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Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第553号(2023.08.20発行)
世界マリンステーション連合
〜地球規模の海洋の課題解決を支える国際的連携〜
KEYWORDS
国連海洋科学の10年/WAMS(世界マリンステーション連合)/世界マリーンステーション・アトラス
プリマス海洋研究所国際部部長、WAMS委員長◆Matthew FROST
世界にはおよそ800カ所のマリンステーション(臨海教育研究施設)がある。世界マリンステーション連合(WAMS)は、こうした地域レベルや国内レベルのネットワークに加わっているマリンステーションの能力を最大化するために、それらがもつリソースの共有によって協力関係を促進し相乗効果を目標としている。
WAMSは世界初の包括的な「世界マリンステーション・アトラス」を立ち上げ、地球規模の海洋の課題解決への支援を行うとともに、「国連海洋科学の10年」の目的をサポートすることを目指す。
WAMSは世界初の包括的な「世界マリンステーション・アトラス」を立ち上げ、地球規模の海洋の課題解決への支援を行うとともに、「国連海洋科学の10年」の目的をサポートすることを目指す。
海洋をめぐる課題
2022年の『IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書』は、「気候変動は、陸域生態系、淡水生態系、並びに沿岸及び外洋の海洋生態系において、重大な損害とますます不可逆的な損失を引き起こしている」と高い確信を持って述べている※1。また、国連事務総長は、2022年の『世界海洋評価(WOA)第2版』の序文で、「2015年の『世界海洋評価(WOA)第1版』は、海洋の多くの地域が深刻に劣化していると警告していた。(中略)その状況は改善されていない」と結論付けた※2。
海洋のこうした地球規模の変化は幅広い環境に影響を与え、人間社会への影響もより広範囲に及ぶため、海洋生態系だけの問題ではない。海洋・気候・生物多様性の関係性が危ぶまれている。そして、政治的議題として海洋問題の優先度が高い今、日本はG7議長国を務めた。2022年10月から2023年3月までの半年間だけでも、「国連海洋科学の10年」の下での行動を求める声の高まりや、2030年までに沿岸および海域の少なくとも30%を保護するという目標を含む「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択、国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全および持続可能な利用に関する新協定の合意、深海底鉱物資源開発の枠組みに関する国際海底機構主導の交渉などがあった。2022年は、世界貿易機関(WTO)が有害な漁業補助金を禁止する協定に合意し、国連環境総会がプラスチック汚染に関する国際条約の策定に向けた決議を採択するなど、「海洋のスーパーイヤー」と呼ばれる年だった。
海洋のこうした地球規模の変化は幅広い環境に影響を与え、人間社会への影響もより広範囲に及ぶため、海洋生態系だけの問題ではない。海洋・気候・生物多様性の関係性が危ぶまれている。そして、政治的議題として海洋問題の優先度が高い今、日本はG7議長国を務めた。2022年10月から2023年3月までの半年間だけでも、「国連海洋科学の10年」の下での行動を求める声の高まりや、2030年までに沿岸および海域の少なくとも30%を保護するという目標を含む「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択、国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全および持続可能な利用に関する新協定の合意、深海底鉱物資源開発の枠組みに関する国際海底機構主導の交渉などがあった。2022年は、世界貿易機関(WTO)が有害な漁業補助金を禁止する協定に合意し、国連環境総会がプラスチック汚染に関する国際条約の策定に向けた決議を採択するなど、「海洋のスーパーイヤー」と呼ばれる年だった。
マリンステーションの役割
この勢いを維持し、上記のような動きに関連する野心的な取り組みや目標、より一般的には国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、地球規模でリソースを動員することが不可欠だ。なかでも非常に重要な海のリソースの一つが、世界に約800カ所(定義によっては1,200カ所以上)あるマリンステーション(臨海教育研究施設)である。
マリンステーションは不安定な資金源に依存していることが多いため、単独では脆弱になる場合がある。実際ここ数年でいくつもの施設が閉鎖されている。そのこともあって、多くのマリンステーションが、地域レベルのネットワーク(例えば、欧州マリンステーション・ネットワーク:MARS)や国内レベルのネットワーク(例えば、全米海洋研究所協会:NAML)に加わっている。優れた国内レベルのネットワークのもう一つの例が、日本のマリンバイオ共同推進機構(JAMBIO)である。2009年に設立されたこの組織は現在、日本全国22カ所のマリンステーションに連携の仕組みを提供している。
世界マリンステーション連合(WAMS)の構想は、2009年にユネスコ政府間海洋学委員会(IOC-UNESCO)に提案されたものの、リソース不足のためになかなか本格化できなかった。しかし、2021年に初開催された世界マリンステーション総会で、WAMSは新たな弾みをつけることに成功した。3日間にわたってオンラインで開催されたこの総会は、「国連海洋科学の10年」の公式活動としてIOC-UNESCOに承認され、ウラジミール・リャビニンIOC事務局長が「WAMSが国連海洋科学の10年の目的をいかにサポートできるか」について基調講演を行った。世界中のマリンステーションやそのネットワークから300人以上が参加し、WAMSの活動を推進するための新委員会設立に関する公式声明が発表された。
マリンステーションは不安定な資金源に依存していることが多いため、単独では脆弱になる場合がある。実際ここ数年でいくつもの施設が閉鎖されている。そのこともあって、多くのマリンステーションが、地域レベルのネットワーク(例えば、欧州マリンステーション・ネットワーク:MARS)や国内レベルのネットワーク(例えば、全米海洋研究所協会:NAML)に加わっている。優れた国内レベルのネットワークのもう一つの例が、日本のマリンバイオ共同推進機構(JAMBIO)である。2009年に設立されたこの組織は現在、日本全国22カ所のマリンステーションに連携の仕組みを提供している。
世界マリンステーション連合(WAMS)の構想は、2009年にユネスコ政府間海洋学委員会(IOC-UNESCO)に提案されたものの、リソース不足のためになかなか本格化できなかった。しかし、2021年に初開催された世界マリンステーション総会で、WAMSは新たな弾みをつけることに成功した。3日間にわたってオンラインで開催されたこの総会は、「国連海洋科学の10年」の公式活動としてIOC-UNESCOに承認され、ウラジミール・リャビニンIOC事務局長が「WAMSが国連海洋科学の10年の目的をいかにサポートできるか」について基調講演を行った。世界中のマリンステーションやそのネットワークから300人以上が参加し、WAMSの活動を推進するための新委員会設立に関する公式声明が発表された。
■世界のマリンステーション
世界で784のマリンステーションが98カ国によって維持され、その大部分は、アジア(23%)、欧州(22%)、北米(21%)、南 極大陸(11%)、南米(10%)、アフリカ(8%)、オセアニア(5%)にある。(2023年のWAMSの情報更新では811ステーション)
世界で784のマリンステーションが98カ国によって維持され、その大部分は、アジア(23%)、欧州(22%)、北米(21%)、南 極大陸(11%)、南米(10%)、アフリカ(8%)、オセアニア(5%)にある。(2023年のWAMSの情報更新では811ステーション)
世界マリンステーション連合の目指すもの
では、WAMSは何を実現しようとしているのだろうか。主な目的は以下の通りである。
・マリンステーションの能力を最大化するために、リソースの共有によって協力関係を促進し相乗効果を達成すること。
・国際・国内レベルでマリンステーションの価値を宣伝するために、共通の「声」を提供すること。
・国連の「Leave No One Behind(LNOB)/誰一人取り残さない」の原則に基づき、奨学金その他の資金提供の機会を特定し提供することにより、公平な方法で次世代育成を支援すること。
・地球規模の課題への取り組みに必要な共同作業実現のため、科学外交の仕組みとなること。
能力向上と協力関係の強化を支援するためのWAMSの重要な活動の一つが、世界初の包括的な「世界マリンステーション・アトラス」の立ち上げである。これによって、人々は世界中のマリンステーションの所在地や連絡先、交流や訪問のためのアクセス方法や資金に関する情報も入手できる。JAMBIOは、このアトラス作成にも主導的な役割を果たした。世界マリンステーション・アトラスは、WAMS本部が置かれているプリマス海洋研究所(英国)のウェブサイトを通じて利用できる。(https://worldmarinestations.com/atlas/)
WAMSの次なるステップは、新規ウェブサイトと世界マリンステーション・アトラスの開発を継続することであり、「国連海洋科学の10年」の実施パートナーになるための提案作業も進行中だ。また、2024年に第2回世界総会を計画しており、東京が開催候補地となっている。日本には海洋生物学の歴史があり、その優れた国際的視野や、JAMBIOというネットワークの設立と発展の実績からも、WAMSをさらに発展させるのに理想的な場所である。
海洋に関連してわれわれが直面している課題の規模の大きさを考えると、限られたリソースを最大限に活用するために世界レベルで協力することが、「良い考え」というよりも、絶対に必要なことだと言える。WAMSはこの目標をサポートする重要なリソースであり、日本やマリンステーションを持つすべての国には、この重要なイニシアチブの支持とサポートをお願いしたい。(了)
・マリンステーションの能力を最大化するために、リソースの共有によって協力関係を促進し相乗効果を達成すること。
・国際・国内レベルでマリンステーションの価値を宣伝するために、共通の「声」を提供すること。
・国連の「Leave No One Behind(LNOB)/誰一人取り残さない」の原則に基づき、奨学金その他の資金提供の機会を特定し提供することにより、公平な方法で次世代育成を支援すること。
・地球規模の課題への取り組みに必要な共同作業実現のため、科学外交の仕組みとなること。
能力向上と協力関係の強化を支援するためのWAMSの重要な活動の一つが、世界初の包括的な「世界マリンステーション・アトラス」の立ち上げである。これによって、人々は世界中のマリンステーションの所在地や連絡先、交流や訪問のためのアクセス方法や資金に関する情報も入手できる。JAMBIOは、このアトラス作成にも主導的な役割を果たした。世界マリンステーション・アトラスは、WAMS本部が置かれているプリマス海洋研究所(英国)のウェブサイトを通じて利用できる。(https://worldmarinestations.com/atlas/)
WAMSの次なるステップは、新規ウェブサイトと世界マリンステーション・アトラスの開発を継続することであり、「国連海洋科学の10年」の実施パートナーになるための提案作業も進行中だ。また、2024年に第2回世界総会を計画しており、東京が開催候補地となっている。日本には海洋生物学の歴史があり、その優れた国際的視野や、JAMBIOというネットワークの設立と発展の実績からも、WAMSをさらに発展させるのに理想的な場所である。
海洋に関連してわれわれが直面している課題の規模の大きさを考えると、限られたリソースを最大限に活用するために世界レベルで協力することが、「良い考え」というよりも、絶対に必要なことだと言える。WAMSはこの目標をサポートする重要なリソースであり、日本やマリンステーションを持つすべての国には、この重要なイニシアチブの支持とサポートをお願いしたい。(了)
※1 IPCC第6次評価報告書(AR6)第2作業部会の報告『気候変動 - 影響・適応・脆弱性』の「政策決定者向け要約」環境省による確定訳 https://www.env.go.jp/content/000138044.pdf
※2 国連『世界海洋評価(WOA)第2版』 https://www.un.org/regularprocess/sites/www.un.org.regularprocess/files/2011859-e-woa-ii-vol-i.pdf
●本稿は、英語の原文を事務局が翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。https://www.spf.org/en/opri/newsletter/
※2 国連『世界海洋評価(WOA)第2版』 https://www.un.org/regularprocess/sites/www.un.org.regularprocess/files/2011859-e-woa-ii-vol-i.pdf
●本稿は、英語の原文を事務局が翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。https://www.spf.org/en/opri/newsletter/
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