Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第559号(2023.11.20発行)

CITESにおけるサメの保全と持続可能な利用

KEYWORDS ワシントン条約/サメに関する国際行動計画(IPOA-Sharks)/持続可能な漁業
酪農学園大学農食環境学郡環境共生学類教授◆遠井朗子/早稲田大学地域・地域間研究機構 研究院客員准教授◆真田康弘

ワシントン条約(CITES)では、2022年11月のCoP19でサメ・エイ類の附属書II掲載を決定し、規制が進んでいる。
わが国は規制の導入は漁業に悪影響をもたらすという反対の立場だったが、適切に制度設計が行われれば、持続可能な漁業を志向する漁業者と加工業者にとって規制のメリットは少なくない。
今後は国際的な科学者ネットワークの協力も得て、透明性の高いプロセスでCITESの実施と国内漁業法制との調和を図るべきだろう。
なぜ、CITESでサメの規制が進展しているのか
サメは食物連鎖の頂点捕食者であるが、少仔・少産で性成熟までの期間が長く、漁獲圧力に弱い。フカヒレ、肝油、スクワラン、サメ肉、コンドロイチン硫酸等、多様な用途があるが、混獲が多く、漁獲統計には反映され難い。加えてフカヒレ取引の拡大により、ヒレのみを切り取るフィニングが横行したため、1999年、国連食糧農業機関(FAO)はサメに関する国際行動計画(IPOA-Sharks)を採択し、漁獲実績のある諸国に国内行動計画の策定を奨励したが、進展していなかった。一方、1991年、国際自然保護連合(IUCN)種の保存委員会にサメ専門家グループ(IUCN/SSG)が設置され、サメ・エイ類1,270種の評価を進めた結果、その37%が絶滅危惧種と評価されている。
2023年採択50周年を迎えた「絶滅が危惧される野生動植物の国際取引に関する条約(ワシントン条約:CITES)」では、2022年11月の第19回締約国会議(CoP19)で、メジロザメ科全種を含む99種のサメ・エイ類の附属書II掲載を決定した。日本はCITESにおける海産種規制には一貫して反対の立場をとり、本提案にも反対したが、賛同を得られていない。なぜ、サメの規制は支持を集め、規制の導入は漁業に悪影響をもたらすという日本の主張は受け入れられなかったのか。以下では、CITESにおけるサメ規制の背景およびその意義を明らかにして、今後、日本が取るべき対応を提言する。
附属書II掲載種の規制手続
CITESでは、絶滅が危惧される程度に応じて3つの附属書に種を掲載し、附属書II掲載種の標本(個体、部分、派生品)の取引については、過度な取引により種の存続が脅かされないことの証明(NDF)、合法的入手の確認(LAF)、および生きた個体の安全と福利に配慮した準備と輸送を確保して輸出国の管理当局が輸出許可書を発給し、輸入国は輸入に際し、輸出許可書の確認を行うものとされている。海産種については公海上で捕獲し、旗国で水揚げを行う場合にも、「海からの持込」として許可書の発給を求められる。
NDFが適切に取得されず、重要かつ潜在的に悪影響をもたらすおそれのある取引が行われている場合には、条約実施機関がその是正を促し、是正されない場合には取引停止を勧告する(「重要な取引評価(RST)」)。附属書改正後、90日以内に留保を付すことが認められ、留保を付した種については、非締約国として取り扱われるが、留保を付していない他の締約国との取引においては、輸出許可書の発給と実質的に同等の規制が必要となる。
CITESにおけるサメの規制と日本の対応
CITESでは、1994年、サメの取引の実態を把握し、保全管理の指針を示すためにCoP決議を採択し、その後2002年には、IPOAに進展が見られないとして、その進捗を動物委員会で評価するよう指示する新たな決議を採択すると共に、ジンベイザメ、ウバザメを初めて附属書IIに掲載した。サメ・エイ類の附属書掲載は以後、紆余曲折を経つつも進展し、2022年の一括掲載により、CITESは主要なサメ・エイ類の保全管理を担う一大レジームとなった。この点については、サメ・エイ類の規制を求める締約国やNGOとアフリカゾウの恒久的な取引禁止を求めている中・西部アフリカ諸国との緩やかな連携により支持が拡大した可能性がある。また、CoP19では、提案国はIUCN/SSGとの協力により、附属書掲載の科学的根拠を明示したが、メジロザメ提案等は「附属書掲載基準を満たさない」としたFAOの勧告は根拠が不明瞭で、締約国に説得的とは受け止められていなかった。もっとも、FAOはIPOAの実施においてCITES、地域漁業管理機関(RFMOs)とは協力関係にあり、2013年以降、EUの資金供与により海産種の国内実施に関する能力構築を行ってきた。2020年には漁業法令によりCITESの実施を確保するための手引きを公表し、国内漁業法制の再編に貢献している。サメの保全において附属書II掲載は目標ではなく、その実施プロセスが重要との認識はIUCN/SSGの科学者らにも共有されている。
このように、CITESにおけるサメ・エイ類の規制の進展は明確な科学的知見に基礎を置き、関係諸機関との戦略的な協力による実施支援の成果であり、国連では、強力な規制レジームであるCITESを組み込むことで、サメの保全と持続可能な利用に関するグローバル・ガバナンスはより強固なものとなったと捉えられている。なお、フカヒレやサメ肉はその外観から種を識別することが困難であるため、ヨシキリザメを含む多くの種が「類似種」として掲載されている。日本は「絶滅のおそれがあるとの科学的情報が不足していること、RFMOsが適切に管理すべきこと」を理由として、ヨシキリザメを含む12種およびオナガザメ属全種に留保を付しているが、類似種規制の趣旨および関連諸機関との協力によりサメの保全が図られてきた経緯を踏まえれば、およそ説得的とは言い難い。
国内漁業者および加工業者は附属書掲載を警戒しているが、CITESの規制に対する誤解もあるように思われる。NDF取得は通常の漁獲データの入手と資源量の把握で足り、NDFの電子化や水揚げデータの収集に関する技術革新も進展している。漁獲物が合法的に入手されたとの証明はCITESに特有な措置とは言えず、適切に制度設計が行われれば、漁業者や加工業者に過度な負担を強いるものではない。むしろ、附属書II掲載が持続可能性、合法性および追跡可能性の証明となるとすれば、持続可能な漁業を志向する漁業者と加工業者にとって規制のメリットは少なくない。今後は国際的な科学者ネットワークの協力も得て、透明性の高いプロセスでCITESの実施と国内漁業法制との調和を図るべきであろう※。(了)
日本語名出典:経済産業省「ワシントン条約附属書(動物界)令和5年5月21日時点」 https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_exandim/06_washington/download/20230521_appendix_fauna.pdf ※図をクリック
CoP19の会議場(真田康弘撮影)

CoP19の会議場(真田康弘撮影)

※ 執筆にあたり、石原元氏(株式会社W&Iアソシエーツ代表取締役)より貴重な文献資料を多数いただいた。ここに記して御礼を申し上げたい。本研究は科学研究費【17K0359】【21K01278】による研究成果の一部である

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