Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第567号(2024.03.20発行)

事務局だより

瀬戸内千代

◆今号掲載の岩田惠理氏、明星つきこ氏、桑原牧子氏のご寄稿は、563号の高橋そよ氏、566号の木村里子氏と阿部朱音氏に続き、いずれも『海とヒトの関係学 第6巻 海のジェンダー平等へ』からの要約版です。2024年の国際女性デー(3月8日)に発行となったこの本は、「おわりに」を含め19名の著者から成る1冊です。多彩な著者たちによる全編は、書籍を手に取ってお読みいただけましたら幸いです。
◆長距離移動ができない小さな魚たちの移ろう性には、生き物のたくましさと進化の不思議を感じます。80億人を突破して増え続け、全世界にくまなく分布して、いまや地球の環境をも左右する存在となったヒトという生き物は、生物界では特殊な存在であり、性の多様性についても、ほかの動物と並列には語れないところがあると思います。今号のご寄稿から、海辺に住む人々と船との深い関係や、広い海洋に散在する島しょ国の性の多様性を知り、海という存在がヒトの進化に与えた影響について、あらためて考えさせられました。
◆2021年の科学技術映像祭で文部科学大臣賞を受賞した『スギメ』というドキュメンタリー映画があります。スギメというのは、日本の国立科学博物館と台湾の国立台湾史前文化博物館による「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」※1,2で、石器を使ってスギの大木を切り倒すところから手作りした丸木船の船名です。この映画を見ると、強力な黒潮を越えて何日もかけて日本に到達したであろう太古の人々の知恵と体力に驚かされます。東北大学らは2023年に、巻き貝が渡り鳥の羽毛にくっついて海を渡ることを発見しましたが、人間を運んでくれる空飛ぶ動物は当時もいなかったでしょうし、クジラや回遊魚のように大海を泳ぎ切ることも難しそうです。やはり、船が海に隔てられた人々や文化の拡散の鍵を握っていたはずです。
◆台風に飛ばされてはぐれてしまう魚がいるように、遭難して意図せず海を渡った漂流民たちの記録も各地に残されています。鎖国時代にあっても、ウィリアム・アダムス(三浦按針)、若宮丸の船員たち※3、音吉※4、ジョン万次郎※5、浜田彦蔵などが、海の力によって異国に運ばれて、日本に舶来文化をもたらしました。今号の3本のご寄稿から想像が広がり、広く深い海は、生き物たちを隔離すると同時に、海流によって思いがけないつながりや多様性を生み出してきたことを再認識しました。(瀬戸内千代)
※1 海部陽介著「3万年前の大航海を再現する実験プロジェクト」本誌404号(2017.6.5発行) 
https://www.spf.org/opri/newsletter/404_2.html
※2 門田 修著「台湾から与那国への実験航海を終えて」本誌465号(2019.12.20発行) https://www.spf.org/opri/newsletter/465_1.html
※3 齋藤宏一著「開国への扉を外から叩いた男―幕末の漂流民、音吉」本誌328号(2014.4.5発行) 
https://www.spf.org/opri/newsletter/328_3.html
※4 大島幹雄著「初めて世界一周した日本人―若宮丸漂流民」本誌209号(2009.4.20発行) https://www.spf.org/opri/newsletter/209_3.html
※5 草柳俊二著「日本の海洋技術の発展とジョン万次郎」本誌458号(2019.9.5発行) https://www.spf.org/opri/newsletter/458_3.html
 

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