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編集後記
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オーシャンニューズレター
第555号(2023.09.20発行)
編集後記
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口 秀
◆2023年の北半球の夏は、世界各地で異常高温が記録され、台風・洪水・山火事など大災害のニュースが連日続いた。日本でも天気予報では「今日は猛暑日」、「熱中症に注意」と連呼され、猛烈に暑く、まさに温暖化を肌で感じる毎日である。
◆温暖化がもたらす現象は数多くあるが、本号で(国研)国立環境研究所理事長木本昌秀氏が指摘している「海洋熱波」は全く只事ではない。海は大気と比較すると温まりにくくて冷えにくいため、大気が暖められると熱を吸収して気温上昇を緩和する役割を果たしてきた。しかし、温暖化によって大気の熱を吸収し過ぎたために、本来温まりにくかったはずの海水が数日から数年に渡って異常高温になる「海洋熱波」が頻発しているのである。近年、わが国で台風や前線に伴う激しい降雨によって大きな災害が高頻度で発生しているが、この海洋熱波が極端な降水量をもたらす原因であるという知見が科学的に見出されている。つまり、かつて穏和だった人が何かのきっかけで凶暴になってしまうように、これまで緩和役だった海が、温暖化によって降雨災害の激甚化をもたらす原因となってしまったのである。
◆海洋熱波は海の猛暑日のようなもので、人間の熱中症と同様に海に生きる動植物の水分・塩分調整を阻害し、酸素や栄養の供給を減らすため、海洋生態系に大きな影響を及ぼしていることが東京大学大気海洋研究所教授の木村伸吾氏の記事で詳細に説明された。自ら移動する生物は新たな生息地を求めて北上するなどして適応できるが、サンゴや海草、海藻など海底に固着する生物は死滅してしまう。
◆他方、京都大学フィールド科学教育研究センター助教の山守瑠奈氏によって、ウニが岩に巣穴を掘ってそこに共生する生物の生態系が紹介された。しかしウニの大好物の海藻が海洋熱波によって激減すると、残っている海藻を必死に食べるウニが悪者扱いされ、「磯焼けの原因はウニだ!ウニを駆除しなければならない!」という短絡的な言動に出るのが生態系の頂点に立つ人間である。困っているのはむしろウニと共生する生物である。
◆これ以上の温暖化を止める努力も勿論必要である。しかし、一度温まってしまった海はなかなか冷えない。本号を執筆された3人の科学者は共通して、「これまでの温暖化によって性格が変わってしまった海と生態系をきちんと理解して、その将来を予測しながら賢く適応することが求められる」ということを我々に示唆している。そう考えて今一度3つの記事を読み返していただくと、実に意味深い内容であることが感じられる。(所長阪口秀)
第555号(2023.09.20発行)のその他の記事
気候変動対策推進への科学的貢献
(国研)国立環境研究所理事長、第15回海洋立国推進功労者表彰受賞◆木本昌秀
海水温上昇と海洋生態系の変化
東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所教授◆木村伸吾
岩礁海岸に穴を掘るウニが育む生態系
京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所助教◆山守瑠奈
編集後記
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口 秀
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