Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第553号(2023.08.20発行)

海洋教育情報プラットフォームによる好事例の発掘

KEYWORDS 海洋教育/教育コンテンツ/初等・中等教育
内閣府総合海洋政策推進事務局 参事官補佐◆渋谷 洋明

内閣府は、海洋教育を推進するため、ウェブサイト「海洋教育情報プラットフォーム」に各施設の教育資源や取り組みをまとめている。
好事例を発掘し共有するという趣旨で、今回それらの中から3件の取り組みを紹介する。
第4期海洋基本計画においては、関係府省・関係機関間の連携を強化し、良い取り組みを広めていきたい。
海洋教育情報プラットフォーム
第3期海洋基本計画(2018(平成30)年5月15日閣議決定)において、2025年までに全ての市町村で海洋教育が実践されることを目指し、海洋教育を推進していくこととなった。これを踏まえ、内閣府において、2020(令和2)年4月に各施設がもつ海洋に関する教育資源や、海洋教育に関する取り組みをまとめたホームページとして「海洋教育情報プラットフォーム」が立ち上げられた。「内閣府 海洋教育」と検索するか、下の二次元コードから閲覧いただきたい。
各都道府県の水族館や博物館などの海洋関連施設や、海洋教育に関する取り組みをまとめており、地域別、キーワード別(海と地球、海の生物、海洋文化、環境、水産、船、港など)での抽出が可能である。また、内閣府ホームページ右上の検索欄でも、施設やコンテンツの検索が可能となっている。
このように、内閣府では、海洋教育に係る情報の一元化およびコンテンツの収集を図っている。
海洋教育PF
好事例の発掘および共有について
海洋教育情報プラットフォームで紹介している各施設の発信から好事例を見つけて広めていくため、内閣府では、2022(令和4)年度の調査業務において、いくつかの取り組みについてヒアリングをさせていただいたので、簡単に紹介したい。
①東京都葛西臨海水族園(東京都江戸川区)
・子どもや若者向けの教育プログラムは開園当初より実施している。内容は幅広く、水槽観察やワークショップなど。STEM教育※も関連している。観察を通して生き物と自然を理解するようなプログラムであることを意識している。
・授業で活かせるような小学校の先生向けのオンラインコンテンツ(YouTube)は学習指導要領や教科書におおむね沿ったものとなっている。
・一方的に話すのではなく、少人数のグループワークにすることで、子どもたちの発言を拾うことができる。そういった工夫によって子どもたちもやる気になるため、双方向性は重要と考えている。自分たちで発見して気付くことが面白いため、それを手助けするような意識である。
②船の科学館(東京都品川区)
・船舶・海事関係は既存の展示・コンテンツを使用している。これらを海洋という大きな枠組みで捉え、海洋基本計画に基づいた形で、海洋全般を視野に入れた新しいプログラムを構築している。
・マイクロプラスチックなど、海洋に関する関心の高いテーマを社会教育施設ならではの教育普及活動として実施している。具体的には、子どもが煮干しを解剖し、体内から摘出した捕食物等を顕微鏡で観察することで、海洋生物の生態や、人と海とのつながりを学ぶ機会としている。
・海洋教育を実践している全国の博物館を集めて(一部オンライン参加)、サミット的な情報交換の場として開催した。全国にある地域の博物館が子どもたちに海をテーマにした教育普及活動・生涯学習を行っていく仕組みを構築していくことが、当館の大きな役割、目標の一つでもある。
・学校連携の際、場合によっては学校のニーズに応じて指導要領等を加味している。
・楽しみの中に学びを生み、興味・関心につなげること、子どもと親の両方の目線を持つこと、子どもたちには成果物(お土産)を用意すること、ワークシートを作成してもらうこと等、工夫している。
③北海道大学「LASBOS(Learning and Study by Balance de Ocean System)」
・水産科学研究院水産学部が中心となって、海や水産物に関する北海道大学の研究・教育の情報を、オンライン教材として集約して発信する事業(バランスドオーシャン事業)を行っている。この事業の第一の目的は、学生の研究志向性を高めて、海の分野でトップサイエンティストを早期育成することである。
・教材をオンラインで一般公開しているので、若者を含めた、一般の方々に対する教育も兼ねている。海が気候システムに大きな役割を果たしていること、生物の多様性の仕組みを知ること、水産物を賢く利用すること、持続可能な形で水産養殖をすることなどについて幅広く知ってもらいたい。
・リカレント教育や企業にも入ってもらうことがSDGs教育の理想だと思っている。そのため、企業コラボレーションプログラムの打診を実施している。これは寄付をお願いしつつ、一緒に教育に取り組んでもらうというもの。これにより社会が必要とする人材を輩出できる仕組みを作っている。
・2022年は、チラシを作成し、スーパーサイエンスハイスクールの総合学習の時間に当サイトの紹介を依頼した。
・システムが長続きしていくためには、LASBOSで情報発信をすることで優秀な学生が研究室に集まり、教員の研究が加速され、さらに教員が自ら教材を作り、情報を発信していくという好循環が欠かせない。
「海洋教育情報プラットフォーム」トップページ https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/education/education.html

「海洋教育情報プラットフォーム」トップページ https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/education/education.html ※図をクリック

第4期海洋基本計画における取り組みについて
海洋教育については、年齢層、分野ともに多様であり、地域の地理的な条件も異なるため、その実情を踏まえて、各地域で行われる取り組みを全体として良い方向に伸ばしていくことが有効だと考えている。第4期海洋基本計画(2023(令和5)年4月28日閣議決定)においては、関係府省・関係機関間の連携を一層強化することとしており、好事例を見つけて情報共有を進めることや、海洋教育情報プラットフォームで紹介すること等により、良い取り組みが広まるしくみを作っていきたい。
好事例の共有により、それぞれの現場で海洋教育を進めてくださっている方が活動しやすくなることや、子どもや若者にとって良い学びの機会を得られ、海洋立国日本の未来を担う人材や持続可能な海洋の未来を担う人材が育っていくことを願っている。(了)
※ STEM教育:科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の頭文字から成る理数教育の総称。

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