Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第558号(2023.11.05発行)

ティモール海におけるエネルギー資源について

KEYWORDS 海洋境界画定/天然ガス/LNG液化基地
(独)エネルギー・金属鉱物資源機構調査部主任◆加藤 望

東ティモールが2002年に独立した後、豪州と東ティモール間でティモール海の海域画定と資源の帰属を巡り紛争が生じた。
2019年に海洋境界条約が締結され海域は画定したが、両国の海域にまたがるガス田開発については、今後解決が図られる。
東ティモール独立から海洋境界画定に至るまで
ティモール海は、豪州北西部、インドネシア東南部にあるティモール島南部に広がる海域で西がインド洋、東側でアラフラ海と接する。ティモール島は、西ティモールがオランダ領からインドネシアへ、東ティモールはポルトガルとインドネシアとの独立闘争を経て2002年5月に独立を果たし、ASEANの11番目の加盟国として2022年11月に原則承認された。同国は国連の定める後発開発途上国で財政基盤が脆弱であるとの懸念により客観的な基準によるロードマップが同国に提示されており、達成すればASEAN首脳会議において正式加盟となる。また、歳入の9割をこれまで豪州との共同石油開発地域(JPDA)からの収入を積み立てた基金に頼っており、2035年にはこの基金は枯渇すると言われている。
ティモール海は、ティモール海溝(最大深度3,300m)を除き、水深200m以下と浅く豪州北部から連なる大陸棚の一部を形成する。海底は、原油・天然ガスの鉱床があり探鉱開発が行われてきたが、近年生産量が落ち込んできている。新規ガス田としてグレーター・サンライズガス田の開発に期待が寄せられている。独立後の東ティモールと豪州間の海洋境界画定については、両国政府により2019年8月に両国の中間線に基づいた海洋境界条約が批准されEEZが画定した。この画定は、西ティモールを擁するインドネシアと豪州間の境界画定に影響を与える可能性がある。
2019年海上境界条約によるEEZ画定
2002年 東ティモール独立によりティモール海条約(Timor Sea Treaty)が東ティモール、豪州間で締結された。JPDAが設定され、JPDAにおける石油・天然ガスの取り分は「東ティモール90%、豪州10%」であった。
2006年 ティモール海における「海事上の配置に関する合意」(CMATS)が結ばれ、JPDAと豪州海域にまたがるグレーター・サンライズガス田の取り分を50:50とすることについて定めた。しかし、東ティモール政府はこれを不満とし、より大きい取り分を求め、2013年に両国合意のもとCMATSは失効した。その後、2014年 東ティモール政府は、ハーグの国際仲裁裁判所にEEZ画定とグレーター・サンライズガス田の取り分に関して仲裁を求めた。
2018年3月、上記仲裁とは別に両国の協議により境界を両国の中間線とすることおよびグレーター・サンライズガス田の取り分に関する海洋境界条約(Maritime Boundary Treaty)が合意され、翌2019年8月に両国国会で正式に批准された。グレーター・サンライズガス田の上流収入については、豪州にパイプラインを延伸する場合「豪20%・東ティモール80%」、東ティモールにパイプラインを延伸する場合は「豪30%・東ティモール70%」の比率にて配分することになり、JPDAは廃止された。
2002年のJPDA(黄色の破線)と2019年の海洋境界条約による東ティモールのEEZ(黄色の実線)を次ページに示す。
バユ・ウンダンガス田開発とその生産終了
JPDAのバユ・ウンダンガス田は、1995年に米国ConocoPhillipsが発見し、その後2019年に豪州Santosが権益を買い取った。商業生産は2006年2月に開始されたが、ガスの生産は枯渇し始め、同ガス田から供給されるガスにより液化天然ガス(LNG)を生産しているダーウィンLNG(年間370万t)は2023年末に生産を終了する見通しだ。このバックアップとしてSantosは、アラフラ海でCO₂を18%と多く含んでいるバロッサガス田を開発している。Santosは、枯渇したバユ・ウンダンガス田の廃坑をCCS(二酸化炭素回収・貯留)ハブとして再利用する目的でプロジェクトを進めている。年間1,000万tのCO₂を廃坑に圧入する世界最大規模のCCSで、そのうち約300万tがバロッサガス田由来でダーウィンLNGから既設のパイプラインによってCO₂が送られ圧入される予定だ。700万tについては、豪州他のプロジェクトおよび海外からの受け入れが検討されている。
■豪州・東ティモールEEZ境界線(2019年海洋境界条約)出所Department of Industry, Innovation and Science of Australia 資料を基にJOGMEC作成
■豪州・東ティモールEEZ境界線(2019年海洋境界条約)
出所Department of Industry, Innovation and Science of Australia 資料を基にJOGMEC作成
グレーター・サンライズガス田開発について
グレーター・サンライズガス田は、豪州ダーウィン市の北450km、東ティモール南東150kmに位置し、約5.1兆立方ftの天然ガス埋蔵量が見込まれている。JPDA廃止前は、同ガス田はオーストラリア側海域に82%、JPDA内に18%とまたがっていたが、2019年条約により東ティモールと豪州の海洋境界線が東に張り出したため、現在は8割ほどが東ティモール海域内となった。どちらの国で生産されたガスを処理するか問題となっており、東ティモール政府は、当初よりインフラ整備と産業育成を目的として、東ティモールまでガスパイプラインを敷設し、新たにLNG液化プラントを建設する意向を示していた。2018年10月このコンセプトに反対のConocoPhillipsが権益30%を、翌11月に英Shellが権益26.56%を相次いで東ティモール政府に売却し撤退した。現在の権益は、オペレーター(作業当事者)の豪Woodsideが33.44%、東ティモール国営Timor Gapが56.56%および大阪ガス(株)が10%となり、東ティモール政府が主導権を握ることになった。
グレーター・サンライズガス田開発の現状
Woodsideは、ガスパイプラインを豪州ダーウィン市まで敷設し、そこで新規にLNG液化プラントを建設した方が、建設コストが最大100億ドルほど安くなると経済性を強調した。東ティモール南部はインフラが乏しく新規にLNG液化プラントを建設するには道路、飛行場、港湾施設、電力設備等を立ちあげなければならないこと、またティモール海溝3,300mの水深をパイプラインで横断するのは技術的に困難であることを根拠としている。海底パイプラインの敷設深度の技術的限界は3,500mと言われているが、米国メキシコ湾で水深2,900mのパイプラインが世界で最も深い。
東ティモール政府は、Woodsideの試算に対して建設コストを第三者に試算させた結果を2022年9月に公表した。ダーウィン市でLNG液化プラントを建設する場合は118億ドル、自国で建設する場合は141億ドルと差は23億ドルで、かつ操業コストは東ティモールが安く大きな差はないと反論した。東ティモール政府は、豪州が協力的でなければ中国に建設を委ねる可能性を示唆し、中国の南太平洋進出に対する豪州政府の警戒感を刺激した。
2022年末にWoodsideは態度を軟化し、現在概念研究を実施し、浮体式LNG(FLNG)も含め最適ルート、コストおよび技術検討を進めている。グレーター・サンライズガス田のLNG開発が実現すれば、LNGの需要が今後旺盛になる東南アジアに供給できるとともに大阪ガス(株)が出資していることから日本のエネルギー安全保障にも寄与することになる。(了)

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