Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第551号(2023.07.20発行)

漁港における海業の推進への新たな制度
~漁港漁場整備法の改正~

KEYWORDS 漁港/海業/水産物の消費増進
水産庁漁港漁場整備部計画課防災計画官◆内田 智

漁港漁場整備法が改正され、漁港について、漁業上の利用を前提として、海や漁村の価値や魅力を活かす「海業」を展開し、水産業や漁村を活性化する制度が創設された。
地域の理解と協力のもと、漁業上の利用を確保した上で、漁港施設・水域・公共空地を有効活用し、水産物の消費増進や交流促進に資する事業を計画的に実施するそのスキームを紹介する。
漁港に求められる新たな役割─水産物消費の場として─
日本人の魚離れが進んでいる昨今ではありますが、漁村には多くの方々が訪れ、その数は年々増加して毎年2,000万人とも言われています。普段のわれわれの食卓からは魚が遠のきがちですが、日常から離れて漁港を訪れ、魚が水揚げされているところを見て、きれいな景色の中で、美味しい魚を味わいたい!といったニーズは、逆に増えているのでしょう。消費者のニーズは、水産物を消費する「モノ消費」から、経験や体験を消費する「コト消費」へと指向が変化しています。漁港は、水産物生産や流通の起点となる場ですが、今日、水産物の消費の場、漁業体験など貴重な体験の場としても注目されています。
今後、漁港において積極的に来訪者を受け入れていく視点は、地域の漁業や水産業の活性化にとっても重要です。獲れた魚は市場に出荷するだけでなく、直接最終消費者に販売できれば、その高い鮮度も評価され、高く売れます。また、通常市場に出回らない漁獲量の少ない魚も流通させることができ、販路が拡大します。加えて、訪問した方々に滞在してもらい余暇を過ごしてもらえれば、地域の所得が向上します。さらに、地域水産業の素晴らしさに理解と共感を得られれば、新規就業者の獲得にも繋がる可能性があるでしょう。このため、現在、漁港において海業(うみぎょう)を推進し、水産物の消費増進や交流促進を目指したいと考える地域のニーズが強く、先進的な地域では取り組みも始まっています。
しかし、このような取り組みを全国に広げていくには、いくつかの課題がありました。わが国の漁港は、地方公共団体(漁港管理者)が管理する漁業作業用に整備された公共施設であることから、共同の漁業作業といった用途以外での利用や民間活用を前提としていませんでした。このため、事業者が漁港施設を活用して海業を実施したいと考えた場合、一時的・例外的な占用許可の範囲でしか取り組むことができませんでした。また、既存の利用者である漁業者等の理解を得るプロセスや漁業上の利用との調整を図る仕組みが整っていませんでした。
このため、漁港漁場整備法が改正され、行政財産である漁港を水産物の消費増進や交流促進に資する事業に活用する考え方を明らかにし、漁業利用と海業利用の調和を図っていく計画制度と、適切な事業者に対して長期安定的な事業運営を保証する仕組みが導入されることとなりました。
漁港施設等活用事業の創設─民間活力の導入と秩序ある利用─
漁港における海業の推進に向けて、「漁港漁場整備法」が改正され、法律名が「漁港及び漁場の整備等に関する法律」へ改められ、目的規定に「漁港の活用を促進」することが追加されました。改正内容の目玉の一つは、「漁港施設等活用事業」の創設です。ポイントを以下に紹介します。
(1)「漁港施設等活用事業」とは、漁港の漁業上の利用に配慮しつつ、漁港施設、漁港区域内の水域、公共空地を活用し、当該漁港に係る水産業の発展および水産物の安定に寄与する事業を実施するものとされています。事業内容は、①水産物の消費の増進に関する事業(水産物の販売や料理の提供等)、②交流の促進に関する事業(遊漁、漁業体験活動、海洋環境に関する体験活動等)などが対象となります。これまで例外的に行われてきた漁港の活用は、法律上の事業としての位置づけを得て、その意義やあり方が明確になりました。
(2)漁港管理者は、「漁港施設等活用事業」を実施させる場合、農林水産大臣が示す基本方針に即して、「活用推進計画」を策定します。これは、地域の水産業に裨益する事業の内容、活用を図る区域、漁業利用に支障を及ぼさないための措置等を定めた、漁港利用のフレームを示すものであり、漁業者等の意見聴取といった地域の合意形成のプロセスも法定されています。このことで、漁港の活用に当たって必要となる利用調整の考え方や合意形成の手続が明確となり、民間事業者にとっても参入を検討しやすくなります。
(3)「事業を実施しようとする者」は、「活用推進計画」に基づき「実施計画」を作成し、漁港管理者から「認定」を受けて事業を実施します。その際、事業者は、漁港管理者の認定を受けた計画に基づき、長期安定的に事業を実施することが可能となります。具体的には、①漁港施設(行政財産)の貸付:国有財産法や地方自治法で原則貸付が禁止されている行政財産について、最大30年間の貸付を受けることが可能となります。②漁港区域内の水域・公共空地の長期占用:通常10年間の占用しか許可されない水域や公共空地について、最大30年間の占用が可能となります。③漁港水面施設運営権(みなし物権)の取得:水面を占用する際、遊漁や漁業体験活動などその水面固有の資源を利用する事業を実施するために施設を設置し、運営する場合、第三者への対抗要件や妨害排除請求権等を有し、抵当権の設定も可能な排他独占的な権利(最大10年で更新可)を取得することが可能となります。
加えて、水産業や漁港利用に精通した漁業協同組合等の活躍を期待して、水産業協同組合法を改正し、漁業協同組合等が漁港施設等活用事業を実施する場合、遊漁等のサービスの提供の際に必要となる労働力の1/2以上を組合員としなければならないという員外利用制限を適用しない措置を講じています。
全国の漁港2,800港の様子はさまざまです。沿岸漁業の根拠地もあれば、遠洋、沖合漁業の拠点港もあり、養殖生産の拡大に取り組む漁港もあります。多くの来訪者が訪れる漁港もあれば、静かな漁村にたたずむ漁港もあるでしょう。これら漁港のポテンシャルはさまざまであり、課題もさまざまでしょう。本稿で主題とした、民間事業者による海業推進、消費増進やこのための交流促進といった方向性は、それぞれの漁港の多様な将来像を模索する上で、選択肢のひとつとしていただくためのものです。今回の法改正では、海業推進のための新制度とともに、漁港の本来機能そのものの見直しもしました。漁業者が水産物の最終消費者に直接販売する直売所は、漁港施設等活用事業の対象としてではなく、漁港の本来機能と整理し、新たに「漁港施設」に追加しました。また、輸出増大にも対応できるよう、仲卸棟、配送用作業施設といった出荷関連の施設や陸上養殖施設といった生産関連の施設も追加しています。それぞれの漁港が、それぞれのポテンシャルや課題に対応し、発展していく一助にしていただきたいと考えています。(了)
■今後の漁港のイメージ

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■漁港施設等活用事業イメージ

■漁港施設等活用事業イメージ

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