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Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第561号(2023.12.20発行)
おさかな小学校の挑戦
~島国だからこそ、海洋教育を子どもたちに~
KEYWORDS
海洋教育/海洋リテラシー/オンライン授業
(一社)日本サステナブルシーフード協会代表◆鈴木 允
「おさかな小学校」は、(一社)日本サステナブルシーフード協会が提供する、小学生と保護者を対象としたオンラインの教育プログラムである。
毎月ひとつの魚介類をテーマに、実物の魚や工作・模型などを用いたわかりやすい授業を提供し、生態、漁業、食文化、環境問題などについて学習している。
学校教育における海洋教育は限定的であるが、おさかな小学校を通じて海洋リテラシーを高めることで、持続可能な海洋資源利用の推進を目的としている。
毎月ひとつの魚介類をテーマに、実物の魚や工作・模型などを用いたわかりやすい授業を提供し、生態、漁業、食文化、環境問題などについて学習している。
学校教育における海洋教育は限定的であるが、おさかな小学校を通じて海洋リテラシーを高めることで、持続可能な海洋資源利用の推進を目的としている。
持続可能な漁業や魚食を目指して
私たち、(一社)日本サステナブルシーフード協会は、豊かな海と美味しい魚を未来に残すことを目指して2021年4月に設立した非営利団体で、サステナブルシーフード(持続可能な漁業や魚食)を実践したい人々の学びと交流の場を作ることをミッションとしている。協会の現在の主な活動は、「おさかな小学校」というオンラインの海洋教育プログラムの運営である。おさかな小学校は、「おさかなを通じて日本を囲む海とのつながりを学ぶ」というコンセプトで、毎月ひとつの魚介類を入り口にして、生き物の生態、漁業、食文化、歴史、環境問題などをテーマにした授業を提供している(図1)。将来世代に水産資源や豊かな海を残すためには、その課題を専門家だけで議論していても解決しない。子どもや子育て世代への発信が不可欠だろうという話し合いの末に開始した活動である。
■図1 おさかな小学校のクイズに答える子どもたちの様子
おさかな小学校のプログラム
おさかな小学校は、毎週土曜朝の定刻から30分間のオンライン授業を行っている※。参加者は原則として小学生とその保護者で、1年間受講することで、卒業証書が授与される。実際には、未就学児から大人まで、幅広い年齢層が受講している。
各月に取り上げる魚介類は、マグロ、タイ、サンゴ、タコ・イカ、貝、サケ、タラ、エビ・カニ、サメ、イワシ、海藻と、私たちの食卓にとって身近で、かつ海洋生態系にとって重要な魚種となっている。節足動物、軟体動物、刺胞動物、軟骨魚類、硬骨魚類(スズキ目サバ科、スズキ目タイ科、サケ目、タラ目、イワシ目)をカバーしており、海洋生物の多様性を網羅するように選定されている。
各週のテーマは、生き物の生態、漁業、食文化、歴史、環境問題などである。たとえば、2023年4月のマグロの授業は、以下のような内容だった。
▶1回目「マグロってどんな魚?」
子どもたちが知っているマグロのお刺身を入り口に、マグロの種類や生態について紹介。10㎏前後のキハダマグロを用意して、流線型の体や、ヒレや口や目の様子を観察。さばいて、エラ、心臓、胃、腸などを見せた後、胃内容物も確認。その後、柵取りをして、お刺身を造るところまでを実演。生き物としてのマグロから、食べ物としてのマグロになるまでを体感した。
▶2回目「マグロをとる漁業」
10㎏前後のクロマグロを用意。1回目のキハダマグロとの違いを観察しながら、日本近海で育ち、太平洋を広く回遊するクロマグロの生活史を紹介したうえで、「広い海を泳ぎつづけるクロマグロをどうやってとるのか?」を子どもたちと考えた。主な漁法として、はえ縄、まき網、引き縄釣りなどがあることを漁具の模型などを使って紹介した。
▶3回目「遠洋マグロ漁船の10カ月」
日本人が食べているマグロのなかで最も多いのは、遠洋はえ縄船で漁獲されたもの。そこで、宮城県気仙沼市を基地にインド洋でメバチマグロやミナミマグロを漁獲している遠洋マグロはえ縄漁船の漁労長さんとオンラインでつなぎ、10カ月の航海の様子や船上での生活について紹介していただいた。
▶4回目「マグロが港から食卓に来るまで」
遠洋マグロはえ縄漁船が長い航海から日本に戻ってきて、冷凍庫で凍ったマグロをクレーンで水揚げする様子、魚市場でセリにかけられたり、工場でお刺身に加工されたりする様子を紹介した。
毎回30分の授業のあとに、子どもたちからの質問を受け付けている。「マグロのウンチはどんなですか?」「船の上で病気になったらどうしますか?」など、活発な質問が出る。保護者からは、子どもと買い物に行く際に一緒に魚や水産資源について話をしたり、家で子どもが魚をさばくようになったり、といった変化について共有していただいている。
各月に取り上げる魚介類は、マグロ、タイ、サンゴ、タコ・イカ、貝、サケ、タラ、エビ・カニ、サメ、イワシ、海藻と、私たちの食卓にとって身近で、かつ海洋生態系にとって重要な魚種となっている。節足動物、軟体動物、刺胞動物、軟骨魚類、硬骨魚類(スズキ目サバ科、スズキ目タイ科、サケ目、タラ目、イワシ目)をカバーしており、海洋生物の多様性を網羅するように選定されている。
各週のテーマは、生き物の生態、漁業、食文化、歴史、環境問題などである。たとえば、2023年4月のマグロの授業は、以下のような内容だった。
▶1回目「マグロってどんな魚?」
子どもたちが知っているマグロのお刺身を入り口に、マグロの種類や生態について紹介。10㎏前後のキハダマグロを用意して、流線型の体や、ヒレや口や目の様子を観察。さばいて、エラ、心臓、胃、腸などを見せた後、胃内容物も確認。その後、柵取りをして、お刺身を造るところまでを実演。生き物としてのマグロから、食べ物としてのマグロになるまでを体感した。
▶2回目「マグロをとる漁業」
10㎏前後のクロマグロを用意。1回目のキハダマグロとの違いを観察しながら、日本近海で育ち、太平洋を広く回遊するクロマグロの生活史を紹介したうえで、「広い海を泳ぎつづけるクロマグロをどうやってとるのか?」を子どもたちと考えた。主な漁法として、はえ縄、まき網、引き縄釣りなどがあることを漁具の模型などを使って紹介した。
▶3回目「遠洋マグロ漁船の10カ月」
日本人が食べているマグロのなかで最も多いのは、遠洋はえ縄船で漁獲されたもの。そこで、宮城県気仙沼市を基地にインド洋でメバチマグロやミナミマグロを漁獲している遠洋マグロはえ縄漁船の漁労長さんとオンラインでつなぎ、10カ月の航海の様子や船上での生活について紹介していただいた。
▶4回目「マグロが港から食卓に来るまで」
遠洋マグロはえ縄漁船が長い航海から日本に戻ってきて、冷凍庫で凍ったマグロをクレーンで水揚げする様子、魚市場でセリにかけられたり、工場でお刺身に加工されたりする様子を紹介した。
毎回30分の授業のあとに、子どもたちからの質問を受け付けている。「マグロのウンチはどんなですか?」「船の上で病気になったらどうしますか?」など、活発な質問が出る。保護者からは、子どもと買い物に行く際に一緒に魚や水産資源について話をしたり、家で子どもが魚をさばくようになったり、といった変化について共有していただいている。
おさかな小学校が目指す教育
おさかな小学校が目指す教育は、魚たちの面白い生態を紹介するテレビ番組や、魚介類の消費を増やすための魚食普及活動とは異なる。おさかな小学校にとっては、魚はあくまでも入り口であり、1匹の魚の向こうにある海や、漁業者や、海洋環境に対して想像力を働かせられるようになることを目的としている。
私たちの活動の背景には、「日本人はあまりにも海のことを知らなすぎるのではないか?」という問題意識がある。言うまでもなく、日本は海に囲まれた島国である。食糧としての水産物をはじめ、さまざまな形で海の恩恵を受けている。しかし、小中学校の義務教育において海について教えていることは非常に限定的であり、海洋についてのリテラシーが育っていない。
国土に比べてはるかに広大な海洋があり、海洋資源を活用することで得られるメリットは大きいはずなのに、私たちは十分に活かせていない。たとえば、水産資源はかしこく利用すれば生産量をもっと増やせるはずなのに、過剰漁獲のために資源状態が悪く、漁業生産は右肩下がりである。その背景には、国民の知識や理解が限られているということがあると思われる。筆者自身、大人を対象として、マグロやサケの種類、天然と養殖、漁法の違い、水産資源の状況、魚市場での値付けなどについてお話する機会があるが、「毎日食べているのに知らないことばかり」と驚かれることが多い。
7月に出版された『いただきます!からはじめる おさかな学 1匹の魚から海の未来を考えよう』(図2)の帯に「国語、算数、理科、社会、おさかな!」と書いた通り、海洋教育が国語や算数と同じように義務教育の中に入ることが望ましいと思う。しかし、現実には、教育現場では教師不足が深刻な問題になっており、一人ひとりの教師が既存の教科に加えてさらに海洋の授業をすることは難しいだろう。そこで、私たちの「おさかな小学校」のプログラム(図3)を子どもたちのタブレット端末を利用して提供するといった形で、小学5年生の「社会」における水産業についての授業や総合学習における探究課題として、学校教育の場で活用してもらえないかと、教育委員会や小中学校との話し合いを始めたところである。
多くの人にとって、海は地理的に遠く、とくに漁業現場を体験することは非常にハードルが高い。しかし、お店に行けばいつでも魚は並んでいるわけで、「魚を買う」「魚を料理して食べる」といった体験から、海、漁業、海の生き物について学ぶことができると考えており、おさかな小学校の活動がその一助になれば幸いである。(了)
私たちの活動の背景には、「日本人はあまりにも海のことを知らなすぎるのではないか?」という問題意識がある。言うまでもなく、日本は海に囲まれた島国である。食糧としての水産物をはじめ、さまざまな形で海の恩恵を受けている。しかし、小中学校の義務教育において海について教えていることは非常に限定的であり、海洋についてのリテラシーが育っていない。
国土に比べてはるかに広大な海洋があり、海洋資源を活用することで得られるメリットは大きいはずなのに、私たちは十分に活かせていない。たとえば、水産資源はかしこく利用すれば生産量をもっと増やせるはずなのに、過剰漁獲のために資源状態が悪く、漁業生産は右肩下がりである。その背景には、国民の知識や理解が限られているということがあると思われる。筆者自身、大人を対象として、マグロやサケの種類、天然と養殖、漁法の違い、水産資源の状況、魚市場での値付けなどについてお話する機会があるが、「毎日食べているのに知らないことばかり」と驚かれることが多い。
7月に出版された『いただきます!からはじめる おさかな学 1匹の魚から海の未来を考えよう』(図2)の帯に「国語、算数、理科、社会、おさかな!」と書いた通り、海洋教育が国語や算数と同じように義務教育の中に入ることが望ましいと思う。しかし、現実には、教育現場では教師不足が深刻な問題になっており、一人ひとりの教師が既存の教科に加えてさらに海洋の授業をすることは難しいだろう。そこで、私たちの「おさかな小学校」のプログラム(図3)を子どもたちのタブレット端末を利用して提供するといった形で、小学5年生の「社会」における水産業についての授業や総合学習における探究課題として、学校教育の場で活用してもらえないかと、教育委員会や小中学校との話し合いを始めたところである。
多くの人にとって、海は地理的に遠く、とくに漁業現場を体験することは非常にハードルが高い。しかし、お店に行けばいつでも魚は並んでいるわけで、「魚を買う」「魚を料理して食べる」といった体験から、海、漁業、海の生き物について学ぶことができると考えており、おさかな小学校の活動がその一助になれば幸いである。(了)
■図2 鈴木允著『いただきます!からはじめる おさかな学 1匹の魚から海の未来を考えよう』リトル・モア、2023年
■図3 おさかな小学校では実際に魚をさばいたり、砂に潜っていく貝を見せたり、子どもたちが身を乗り出して視聴してくれるよう工夫を重ねている。
※ 「おさかな小学校」ホームページ https://www.osakana-sho.jp/
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