Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第573号(2024.06.20発行)

千葉県館山市沖ノ島・地域循環共生圏を見据えて
~「アマモ場」「森」の再生活動とその広がり~

KEYWORDS 若者/学び、活躍、発言の場/循環
NPO法人たてやま・海辺の鑑定団理事長◆竹内聖一

NPO法人たてやま・海辺の鑑定団は、主に千葉県館山市沖ノ島を中心に2004年にエコツーリズムの実現を目指し設立した。
海辺の環境変化(アマモの減少や森の衰退)が目に見えてきた2016年からアマモや森の再生などに取り組んでいる。
取り組みは決して成功とはいえない中、現在そのことをきっかけとしてさまざまな活動が広がりを見せている。
沖ノ島の自然環境・変化と原因
南房総・館山エリアは、黒潮の影響を受け自然豊かな環境を有します。サンゴの北限域として知られ、多くの植物が生息する周囲約1キロの小島「沖ノ島」があります。自然環境の保全と自然のすばらしさや大切さを直接「感じてもらう」ことで一人ひとりが心の豊かさを育むこと、エコツーリズムの実現を目指し2004年の4月にNPO法人たてやま・海辺の鑑定団は設立しました。
今は、2024年。実はその間に海辺にはさまざまな変化が少しずつ、いや、自然の移ろいの中ではかなり急激な変化が起きていました。2004年ころ、沖ノ島周辺は、豊かな藻場が形成されていました。その変化は2014年から明らかになりました。あって当たり前と思っていたアマモ(種子植物・海草)が急に減少に転じたのでした。さらに、森の変化です。照葉樹林からなる多様な森を育んでいたところが、2013年頃から照葉樹ヤブニッケイの立ち枯れが目立ち始め、さらに、2019年の令和元年房総半島台風では、多くの風倒木が発生してしまったのでした。アマモの減少は2013年の台風26号による大きな砂の移動が引きがねとなったと考えています。さらに海藻や海草が減少する「磯焼け」が発生、魚やウニなどの「食圧」が、それに拍車をかけているのです。
また、森の風倒木の原因としては、気候変動に起因する「台風の大型化」も原因の一つでしょう。しかし、公園としての沖ノ島にはコンクリートの園路があったのです。それは、数十年余り前に施工されたもの。NPO法人地球守代表理事高田宏臣氏(現顧問)の調査により「水と空気」が通らないコンクリートは、沖ノ島の環境を少しずつ傷め、「乾燥」し、「森」の「土中環境」悪化を招き、大きな台風の直撃により、それが目に見えて現れたということが分かりました。森の衰退は、海の森と陸の森、このつながりが大切であることに改めて気づくきっかけとなりました。森がしっかり雨を受けとめ、雨水が地中に浸み込み、木々を育て、また清い水として海から湧き出す。まさに「循環」です。
台風前の沖ノ島(空撮)
台風前の沖ノ島(空撮)

台風前の沖ノ島(空撮)

自然環境を未来に伝えるための実践活動(アマモ場と森の再生)
「当たり前」に有ったアマモを、かつてと同じように再生することを目指し、地域の皆様と連携しながら取り組んでいます。2017年から2023年まで、種子植物であるアマモの苗を育てて移植することを中心に実践しています。しかし、ことごとく「食圧」で定着しません。この活動は、他の先進地を鑑みると、時間がかかることも分かっています。ただ移植するだけではなくアイゴなどの上位種であるアオリイカの産卵床を設置し、「食圧」を下げる試み、木更津のスダテ風アマモ保護ゾーンを設置し移植アマモの保護や、食圧の少ない冬季の移植実験など、工夫を凝らしチャレンジを続けています。しかし、成功には結びつきません。あきらめずに地域の取り組みとして継続しています。
2019年の台風倒木から、NPO法人地球守の指導のもと「土中環境」に根差した森の再生活動を実践しています。この活動は非常に学びが多く、自然環境を俯瞰した実践活動で、沖ノ島だけでなく地域の里山や、森の再生にもつながるノウハウを得ることができました。そして、50年後の森づくりを目指しています。それはきっと、50年後の地域環境、日本の環境、世界の未来にもつながることと思います。
「学びの場」「活躍の場」の提供と仕組みづくり
NPO法人たてやま・海辺の鑑定団は、沖ノ島でのエコツアー、スノーケリング体験なども年間を通じて行っています。また、学校団体への体験活動も数多く行っています。コロナ禍では、大きな影響を受けましたが、2023年度では、年間5,000人以上の参加者が活動に関わりました。この活動は、楽しさだけではなく自然環境の変化を「自分事」として捉え、身近で起こっていることや、現実を知るための大切な「学びの場」となっていると思っています。
自然環境を未来に伝えるための実践活動を継続するための仕組みとして、館山市と連携して沖ノ島環境保全協力金の取り組みを夏季に行っています。2017年からの取り組みで、2022年は約1,230万円、2023年は約1,306万円となり、館山市にとって、何もないところから生み出された大切な資金と言えます。この取り組みでは、同時にルール・マナー啓発も行います。それを私たちは「パークレンジャー」と呼び、これらの活動を通じて沖ノ島周辺のマナー向上に大きく貢献しています。この「パークレンジャー」には多くの地元高校生が「活躍の場」としてかかわっていることも大きいと考えています。
全国とのつながりから地域への広がりと若者の「発言の場」
全国の皆様とのつながりも生まれました。その一環として「全国アマモサミット2022inたてやま」を2022年の10月末に、地域の皆様と共に開催することができました。リアル参加約700人、オンラインで900件もの皆様が参画し、「大会宣言」を採択しました。そして、新しい展開につながりました。それは「館山港UMIプロジェクト検討会」の発足です。国・県・市・民間団体・企業など横断的な枠組みで、この検討会では、私たちだけではできなかった海の環境再生への取り組みを実践できる期待が高まっています。
地域への広がりもまた大きくなってきていると感じています。地元の小学校、中学校、高校とのつながりから、地域の自然環境の大切さはもとより、地域の誇りや地元愛につながり、活動が地域の活性化に何らかの影響を持てる可能性も今まで以上に感じています。
海や自然を楽しみながら知ることができるシンポジウムを「里海博」と銘打ち2018年度から始めています。そしてサミット大会宣言の実践として、2023年度は「里海博2024」を高校生・中学生も登壇し「発言の場」として開催。約330人の皆様が来場しました。
これからも、若者たちの「学びの場・活躍の場・発言の場」を提供し、地域の自然環境を未来に伝えるための礎にしたいと思います。
これからの社会の大きなキーワードは、「循環」を重視した取り組みなのではないでしょうか。また、沖ノ島だけではなく地域の環境に目を向けることも大切です。まさに森川里海のつながり「循環」を意識しながら、地域を広く捉える。そして、全国の皆様とのつながりも大切です。今の自然環境を未来につなげるためには、「循環」というキーワードは、さまざまな施策に関わる横断的なテーマと捉えることもできます。また、それらを可能とする社会の実現こそ次世代に問われる社会づくりやまちづくりの課題なのではないでしょうか。そして、その実現が「地域循環共生圏(ローカルSDGs)」につながると考えています。(了)
アマモを移植している様子

アマモを移植している様子

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