Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第564号(2024.02.05発行)

離島の振興に関する法律と施策の現在

KEYWORDS ソフト支援施策/国家的・国民的役割/雇用の拡充
(公財)日本離島センター調査研究部長◆三木剛志

日本の離島は、離島振興法をはじめとする関係法によって社会資本整備を中心に振興が図られてきたが、近年はソフト支援施策に力点が置かれ、2023年度からの第8次離島振興では今日的な諸課題に対処するためのさまざまな配慮が明確化されている。
領域や排他的経済水域等の保全など、離島が多様かつ重要な役割を果たすためには、定住環境の条件不利性の改善に加え、雇用の拡充を図るなどの持続的発展が期される。
離島の振興を図る法律
現在、日本には、離島地域の振興に直接寄与する法律が5法ある(図1参照)。その嚆矢が1953年に議員立法で制定された「離島振興法」で、当初の目的は本土から海で隔てられている離島のさまざまなハンディキャップの改善にあり、国庫補助事業による電気・水道の導入、港湾・漁港・空港・道路の建設、教育・医療の改善など、生活と産業の基盤整備が進められてきた。10年間の時限法として制定され、その後10年ごとの改正を経て現在に至っており、北海道から鹿児島県吐噶喇(トカラ)列島にわたる256の有人離島が対象地域に指定されている(図2)。
戦後日本から行政分離されていた奄美・小笠原・沖縄の島々については、日本への復帰が実現した前後に時限立法が閣法で制定され※1、それぞれの特殊事情に鑑みて振興対策が実施されてきている。これらに加え、2016年には「有人国境離島法」※2が超党派の議員立法により10年間の時限法として制定された。領海や排他的経済水域の保全など国境域の離島が果たしている重要な役割に鑑みた各種方策を講じる根拠となる法律で、なかでも、北は礼文島から南は吐噶喇列島までの71の「特定有人国境離島」※3については、地域社会維持を図るための特別措置が定められている。
■図1 日本の島々の構成

■図1 日本の島々の構成

■図2 離島振興関係法の対象地域(有人島数/2020年国勢調査人口)

■図2 離島振興関係法の対象地域(有人島数/2020年国勢調査人口)

ソフト支援施策の展開
日本の離島は、これらの法律によって社会資本整備を中心とした振興が図られてきたが、総じて人口減と少子高齢化、産業の弱体化などが他のハンディキャップ地域と比べても進んでいることもあり、近年はソフト支援施策に力点が置かれるようになってきた。
離島振興法にもとづき、2013年度に創設された「離島活性化交付金」は、地方自治体や民間団体が実施主体となった離島の活性化を図るソフト事業に国が補助する仕組みで、定住や交流の促進、離島産品の移出や原材料の移入輸送費支援、防災強化などのメニューが規定されている。
ほかにも、高等学校のない離島の生徒に交通費・寄宿費を間接補助する「離島高校生修学支援事業」、島外出産の妊婦に交通費・宿泊費を支援する離島自治体を対象とした「離島妊婦支援」、ガソリンの海上輸送コスト分を対象に国が小売事業者に直接補助する「離島のガソリン流通コスト対策事業」などが同時期に創設されている。
他の関係法でもソフト支援交付金制度が順次盛り込まれ、例えば奄美・沖縄では離島航路・航空路の住民運賃低廉化、特定有人国境離島に対してはそれに加えて雇用機会の拡充など、離島振興法とは異なる支援措置も講じられている。
2023年度からの第8次離島振興
2022年11月、離島住民や自治体の期待に応える「改正離島振興法」が議員立法で成立し、国の基本方針と各都道府県の振興計画のもと、2023年度から10カ年にわたる新しい離島振興がスタートした。法の目的条項には「再生可能エネルギー導入・活用の役割」「継続的に関係する島外人材の活用」が追記され、離島振興に対する国の責務に加えて都道府県の責務(離島市町村への支援努力義務)が明記された。
また、医師の確保や遠隔診療、超高速船や航空機の新造更新とドローンの活用、通信・高度情報通信ネットワーク充実と維持管理、離島公立学校教職員定数の算定と配置など、今日的な諸課題に対処するための特別配慮が明確化された。ほかにも、場所に制約されない働き方の普及や住宅の確保、空き家の活用、小規模離島の日常生活環境維持などについても規定の拡充が図られている。
さらに、定住促進施設の整備については、改修に加えて新築もメニュー化されるなど、ハード的な事業への支援措置も強化された。民間企業・団体と離島地域が協力し、ICTなど新技術を導入して離島共通課題の解決を図る「スマートアイランド推進実証調査」(2020年度~)では、自律航行船による物資輸送や医療介護ロボットによる高齢者見守り、水中ドローンによるガンガゼ(ウニの一種)駆除など、いくつかの離島で実装に向けた調査が実施されてきている。
海洋国家の重要拠点として
2023年度末には奄美・小笠原の各特措法、2026年度末には有人国境離島法がそれぞれ法期限を迎える。離島振興法を含め、これらの法の目的や基本理念には、「領域、排他的経済水域等の保全」「海洋資源の利用」をはじめとした離島の国家的・国民的役割が謳われているが、その多様かつ重要な役割を果たすためには、有人離島の人口の著しい減少や無人化を防止し、住民の安定定住を図ることが大前提となる。今後は、定住環境の条件不利性をさらに改善しつつ、多地域居住や就労に関する諸制度も併用して積極的に関係人口や新たな担い手を確保し、雇用の拡充を図るなど、海洋国家の重要拠点としての持続的発展を期したい。(了)
※1 1954年「奄美群島復興特別措置法」、1969年「小笠原諸島振興特別措置法」、1971年「沖縄振興開発特別措置法」(現在、前2法はそれぞれ「振興開発特別措置法」、後者は「振興特別措置法」に改称。前2法は5年ごと、後者は10年ごとに改正)
※2 「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」内閣府>有人国境離島 https://www8.cao.go.jp/ocean/kokkyouritou/yuujin/yuujin.html
※3 日本の国境に行こう https://kokkyo-info.go.jp/

第564号(2024.02.05発行)のその他の記事

ページトップ