Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第562号(2024.01.05発行)

編集後記

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口秀

◆2023年11月末からUAEドバイで国連気候変動枠組条約のCOP28が開催された。COPとは英語のConference of the Partiesの略称で、日本語では締約国会議と呼ばれる。締約国とは条約や議定書を批准した国を指し、COPは締約国間で何かを決める最高機関と位置付けられている。今回が1995年から28回目で、本会議ではCO₂削減のための化石燃料の扱いが争点となり、2週間以上話し合われた。締約国同士が28年間議論を重ねても、気候変動対策がスパッと決定できない理由は、環境と経済という、目的も尺度も異なる議論が嚙み合わないことによる。議論はまず、科学者・研究者からなる気候変動に関する政府間パネルIPCCの報告書に基づく。
◆本誌の1つ目の記事では、『IPCC第6次評価報告書』の内容が紹介された。そこでは気候変動が海洋へ与える影響が深刻化し、水温依存の生物分布のシフトが予測され、温暖化レベルが2100年までに2℃を超えると生態系の崩壊や絶滅が危惧されるとある。本誌2つ目の記事で、近年、函館のスルメイカの漁獲量が大幅に減少、その代わり、ブリの漁獲量上昇が示されており、IPCCの予測を裏付ける事実となっている。
◆ここまでは、科学的な証拠と推測に基づく明快な議論なのだが、気温情報とCO₂排出量の議論になると突然、話が複雑になる。それは、過去にCO₂排出量の制限が無かった時代に蓄積されたCO₂とこれから排出されるCO₂の責任が混在するからだ。また、CO₂を排出する化石燃料の産出と利用による産業活動は経済に直結するため、過去に化石燃料を利用して経済発展した国とこれから経済発展しようとしている国の間で合意を得ることは、一筋縄ではいかない。
◆本誌3つ目の記事で、「クジラとの感動の出会い」を謳うという欺瞞から決別すべきである、と締めくくられている。これはまさに、普段見られない海での雄大なクジラの姿を間近に見せて感動を与える経済活動と、クジラにストレスを与えてはならぬという環境活動の間でのせめぎ合いである。気候変動の話題ではないが、目的と尺度が嚙み合わない点でCOPの議論を示唆する興味深い記事である。噛み合わない議論で線引きする位置を幾ら検討しても、両者の完全な納得は得られない。だから28年経っても議論は停滞する。環境にストレスを与えずに経済を回す方法か、一定時間経済を回した後に環境を回復する方法を考えることが先決ではないか。例えば水口氏が提唱している「環境モニターとしてのホエールウォッチング」という考え方である。これを見つければ、COPは最終回を迎えるか、数年に一度の確認作業で済む。
◆今回ドバイのCOP28は、2021年~22年開催のドバイ万博施設を再利用していた。2025年大阪万博でパビリオンを閉会後すぐ壊す計画に一石を投じた点で大きな意味がある。しかし、気候変動COPに10万人の参加者を集め2週間以上も開催することは、経済効果は抜群であるが明らかに環境負荷が大き過ぎる。是非、人類の知恵を集結して一日も早く答えを見つけて欲しい。(所長阪口秀)

第562号(2024.01.05発行)のその他の記事

ページトップ