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Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第565号(2024.02.20発行)
国際海底機構のこれまでの歩みと今後の展望
KEYWORDS
深海底/海底鉱物資源/開発規則
深海資源開発(株)海外業務部長、(兼)技術部次長(前国際海底機構法律・技術委員)◆岡本信行
国連海洋法条約に基づき、深海底の鉱物資源は「人類共同の財産」とされ、国際海底機構(ISA)が管理している。
ISAでは、1994年の設立以降、鉱物資源の探査規則等が策定されてきた。
現在は、2025年夏を目標として開発規則の策定のための審議が継続しているが、解決すべき問題は多い。
ISAでは、1994年の設立以降、鉱物資源の探査規則等が策定されてきた。
現在は、2025年夏を目標として開発規則の策定のための審議が継続しているが、解決すべき問題は多い。
深海底の鉱物資源─公海上の資源ではない
深海底の鉱物資源は「公海上」に分布という言葉を時々聞くが、一見正しいようにも見えるが、正確な表現ではないことは国連海洋法条約(UNCLOS)の規定を見ると明らかである。UNCLOSの第11部において、公海(High sea)とは部を別にして、「深海底(the Area)」の規定がある。
公海は、いずれの国の管轄権にも含まれない海洋の全ての部分を言い、原則、航行の自由など、「自由」である。一方、「深海底」および「そこに存在する資源」は「人類共同の財産」と位置づけられ、自由ではなく「国際海底機構(International Seabed Authority: ISA)」が管理する(条約第157条)。
また同第11部において「資源」とは、そこに自然に存在する固体状、液体状、気体状のものを定義しているが、現在ISAでは、多金属団塊(Polymetallic nodules)、多金属硫化物(Polymetallic sulphides)およびコバルトリッチ鉄・マンガンクラスト(Cobalt-rich ferromanganese crusts)の3つの資源についての規則やルール作りが行われている。
「深海底」に限定すると、多金属団塊(マンガン団塊とも呼ばれる)は主にハワイ南東方沖のクラリオン−クリッパートン断裂帯に囲まれたエリア(CCZ)やインド洋の大洋底、多金属硫化物(海底熱水鉱床とも呼ばれる)は大西洋中央海嶺やインド洋中央海嶺などの海底拡大軸などに、コバルトリッチ鉄・マンガンクラスト(コバルトリッチクラストとも呼ばれる)は、北西太平洋域に分布する海山の山頂から斜面にかけて分布が確認されている。
公海は、いずれの国の管轄権にも含まれない海洋の全ての部分を言い、原則、航行の自由など、「自由」である。一方、「深海底」および「そこに存在する資源」は「人類共同の財産」と位置づけられ、自由ではなく「国際海底機構(International Seabed Authority: ISA)」が管理する(条約第157条)。
また同第11部において「資源」とは、そこに自然に存在する固体状、液体状、気体状のものを定義しているが、現在ISAでは、多金属団塊(Polymetallic nodules)、多金属硫化物(Polymetallic sulphides)およびコバルトリッチ鉄・マンガンクラスト(Cobalt-rich ferromanganese crusts)の3つの資源についての規則やルール作りが行われている。
「深海底」に限定すると、多金属団塊(マンガン団塊とも呼ばれる)は主にハワイ南東方沖のクラリオン−クリッパートン断裂帯に囲まれたエリア(CCZ)やインド洋の大洋底、多金属硫化物(海底熱水鉱床とも呼ばれる)は大西洋中央海嶺やインド洋中央海嶺などの海底拡大軸などに、コバルトリッチ鉄・マンガンクラスト(コバルトリッチクラストとも呼ばれる)は、北西太平洋域に分布する海山の山頂から斜面にかけて分布が確認されている。
国際海底機構を巡るこれまでの成果と現状
ISAは、人類共同の財産である深海底とその資源を一元的に管理することを目的に設立された国際機関で、UNCLOS全ての加盟国(167カ国およびEU)から構成される「総会」、代表36カ国から構成され実質的な執行機関である「理事会」、理事会の付属機関として理事会の諮問に対して審議・勧告を行う「法律・技術委員会」、予算事項を扱う「財政委員会」から構成される。
ISAは、深海底およびその資源の探査(Exploration)・開発(Exploitation)を管理するために、1994年にジャマイカの首都キングストンに設立され、まずは探査のための規則の策定を目指し、2000年に多金属団塊、2010年に多金属硫化物、2012年にコバルトリッチ鉄・マンガンクラストに関する探査規則を順次策定した(またこれを補完するために環境ガイドラインをはじめ多くのガイドラインが作成された)。2001年以降、こうした探査規則の策定に伴い、ISAと事業者(コントラクター)との間で15年間の探査契約が結ばれ、事業者による排他的な探査活動が行われている(探査契約期間が終了した事業者は1回当たり5年以内の延長が認められ、現在8の事業者が延長合意書を締結している)。特に、2010年以降、世界的な金属価格の高騰や金属需要の高まりを受け、これまで経済性に乏しいとされてきた深海底の鉱物資源が見直され、探査契約の申請が相次いでいる。近年では脱炭素化社会の救世主として、多金属団塊に含まれるニッケル、コバルト、銅に注目が集まり、2021年以降、開発に向けた大規模な海域試験が行われるようになってきた。結果、現在では3つの資源カテゴリーで計30件の探査契約が締結されるまでになった。
さらに、2021年6月、ナウル政府がISA理事会に対して、ナウル海洋資源会社(NORI)はハワイ南東方沖の自らの探査鉱区内で多金属団塊の開発申請を行う準備があるとして、2年以内の開発規則の策定を促すとともに、2年以内に同規則が策定されなくても、UNCLOS第11部実施協定に基づき開発申請を暫定的に採択するよう求めた(いわゆる「2年ルール」)。ISAでは、こうした要請に応え、2023年7月の開発規則の策定に向けて審議を加速するため、かつては年1回の開催であった理事会を年2回、3回と順次増やす対応をとった(当初は2021年を目標とした時期もあったが、COVID-19の世界的感染拡大で審議が延期された)。
一方、ナウル政府の要請に前後し、2018年頃から環境NGOが中心となり開発にネガティブなキャンペーンが繰り広げられるようになり、ISA理事会や総会の会場前で海底採掘に反対する横断幕や環境NGOの名称入りの船舶が停泊するようになってきた。また、グローバル企業のいくつかは、こうしたキャンペーンに賛同し、海底採掘が環境に影響を及ぼさないことが科学的に立証できるまでは、深海由来の資源は用いないとの宣言をしている。さらに、2021年以降、一部の政府も同調する動きを示すようになった。
開発規則の当初の策定目標であった2023年7月の理事会において、同規則の審議継続が決められ、採択目標が2年繰り延べとなり、2025年に再修正された。議論の焦点は、開発と環境保全の両立をいかに担保していくかと言われているが、実際には、環境推進国は高い次元での環境規制を求め、陸上資源国は陸上鉱床を保護するため深海採掘のロイヤリティ率等の設定に独自の意見を唱えており、合意には多くの課題が残されているのも事実である。
ISAは、深海底およびその資源の探査(Exploration)・開発(Exploitation)を管理するために、1994年にジャマイカの首都キングストンに設立され、まずは探査のための規則の策定を目指し、2000年に多金属団塊、2010年に多金属硫化物、2012年にコバルトリッチ鉄・マンガンクラストに関する探査規則を順次策定した(またこれを補完するために環境ガイドラインをはじめ多くのガイドラインが作成された)。2001年以降、こうした探査規則の策定に伴い、ISAと事業者(コントラクター)との間で15年間の探査契約が結ばれ、事業者による排他的な探査活動が行われている(探査契約期間が終了した事業者は1回当たり5年以内の延長が認められ、現在8の事業者が延長合意書を締結している)。特に、2010年以降、世界的な金属価格の高騰や金属需要の高まりを受け、これまで経済性に乏しいとされてきた深海底の鉱物資源が見直され、探査契約の申請が相次いでいる。近年では脱炭素化社会の救世主として、多金属団塊に含まれるニッケル、コバルト、銅に注目が集まり、2021年以降、開発に向けた大規模な海域試験が行われるようになってきた。結果、現在では3つの資源カテゴリーで計30件の探査契約が締結されるまでになった。
さらに、2021年6月、ナウル政府がISA理事会に対して、ナウル海洋資源会社(NORI)はハワイ南東方沖の自らの探査鉱区内で多金属団塊の開発申請を行う準備があるとして、2年以内の開発規則の策定を促すとともに、2年以内に同規則が策定されなくても、UNCLOS第11部実施協定に基づき開発申請を暫定的に採択するよう求めた(いわゆる「2年ルール」)。ISAでは、こうした要請に応え、2023年7月の開発規則の策定に向けて審議を加速するため、かつては年1回の開催であった理事会を年2回、3回と順次増やす対応をとった(当初は2021年を目標とした時期もあったが、COVID-19の世界的感染拡大で審議が延期された)。
一方、ナウル政府の要請に前後し、2018年頃から環境NGOが中心となり開発にネガティブなキャンペーンが繰り広げられるようになり、ISA理事会や総会の会場前で海底採掘に反対する横断幕や環境NGOの名称入りの船舶が停泊するようになってきた。また、グローバル企業のいくつかは、こうしたキャンペーンに賛同し、海底採掘が環境に影響を及ぼさないことが科学的に立証できるまでは、深海由来の資源は用いないとの宣言をしている。さらに、2021年以降、一部の政府も同調する動きを示すようになった。
開発規則の当初の策定目標であった2023年7月の理事会において、同規則の審議継続が決められ、採択目標が2年繰り延べとなり、2025年に再修正された。議論の焦点は、開発と環境保全の両立をいかに担保していくかと言われているが、実際には、環境推進国は高い次元での環境規制を求め、陸上資源国は陸上鉱床を保護するため深海採掘のロイヤリティ率等の設定に独自の意見を唱えており、合意には多くの課題が残されているのも事実である。
■図1 事業者(コントラクター数)の推移(第28回会期ISA理事会資料(ISBA/28/C/3)基づき筆者作成)
■図2 海底の多金属団塊(クック諸島共和国のEEZ内)(SOPAC(2003)から抜粋)
今後の展望─開発規則が策定されるか
現在、開発規則案は、申請方法や環境保全、支払等の財務条件等に係る全13部(107の規則)、10の付属書等から構成されている。また開発規則を補完するための基準・ガイドラインも作成中である。透明性の観点から、ISAホームページでこれらの案に対するパブリックコメントも行われている。また、開発に先立ち、保護区の設定等を定めた環境管理計画の策定が求められており、ちょうど本稿の発行前後で東京において関連のISAワークショップが開催される。
開発規則の策定目標が2025年と再修正されたが、解決すべき問題は多く、あと2年での採択は困難かもしれない。しかし、BBNJ(国家管轄権外の生物多様性)新協定※の協議のように、当初策定は困難とされたものが採択された例もあること、ISA理事会でもBBNJの話題が幾度となく紹介されること、ISA理事会で延々と議論が進展しないことへの批判などを踏まえると、2025年夏が一つのエポックメイキングになるかもしれない。(了)
開発規則の策定目標が2025年と再修正されたが、解決すべき問題は多く、あと2年での採択は困難かもしれない。しかし、BBNJ(国家管轄権外の生物多様性)新協定※の協議のように、当初策定は困難とされたものが採択された例もあること、ISA理事会でもBBNJの話題が幾度となく紹介されること、ISA理事会で延々と議論が進展しないことへの批判などを踏まえると、2025年夏が一つのエポックメイキングになるかもしれない。(了)
※正式名称:国家管轄権の及ばない海域における海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する協定(2023年採択)
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