

事務局だより

瀬戸内千代

◆新しい日本銀行券の発行が2024年7月3日に始まります※1。肖像画が回転する3Dホログラムが導入される世界初の銀行券ということで、手に取るのが楽しみです。一万円、五千円、千円の紙幣が刷新されますが、海の政策提言誌として特に注目したいのは、微生物学者・北里柴三郎(1853~1931年)の肖像が描かれる千円券です。その裏面に海の浮世絵がデザインされるからです。
◆新札に登場するのは、波を好んで描いた絵師・葛飾北斎の代表作、大波が白いしぶきを上げて覆いかぶさる大胆な構図で広く知られる「神奈川沖浪裏」です。江戸時代に人気を博した浮世絵版画シリーズ「冨嶽三十六景」の1作品で、海の向こうには信仰の対象でもある富士山が静かにそびえています。売れ行き好調だったこのシリーズは10作品が追加されたため46図から成り、神奈川沖のほかにも海の風景を楽しめる作品が幾つかあります。つくだ煮の発祥地で当時は離島だった佃島を描いた「武陽佃嶌」、木更津沖を進む弁財船が藍色の背景に映える「上総ノ海路」、砂浜に塩田が広がっていた頃の「東海道江尻田子の浦略図」、まだ橋がなく干潮時に砂州で渡る江ノ島を描いた「相州江の嶌」などです。
◆いずれも名作ですが、やはり白眉は、海外でも「グレートウェーブ」と愛称が付くほど親しまれている「神奈川沖浪裏」でしょう。版画作品のため収蔵館は東京国立博物館など複数ありますが、たとえば江戸東京博物館(改修のため休館中で2025年度にリニューアルオープン予定)は、冨嶽三十六景の同作品の解説文で、「作曲家ドビュッシーが、『海』を制作するにあたり、この作品からインスピレーションを得、画家ゴッホが弟宛の手紙で激賞したという話が伝わる、国内外でもっとも評価が高い作品」と紹介しています。これを描いた時の北斎は70代でした。90年の人生のほとんどを過ごした今の東京都墨田区には、「すみだ北斎美術館」があります。同館は、北斎の作品が新紙幣の図柄に採用されたことを記念して、8月25日まで特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ─神奈川沖浪裏の誕生と軌跡─」を開催中です。遠方の方も、これを機に同館のサイトや、文化財のデータベース※2などで、海の浮世絵の魅力を味わっていただけましたら幸いです。(瀬戸内千代)
特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ─神奈川沖浪裏の誕生と軌跡─」ちらし
https://hokusai-museum.jp/GreatWaveImpact/
※1 (独)国立印刷局「新しい日本銀行券特設サイト」 
https://www.npb.go.jp/ja/n_banknote/index.html
※2 一例として、国立文化財機構所蔵品統合検索システム(ColBase) 
https://colbase.nich.go.jp/?locale=ja

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