Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第551号(2023.07.20発行)

北極サークルの役割と日本フォーラムの成功

KEYWORDS 北極サークル/北極における協力/「アジア5カ国」
北極サークル議長、前アイスランド大統領(1996〜2016年)◆Olafur Ragnar GRIMSSON

2023年3月東京において、北極サークルは、北極サークル日本フォーラムを(公財)日本財団、(公財)笹川平和財団とともに開催し、大きな成功を収めた。
北極サークルの総会と地域フォーラムは民主的かつ開かれたものであり、21世紀における世界で最も重要なプラットフォームへと発展した。
北極サークル日本フォーラムの開催
2023年3月4日〜6日に東京で開催された北極サークル※1日本フォーラムは、北極サークルと(公財)日本財団、(公財)笹川平和財団との共同主催により、多くの面で大きな成功を収め、地球規模で北極における協力を進める際にアジアが果たす役割の重要性を確認することができました。
このフォーラムでは、日本は北極への関与を強化する決意を表明しました。砕氷機能を備えた新しい研究船の建造によって、北極、気候、北洋の状態に関する知識を深めるために日本の科学が大きく貢献していくことを示したのです。
日本が提供したリーダーシップは、日本フォーラムにおける日本政府の多くの関係閣僚や日本の著名な国会議員による明確かつ包括的な声明にも表れていました。このような有力な政治家による参加を得たことは、それだけでフォーラムを歴史的なものにしたのですが、それ以外にも重要なレベルの成功があったのです。
■図1 北極サークルのロゴ

■図1 北極サークルのロゴ

北極におけるアジアの重要性
今回のフォーラムには、中国、インド、韓国、シンガポール、そして日本という、北極評議会※2におけるアジアのすべてのオブザーバー国がハイレベルな代表を派遣しました。北極でより大きな役割を果たすという決意が、スピーチや対話の中で語られました。フォーラムの開催期間中彼らの貢献は非常に大きく、これらの国を合わせて「アジア5カ国」と呼ぶことが多くなりました。北極の協力において非常に重要な役割を担っていることが認識されたのです。ウクライナ侵攻後、ロシアが議長国を務める北極評議会の活動が停止したため、ロシア以外の国を「北極圏7カ国」と呼称するようになったことと、遊び心をこめて間接的に結びつけられたのでしょう。
また、欧米からの多数のハイレベルな参加者、科学者、専門家も、日本フォーラムにおける議論の幅を広げました。アジアからの参加者と欧米からの参加者の対話は、このフォーラムが真に国際的なものであることを実感させるものでした。
今回のフォーラムのテーマは「北極の未来におけるアジア」でしたが、アジア以外の専門家、科学者、外交官、政治家による有益かつ建設的な貢献により、フォーラムはまさにグローバルなイベントとなり、北極サークルが日本のホストと協力して北極における協力の分野と内容を広げることに成功しました。
初日のセッションでは、北極海の将来について、中央北極海無規制公海漁業防止協定※3の歴史的合意や海洋研究のさまざまな側面とともに議論されました。また、北極ガバナンス、北極と第三極・ヒマラヤ地域の関連性、インド太平洋に向けたカナダの北極政策、融解する北極における先住民の知識、北極海の保全、グリーン革命のための重要鉱物、極北ファイバーケーブルとスマートケーブルなどの問題も、フォーラムを通して取り上げられました。
3日間で50のセッションが開催され、いずれも鋭い質問が出され活発な議論が行われました。25カ国から300名以上の参加者があり、アジアで開催される北極の会議としては異例といえるものでした。
2023年10月には、アイスランドで毎年開催される北極サークルの総会において、例年通りならば60〜70カ国2,000人以上にものぼるであろう参加者に対して、今回の日本フォーラムの成功が報告される予定です。
日本フォーラムでの演説

日本フォーラムでの演説

「アジア5カ国」の北極担当大使が参加したセッション

「アジア5カ国」の北極担当大使が参加したセッション

北極サークルの重要性と今後
10年前に北極サークルが設立されて以来、毎年開催されてきた総会は、北極問題や、それに関連する気候変動、海洋、氷河、技術、経済開発、政府協力などの問題に関して定期的に開催される世界最大規模の国際会議となっています。また、総会には何百人もの若い活動家、学生、非政府組織のリーダーが参加し、北極と地球の未来に影響を与える民主的権利を行使しています。
北極サークル総会やその下で開催される地域フォーラムは、さまざまな主体がセッションやイベント、ダイアログを開催できるオープンで民主的なプラットフォームであり、正式な地位や活動家としての立場に関係なく、老若男女問わず、言いたいことがあれば誰でも意見を表明し、議論に影響を与えることができます。
米国、ヨーロッパ、アジア、中東での複数のフォーラム、そしてアイスランドでの総会によって、北極サークルは21世紀における最も重要なグローバル・プラットフォームのひとつとなりました。日本でのフォーラムがそのことを魅力的な形で証明しました。その成功は、笹川陽平(公財)日本財団会長と角南篤(公財)笹川平和財団理事長のリーダーシップの下で、日本財団と笹川平和財団が優れた組織運営を行ったことに大いに負うところがあります。日本フォーラム開催までの数カ月、あるいは数年にわたる、そして最も重要な数日間におけるこれらの組織のスタッフの献身は、日本のプロフェッショナリズム、文化、伝統を証明するものでありました。北極サークルは、このような優れた組織とのパートナーシップに深く感謝し、光栄に思うとともに、今後さらに協力して北極問題に取り組んでいけることを期待しています。(了)
※1 北極サークルは、本稿筆者の主導で2013年に設立された、北極に関する世界最大規模の非政府組織(NGO)である。毎秋の年次総会や、北極に関心のある各国政府・NGO等と共催で不定期に開催される「地域フォーラム」では、北極圏国だけでなく、世界中の国から政府関係者や、北極の先住民団体、民間企業、NGO、研究機関・研究者など北極に関係するステークホルダーが一堂に会して北極問題を議論する。3月に開催された日本フォーラムは、地域フォーラムの一つである。参照)北極サークルウェブサイト https://www.arcticcircle.org/
※2 北極評議会(Arctic Council)は、北緯66度33分以北の北極圏に領土をもつ8カ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国)によって1996年に設立された、北極の共通の諸課題についてハイレベルな政府代表が集まり議論するフォーラムである。
※3 中央北極海における規制されていない公海漁業を防止するための協定(2018年署名、2021年発効)
●本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。https://www.spf.org/en/opri/newsletter/

第551号(2023.07.20発行)のその他の記事

ページトップ