Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第552号(2023.08.05発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所上席研究員◆渡邉敦

◆今年に入り、パラオ、パナマ、マルティニーク、セントルシア、ノルウェー等を巡る機会を得て、世界各地の抱える海洋問題を知り、問題の解決を目指す人たちと会い、協業できることを探って来た。その中で、改めて世界の海洋はさまざまな喫緊の課題に瀕していることを見聞きし圧倒される一方で、こうした問題意識を共有することで解決を探る人たちと出会い希望も感じた。
◆原因は特定されていないが藻場に棲むウニが忽然と姿を消してしまったパラオ、逆にウニの捕食者であるオオカミウオの乱獲が引き金で磯焼けが進んだノルウェーなど、日本の各地と同様の課題を抱える地域がある。かたや浮遊性褐藻(ホンダワラ)類が大量に漂着し、現地の人々の健康被害や観光影響などを起こしているカリブ海やメキシコ湾のように、太平洋では見られない地域的な課題に頭を悩ます地域もある。従来型の海洋保全策や海洋産業従事者だけでは課題解決が困難となっており、環境悪化の主要因を取り除くことと並行して、環境再生型アプローチや従来に無い異業種連携、それを推進する新たな制度が求められ、実践も始まっている。
◆本号に御寄稿いただいた3つの記事も、こうした流れに沿った日本の施策や取り組みを紹介している。渡辺氏の記事で紹介された生物多様性条約に基づく日本の自然再生事業は、過去に損なわれた自然環境を取り戻すことを目的に、国内で計画が策定され推進されてきた。今後、気候変動対策やネイチャーポジティブという施策とも関連付け、定量性を持った指標をもとに効果を測定可能にし、それにより自然再生を目的とした事業に公的および民間からの資金が回り、2030年に向け推進されることが重要であろう。
◆長谷氏の記事で紹介のあった沖合での洋上風力発電展開は、今まで漁業や海運での活用が主体であった沖合域の新たなアクターの参画を意味し、記事ではその課題や可能性を提示している。沖合を気候変動対策に活用することは、日本のように資源が乏しく深い海に囲まれた国には重要課題であり、漁業者を含めた横断的な議論や制度設計を政府が推進することが求められる。
◆五月女氏の記事における漁業者が海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用する事業に従事するという「海業」も、海と人間のかかわり方に新たな視点を提供している。漁村内外の人間が関わることで、地域の伝統や文化を再確認し、そこに行かなければ体験できない価値として経済が回るモデル事業が求められる。(渡邉敦上席研究員)

第552号(2023.08.05発行)のその他の記事

ページトップ