Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第568号(2024.04.05発行)

編集後記

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口秀

Ocean Newsletterでは551号から、海洋に関する時節や重要なイベントに合わせた内容を読者の皆様にご紹介する趣向で編集を進めている。ただし、原稿執筆や編集に少しばかりの時間を要するため、なかなかリアルタイムとはならないことはご容赦頂きたい。
◆2024年度最初の本号では、2023年12月19日に海洋政策研究所と(公財)水交会の共催で開催した第10回海洋安全保障シンポジウム「信頼醸成と武力紛争抑止の柱としてのシーパワー~分断が進む世界へのアプローチ」で議論された内容を、より深くそしてより広くご理解頂くために、ご講演を頂いた方の中から、江川宏様、金永明様、池田徳宏様のお三方にご執筆頂いた。シンポジウムそのものの内容は、URLからご視聴頂ければ幸いである。
◆シンポジウムのキーワードだった「シーパワー」という言葉は、一般的には「海上権力」と解釈され、ある国家の発展に寄与する「海軍力」を意味することが多かった。ところが、近年、このシーパワーを、「国家が海洋を利用し得る力」、つまり「海洋を利用して国家が何かを推進し得る力」とより広義に解釈されるようになった。この定義に従えば、勿論、海軍力もシーパワーの一つと考えることができる。では、シーパワーによって国家は海洋を利用して実際に何を推進しようとするのだろうか?是非、その答えを本号から読み解いて頂きたい。
◆「海軍力」「海軍」という単語を耳にするだけで、反射神経的に海での衝突、武力紛争を助長する勢力というイメージを持たれる方が多いと思う。実際に、空軍力の無かった時代の海洋は武力を移送する唯一の場であったため、ある国による侵攻とその侵攻を阻止する目的で海軍同士による武力紛争が絶えなかったし、現代に至っても海洋において武力が移送されることもある。しかし、現代の海軍力、そしてシーパワーの役割は真逆なのである。本号の3つの記事で共通して述べられているとおり、シーパワーは紛争抑止のための力であり、海を挟む隣国間での安定と平和維持のための力なのである。
◆国によって文化・歴史が異なり、それに伴って思想・信条やさまざまな権益に対する考え方が異なることは世の常である。国で無くても、隣街やご近所とウマが合わず小競り合いやケンカが絶えないのも古今東西よくあることである。それもこれも全ては人間が住む陸や沿岸での出来事。海洋には、今でこそ国連海洋法条約の下、領海、排他的経済水域、大陸棚として沿岸国の権益が定義されているが、本来、海洋は海洋生物の世界であり、陸上生物である人間は、利用こそすれ、そもそも海洋に住んでない。だから、決して、ケンカや小競り合いの場ではない。むしろ、海洋を人類共通の財産として平和の場として活用すべきなのである。(公財)笹川平和財団に海洋政策研究所が存在し、目指していることはこの考え方である。
◆しかし、海洋には莫大な資源が潜み、その権益争いや境界線確定での考え方の違いから隣国間でイザコザが絶えないのも事実である。海洋政策研究所が中国の研究者も交えて、水交会と連携し、対話を重ねシーパワーについて議論を深める理由は、さまざまな要因から崩れかけるバランスをいかに取り戻し、イザコザを決して紛争に発展させず、平和的な解決策を模索するためである。これを機に、本件について、是非、読者の皆様のご意見も賜りたい。(所長阪口秀)

第568号(2024.04.05発行)のその他の記事

ページトップ