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オーシャンニューズレター

第568号(2024.04.05発行)

日中海洋運命共同体構築のための基礎と保障

KEYWORDS 日中海洋問題の論争/紛争の平和的解決の原則/日中海洋運命共同体
中国海洋大学国際事務・公共管理学院教授◆金 永明

海洋問題は日中関係に影響を及ぼす重要な問題の一つである。日中両国は多くの合意文書と共通認識を形成したが、これらの着実な履行ができれば、海洋問題の論争をコントロール可能な状態に置き得る。
従って、紛争の平和的解決と協力原則の堅持が日中関係に影響を与えずに海洋問題を処理する大原則となる。
その上で、海洋の恩恵を持続可能な形で享受し、時代の要請に合致した建設的かつ安定的な日中関係を推進する海洋における日中運命共同体の構築が重要となる。
海洋問題の適切な処理
中日両国関係は幾つかの課題やそれによる両国関係の中断を有しているが、海洋に関する新たな問題、古い問題は交互に浮上し、中日関係の安定と発展に深刻な影響を及ぼしている。
しかし、2019年に中国の習近平国家主席が提唱した「海洋運命共同体」構想に対する参加呼びかけに代表されるように、中日両国の指導者は「東シナ海の平和と安定なくして中日関係の安定と発展はない」と考えており、そのようなコンセンサスは実践の中で証明されている。従って、東シナ海問題を含む海洋問題を適切に処理することは中日両国に対して重要な課題であり、中核的な課題である。
中日関係の基本原則
中日両国は事実と国際法に従って、新旧の海洋問題を解決すべきであり、特に中国と日本が締結した4つの文書(日中共同声明(1972年)、日中平和友好条約(1978年)、日中共同宣言(1998年)および日中共同声明(2008年))や、中国と日本が締結した幾つかの合意(例えば、「2008年6月の合意」、2014年11月の「日中関係の改善に向けた話合い」)に含まれる原則と精神を遵守し、適用すべきである。これらの国際約束における最も重要な原則は、「紛争の平和的解決の原則」と「協力の原則」である。
東シナ海を含む海洋問題については、東シナ海問題(日中間の東シナ海における共同開発および白樺(中国名:「春暁」)油ガス田開発)に関する「2008年6月の合意」、2014年11月の「日中関係の改善に向けた話合い」についてなど、中日間に多くの合意文書が存在している。これらの取り決めにおける合意内容は、東シナ海を含む海洋問題の特徴と現実に合致しており、中日関係の発展において重要な役割を果たしている。
中日両国間のプラットフォームの役割
中国と日本は多くのプラットフォームを構築し、海洋問題の解決に大きく貢献してきた。最も重要なプラットフォームは、「日中高級事務レベル海洋協議」である。2023年11月までに16回の協議が開催されたが、この間に「日中防衛当局間ホットライン」を含む「日中防衛当局間における海空連絡メカニズム」に係る覚書(2018年5月)や「日本国政府と中華人民共和国政府との間の海上における捜索及び救助についての協力に関する協定(日中SAR協定)」(2018年10月)の締結などの成果を上げている。
しかしながら、中日両国間の核心的な紛争である釣魚島(日本名 魚釣島)とその周辺の島嶼(尖閣諸島)をめぐる問題については、「日中高級事務レベル海洋協議」でも取り上げられていない。また、毎回の協議においては、中国海警局や日本の海上保安庁による取締状況などが議題に設定されたりするものの、中日両国の立場や提案の表明にとどまっている。例えば、「日中関係の改善に向けた話合い」についての第3項には、「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」との記述がある。
第15回日中高級事務レベル海洋協議(2023年4月10日)の様子(出典:外務省ウェブサイト)

第15回日中高級事務レベル海洋協議(2023年4月10日)の様子(出典:外務省ウェブサイト)

海洋問題に関する中日両国の連携強化
中日両国の間に課題や問題に対する認識の違いや懸案が存在しているものの、東アジア海域をはじめとするインド太平洋地域、あるいは世界の海洋問題の解決に寄与するためにも、中日両国は海洋問題における連携をより強化する必要がある。そのためには、「ALPS処理水の海洋放出問題」、「東シナ海における資源開発」および「海洋分野におけるフロンティアの取り扱い」という3つの側面から協力を進めることが期待される。
1つ目のALPS処理水の取り扱いについては、2023年11月16日にAPEC首脳会議に併せて開催された中日首脳会談において、「お互いの立場に隔たりがあると認識しながら、建設的な態度をもって協議と対話を通じて問題を解決する方法を見い出していくこととした」ことを踏まえ、中日両国が連携する一助となることが期待される。
また、東シナ海における資源開発については、「2008年6月の合意」から15年以上経過している。いまだ具体的な成果が得られていないものの、逆に何らかの成果を出すことにより、中日両国の連携を加速することが可能となる。そして、「海洋分野におけるフロンティアの取り扱い」については、今後中日両国の大学や研究機関等による共同研究を実施することが重要なのではないかと考える。
未来志向の中日関係を目指して
中日両国間には多くの懸案事項があり、その解決は急務である。従って、中日双方が相手側の懸念に相応の注意を払い、協力を含むさまざまな措置を講じて、既存の問題を真剣に解決することが中日両国関係のみならず、国際的な海洋秩序の維持や発展にとって重要である。建設的で安定した中日関係の実現に貢献し、未来を共有する中日海洋共同体の構築が実現することを期待している。(了)

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