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Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第558号(2023.11.05発行)
脱炭素社会に向けたゼロエミッション船開発
KEYWORDS
国際海運/脱炭素化/ゼロエミッション
(一財)次世代環境船舶開発センター代表理事◆三島愼次郎
2023年7月に開催された国際海事機関(IMO)の第80回海洋環境保護委員会(MEPC80)で採択された『2023 IMO温室効果ガス(GHG)削減戦略』は、これまで以上の削減努力を国際海運セクターに求める厳しいものとなった。
(一財)次世代環境船舶開発センター(GSC)では、こうした環境規制等に対応する高度な環境性能船の開発などに取り組んでいる。
本稿では、GSCにおけるカーボンニュートラルを実現する船舶の開発について紹介する。
(一財)次世代環境船舶開発センター(GSC)では、こうした環境規制等に対応する高度な環境性能船の開発などに取り組んでいる。
本稿では、GSCにおけるカーボンニュートラルを実現する船舶の開発について紹介する。
国際海運のカーボンニュートラルに向けた動き
2023年7月、ロンドンにおいて開催された国際海事機関(IMO)の第80回海洋環境保護委員会(MEPC80)では、2018年に採択された『IMO温室効果ガス(GHG)削減戦略』の改定について議論され、従来は「2050年までに50%排出削減」としてきたGHG排出削減目標について、「2050年頃までにGHG排出ゼロ」とする新たな削減目標『2023 IMO GHG削減戦略』が採択された。その概略を模式的にグラフ化すると図1となり、このIMOの新しい目標は、これまでの想定より早期に燃料転換を行うことを迫る、国際海運に大きなインパクトを与えるものである。
■図1 IMOのGHG排出削減目標のイメージ
(一財)次世代環境船舶開発センターの成り立ちとミッション
四方を海に囲まれた日本にとって、海上輸送は国民の生活、経済活動に欠かせない重要な社会基盤であり、そこに船舶を供給する造船業や関連産業は日本の存亡にかかわる重要な産業である。しかしながら、上に述べたような海運セクターにおけるGHG削減対策をすすめていくためには、環境規制への対応を含め、日本の造船業は、その技術力を結集して困難に立ち向かわなければならない時期に来ている。
こうした中、(一財)次世代環境船舶開発センター(Planning and Design Center for Greener Ships:GSC)※1は、これまで蓄積してきた日本の造船業の力を糾合(きゅうごう)し、現在そして将来の環境関連技術を結集して中長期的な環境規制に対応した高度な環境性能船の開発・商品化を促進し、日本の造船業の発展に資することを目的に、国内の造船業有志により2020年10月に設立された。GSCではカーボンニュートラルを実現する船舶(通称ゼロエミ船)の開発を最重要課題ととらえ、現在は、会員数12社、役職員数23名で活動している。具体的には、GHG削減に関する世界の動静と技術動向の調査・分析、ゼロエミ船の計画・設計、カーボンニュートラルに移行するために必要な技術的ソリューションの提供等に取り組んでいる。
こうした中、(一財)次世代環境船舶開発センター(Planning and Design Center for Greener Ships:GSC)※1は、これまで蓄積してきた日本の造船業の力を糾合(きゅうごう)し、現在そして将来の環境関連技術を結集して中長期的な環境規制に対応した高度な環境性能船の開発・商品化を促進し、日本の造船業の発展に資することを目的に、国内の造船業有志により2020年10月に設立された。GSCではカーボンニュートラルを実現する船舶(通称ゼロエミ船)の開発を最重要課題ととらえ、現在は、会員数12社、役職員数23名で活動している。具体的には、GHG削減に関する世界の動静と技術動向の調査・分析、ゼロエミ船の計画・設計、カーボンニュートラルに移行するために必要な技術的ソリューションの提供等に取り組んでいる。
アンモニア燃料船の開発
GSCでは、国際海運において2050年頃のカーボンニュートラルを実現するための代替燃料として、生産の技術的成熟度やスケールアップの可能性、想定する生産工程から推定される生産コストなどの要因から、アンモニア(NH₃)が最有力と考え、ゼロエミ船の計画・設計を進めてきた※2。
従来、船舶用の燃料は重油(HFO)が主流で、総トン数ベースで約90%を占めている。アンモニアを燃料とする場合、熱量あたりの体積がHFOの約2.86倍と大きいこと、沸点がマイナス33℃と低いこと、燃料タンクに低温または加圧が求められることなどの特徴があり、船舶の航続距離、積載量の減少、居住区を含む配置などに直接的に影響を及ぼしうるため、これまでにない慎重な検討が必要であった。
GSCでは2022年度までに、アンモニア燃料船、またはアンモニアReady LNG燃料船(アンモニア燃料への転換を前提に置いたLNG燃料船)として計6パターンの船種・船型の概念設計開発を実施したが、その一例として、アンモニア燃料パナマックスバルクキャリアを紹介する。
本概念設計では、アンモニア燃料で航行可能な最低航続距離を、日豪間の往復が可能な12,000カイリに設定した上で、アンモニア燃料の供給拠点が整備されていない航路への就航も可能とするため、従来のHFO燃料船と同程度のHFOタンクを確保している。また、アンモニアの大容量タンクをデッキ上に設置するために、居住区画を船尾端に配置し、機関室上方にアンモニアタンクのスペースを確保するデザインを採用した。これによりタンクと居住区エリアを分け、緊急時に燃料タンクの近傍を通ることなく救命設備へ到達できる脱出ルートを確保する配置を実現した。また、重量物である燃料タンクを船尾端より船体中央寄りに配置することで、船の姿勢への影響を低減する効果も期待できる。
なお、この概念設計は、2022年1月に、(一財)日本海事協会(ClassNK)から設計基本承認(Approval in Principle:AIP)を取得している。
従来、船舶用の燃料は重油(HFO)が主流で、総トン数ベースで約90%を占めている。アンモニアを燃料とする場合、熱量あたりの体積がHFOの約2.86倍と大きいこと、沸点がマイナス33℃と低いこと、燃料タンクに低温または加圧が求められることなどの特徴があり、船舶の航続距離、積載量の減少、居住区を含む配置などに直接的に影響を及ぼしうるため、これまでにない慎重な検討が必要であった。
GSCでは2022年度までに、アンモニア燃料船、またはアンモニアReady LNG燃料船(アンモニア燃料への転換を前提に置いたLNG燃料船)として計6パターンの船種・船型の概念設計開発を実施したが、その一例として、アンモニア燃料パナマックスバルクキャリアを紹介する。
本概念設計では、アンモニア燃料で航行可能な最低航続距離を、日豪間の往復が可能な12,000カイリに設定した上で、アンモニア燃料の供給拠点が整備されていない航路への就航も可能とするため、従来のHFO燃料船と同程度のHFOタンクを確保している。また、アンモニアの大容量タンクをデッキ上に設置するために、居住区画を船尾端に配置し、機関室上方にアンモニアタンクのスペースを確保するデザインを採用した。これによりタンクと居住区エリアを分け、緊急時に燃料タンクの近傍を通ることなく救命設備へ到達できる脱出ルートを確保する配置を実現した。また、重量物である燃料タンクを船尾端より船体中央寄りに配置することで、船の姿勢への影響を低減する効果も期待できる。
なお、この概念設計は、2022年1月に、(一財)日本海事協会(ClassNK)から設計基本承認(Approval in Principle:AIP)を取得している。
■図2 GSCが概念設計開発したアンモニア燃料パナマックスバルクキャリア
カーボンニュートラル船のこれからとGSC
アンモニア燃料船の概念設計例を示したが、それだけでアンモニアを燃料とする船舶が現実社会に受け入れられるかたちで完成するものではないと考えている。まず、アンモニアには毒性があり、機関室や船上での燃料補給など、取り扱う場所の安全性確保には特段の留意が必要となる。また、燃焼条件によって一酸化二窒素(N₂O)を発生するが、この物質は温暖化係数がCO₂の実に273倍であり、その排出対策として技術的な解決が必要である。加えて特有の臭気への配慮も必要となるなど、ハード・ソフトの両面での対応が必要であるが、現時点における、アンモニア燃料船を構成する機器類には開発途上のものが数多ある状況であり、継続的な開発努力が不可欠である。
他方で、ここ最近船舶燃料としてのメタノールが脚光を浴びている。GHG対策として用いられるメタノールはバイオ由来のものとなるため、日本では馴染みが薄いが、GSCでもその可能性に着目して検討を実施した。また、水素、あるいは水素燃料電池をエネルギーとする船舶も、大きさや用途によっては有望と考えられるなど、現時点において、将来の代替燃料は何かを確定的に論ずることはできないし、将来において単一のエネルギーに絞られるということもないだろう。加えて、冒頭述べたような急激なGHG削減目標を現実のものとするとともに、高価な代替燃料の消費を削減するためにも、省エネルギーを実現するための技術開発の重要性はますます高まるであろう。
こうしたカーボンニュートラルに向けた多様な社会的要請に応え、ソリューションを的確に提示していくことこそが日本の造船業・舶用工業に求められる重要な役割であり、それができる底力を持っていると信じている。GSCでは、日本の造船業・舶用工業の発展に貢献していくため、これからも努力を重ねていく覚悟である。(了)
他方で、ここ最近船舶燃料としてのメタノールが脚光を浴びている。GHG対策として用いられるメタノールはバイオ由来のものとなるため、日本では馴染みが薄いが、GSCでもその可能性に着目して検討を実施した。また、水素、あるいは水素燃料電池をエネルギーとする船舶も、大きさや用途によっては有望と考えられるなど、現時点において、将来の代替燃料は何かを確定的に論ずることはできないし、将来において単一のエネルギーに絞られるということもないだろう。加えて、冒頭述べたような急激なGHG削減目標を現実のものとするとともに、高価な代替燃料の消費を削減するためにも、省エネルギーを実現するための技術開発の重要性はますます高まるであろう。
こうしたカーボンニュートラルに向けた多様な社会的要請に応え、ソリューションを的確に提示していくことこそが日本の造船業・舶用工業に求められる重要な役割であり、それができる底力を持っていると信じている。GSCでは、日本の造船業・舶用工業の発展に貢献していくため、これからも努力を重ねていく覚悟である。(了)
※1 (一財)次世代環境船舶開発センター https://pdcgs.or.jp/
※2 アンモニアは、燃焼時に二酸化炭素(CO₂)を発生させることはないが、製造や輸送のプロセスも含むライフサイクル全体では必ずしもカーボンニュートラルとはならないことには留意が必要である。
※2 アンモニアは、燃焼時に二酸化炭素(CO₂)を発生させることはないが、製造や輸送のプロセスも含むライフサイクル全体では必ずしもカーボンニュートラルとはならないことには留意が必要である。
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