Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第573号(2024.06.20発行)
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水環境保全・水資源利活用技術の開発
KEYWORDS
生態環/微生物/人材育成
長岡技術科学大学学長特別補佐(産学地域連携担当)、上席フェロー、第16回海洋立国推進功労者表彰受賞◆山口隆司
水を持続的に利活用していくためには、水利活用後に適切に水を浄化して自然に戻す環境保全や水資源再生の取り組みが必要である。
また、当該取り組みが社会実装を成していくためには、カーボンニュートラルなど次代のためのキーワードも包含したモノやサービスとして創成していくことも求められる。
本稿では、水資源再生の取り組みの社会形成での位置付け、当該技術の研究開発の事例および取り組みを通した人材育成について記した。
また、当該取り組みが社会実装を成していくためには、カーボンニュートラルなど次代のためのキーワードも包含したモノやサービスとして創成していくことも求められる。
本稿では、水資源再生の取り組みの社会形成での位置付け、当該技術の研究開発の事例および取り組みを通した人材育成について記した。
水資源への取り組み
「人間が活動していく上で、確保しないといけないものを挙げてください」と問うと、その答えとしては、水、食料、エネルギーなどのワードが返ってくると思われる。本稿で着目する水は、飲み水からはじまり、生活用水、産業用水、親水・修景水など多様に利活用されている。食料の確保に関しても水は、魚介・海藻・野菜を育てる水として利用される。水を持続的に利活用していくためには、水利活用後に適切に水を浄化して自然に戻すというような、環境保全や水資源再生の取り組みが必要である。一方、当該取り組みが社会実装を成していくためには、カーボンニュートラル、エネルギー、国際展開など、次代のためのキーワードも包含したモノやサービスとして創成していくことも求められる。本稿では、水資源再生の取り組みの社会形成での位置付け、当該技術の研究開発の事例、および取り組みを通した人材育成について記す。
生態環と環境保全・水資源再生技術
「きれいな海や川」に入って遊ぶことは楽しいと同時に自然を観察する目を培ったり、魚とりをすることなどで知恵出しや工夫の技量を磨く場にもなる。こうした親水で水浴できる海や川の水質を良く保っているものは自然の浄化機構である。自然の中には汚れを沈殿・吸着させたりするイオンや砂礫・炭など非生物の物質と、汚れを主に分解する微生物が存在する。
長い自然の営みの中で、生産者(藻類・植物)と消費者(魚介・動物)および分解者(微生物)との間で、炭素・窒素・硫黄・リンなどの物質の利活用や、やり取りがバランス良く成される生態環が形成されてきた。しかし、ここに、人間活動による過大な消費が入り込むと、特に海洋・河川・海底・土壌に存在する微生物の能力だけでは分解の能力が不足し、目に見えるゴミや汚水として滞留・顕在化あるいは潜在化し、水環境などを悪化させる事象が起きてしまう。人口の集中による都市化や産業革命以降の化石燃料の使用は、自然の生態環のバランスを急変させるものとなった。生態環のバランスを保全・修復・緩和するための環境保全・資源循環技術は、都市の拡大・縮小、新産業の興隆、新物質生産に伴う副次的な排水・廃棄物の排出、など人間活動の変容に対応するように研究開発され、社会実装されていく必要がある(図1)。
海域、河川、湖沼という水域に目を向ければ、水環境保全・修復のため、国内外の現地で稼働可能な水資源再生技術の研究開発とその社会実装が必要である。あるいは、より能動的に、食糧問題解決に貢献するタンパク質確保のための魚類等の生物飼育水管理技術の研究開発などが推進されるべきである。水資源再生技術は、多様な浄化能力を発揮する微生物を活用して、その浄化過程を構築することが多い。そのため微生物に関して新規有用微生物の探索や生態学的役割の解明などの研究、および微生物の特性を活かした創・省エネルギー型の水資源再生技術の開発が求められている。
長い自然の営みの中で、生産者(藻類・植物)と消費者(魚介・動物)および分解者(微生物)との間で、炭素・窒素・硫黄・リンなどの物質の利活用や、やり取りがバランス良く成される生態環が形成されてきた。しかし、ここに、人間活動による過大な消費が入り込むと、特に海洋・河川・海底・土壌に存在する微生物の能力だけでは分解の能力が不足し、目に見えるゴミや汚水として滞留・顕在化あるいは潜在化し、水環境などを悪化させる事象が起きてしまう。人口の集中による都市化や産業革命以降の化石燃料の使用は、自然の生態環のバランスを急変させるものとなった。生態環のバランスを保全・修復・緩和するための環境保全・資源循環技術は、都市の拡大・縮小、新産業の興隆、新物質生産に伴う副次的な排水・廃棄物の排出、など人間活動の変容に対応するように研究開発され、社会実装されていく必要がある(図1)。
海域、河川、湖沼という水域に目を向ければ、水環境保全・修復のため、国内外の現地で稼働可能な水資源再生技術の研究開発とその社会実装が必要である。あるいは、より能動的に、食糧問題解決に貢献するタンパク質確保のための魚類等の生物飼育水管理技術の研究開発などが推進されるべきである。水資源再生技術は、多様な浄化能力を発揮する微生物を活用して、その浄化過程を構築することが多い。そのため微生物に関して新規有用微生物の探索や生態学的役割の解明などの研究、および微生物の特性を活かした創・省エネルギー型の水資源再生技術の開発が求められている。

■図1 炭素を例とした物質循環と生態環の概要
硫黄の動態解明と水資源再生技術の向上の必要性
水資源再生技術の対象物質は、生活排水由来の炭水化物、タンパク質、脂質由来の炭素や窒素化合物と、産業廃水由来の多様な物質といえる。一方、硫黄は、海水や河川水に存在し、産業廃水の組成としても多く含まれる。硫黄の存在は、海水では、一般的に塩素イオン、ナトリウムイオンに次いで高濃度で、硫酸イオン(SO42-)の形で海水1リットルに概ね2.7g溶解している。硫黄の形態は多様であり、温泉などでは湯の花の硫黄(S0)の形で見られ、馴染み深い。ドブの匂いは硫化物(H2Sなど)の形の硫黄化合物である。硫黄は、微生物・動植物の代謝により形態を変えて存在する。しかしながら、硫黄に関する微生物等の研究は、特に分析の過程で硫黄成分が変質してしまい分析に工夫が要ることなどから、道半ばの状況にある。
生活排水や産業廃水に含有する硫黄に関する微生物や、硫黄微生物の制御に関して理解を深めることは水資源再生技術を発展させていく上で重要な事項といえる。例えば、海水混入するような沿岸域の石油化学系工業団地の廃水を処理・再生しようとする場合には、海水・廃水由来の硫黄成分に配慮することで、水再生施設を構築できるようになってきている。また、陸上閉鎖循環式の海洋生物飼育装置では主に窒素成分を浄化することが目的となるが、硫黄関係微生物の知見も制御技術を向上させるものになってきている(図2)。
生活排水や産業廃水に含有する硫黄に関する微生物や、硫黄微生物の制御に関して理解を深めることは水資源再生技術を発展させていく上で重要な事項といえる。例えば、海水混入するような沿岸域の石油化学系工業団地の廃水を処理・再生しようとする場合には、海水・廃水由来の硫黄成分に配慮することで、水再生施設を構築できるようになってきている。また、陸上閉鎖循環式の海洋生物飼育装置では主に窒素成分を浄化することが目的となるが、硫黄関係微生物の知見も制御技術を向上させるものになってきている(図2)。

■図2 水再生技術の開発事例
陸上での海洋生物飼育のための微生物高濃度保持型の飼育水再生装置を運転し、微生物生態を解明する
環境保全・水資源循環技術を通した国内外の人材育成・ネットワーキング形成
社会は変化していくものなので、「こうした社会を創りたい」と先導できる人材や社会課題を解決する社会実装を推進できる人材の育成が求められる。こうした人材同士の相互理解のあるネットワークの国内外における形成は、環境保全・水資源循環の取り組みのみならず重要である。社会を具体的に変えていくためには、モノ、サービスや技術に加えてマネジメントの能力などを供えて、組織の中で新事業として実践あるいは起業して実践する必要がある。社会を創っていく具体的な実践のためには、国内外の現場の課題がわかり、手が動き、相互理解で周囲を巻き込み、プロトタイプ導入や社会実装を成す、というこれらを早期に挑戦・実経験できる機会の整備が必要である。引き続き、筆者は、多様な連携協力を得て、研究開発・社会活動などを通した、こうした機会をつくり、人材育成を推進していきたい。(了)
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