Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第557号(2023.10.20発行)

編集後記

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口 秀

◆先日、久々に某年次大会に出席した。会場に入ると、自分の座席がお歴々に挟まれた所にあり、些かの窮屈さを感じた。軽く挨拶をしたところで会合が始まり、しばらく無言が続いた。しかし、会合の進行とともに、「発表者のメンツが昔とちっとも変わってないな。」とか「女性の活躍がゼロに戻ってしまったね。」だとかお互いに愚痴をこぼすことで徐々に気持ちは和らいだ。そして、閉会の挨拶が終わった直後に、左隣におられた海洋研究の大御所が「俺たちも昔はこういうことを真剣にやっていたんだなぁ。」としみじみと呟かれ、2人で過去を思い出し大笑いした。
◆このように当事者として必死で取り組んでいるときには全く気付かないことが、外の立場からやや退屈で冷静に(冷たく静かに)なると非常にクリアに見えることがある。だとすると、『Ocean Newsletter』の編集でも第551号から体制を新たにして、「時代の流れと変化を先取りする」という新たな目標に向かって必死で取り組み始めているが、諸先輩方や外部の方からの叱責や愚痴、あるいは嘲笑を受けているのかも知れない。しかしながら、それらも今後の改善に向けた重要な示唆である。是非、皆様方からの忌憚のないご意見をお聞かせ頂ければ幸いである。
◆本号でも、東京大学の牧野氏が、「国連システムは欧米偏重になりやすいこと」を鋭く指摘されている。国連の中で取り組まれている方々に気付きにくい視点である。これからは、アジアの視点、日本のリーダーシップがカギであり、その点で、IOCユネスコの議長に日本人で初めて東京大学の道田先生が選出されたことは大きな突破口になるに違いない。
◆また、(国研)宇宙航空研究開発機構の鈴木氏は、これまでに国内で(国研)海洋研究開発機構、(国研)宇宙航空研究開発機構、(国研)理化学研究所、の日本を代表する3つの研究機関に属し、宇宙に満遍なく存在する岩石が水と反応するときに生成される水素をエネルギー源とする非常にユニークな微生物を研究し生命の起源を説いている。鈴木氏は海洋、宇宙、理化学と言った幅広い科学に精通しているだけでなく、日本の研究機関以前はアメリカの研究機関に身を置いておられたそうで、実に多様で客観的な視点を養ってこられたことが、この素晴らしい研究成果をもたらしたのではないかと感じる。
◆そして、3つめの記事で、日本無線(株)の宮寺氏は、海上無線通信における衛星VDESの重要性を説くとともに、戦後からバブル期を通じて、ややもすると国内のユーザーのみに注目してしまっている間に、さまざまな分野で国際標準化のイニシアティブをとることが苦手になってしまったわが国が取るべき方向性について言及されている。
◆3つのいずれの記事も、さまざまな立場から物事を眺めて考えるときに、中から外そして外から中の様子を確かめることの重要性を感じさせてくれる記事である。今後若い人は、島国ニッポンの中で安住せず、海を渡って世界中を駆け巡りながら、日本から外国、外国から日本の両側面を見つめる力をつけて欲しい。(所長阪口秀)
 

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