Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第549号(2023.06.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆このところの石川県能登半島の震度6強や千葉県南部の震度5強の地震の頻発で、首都圏直下地震や南海トラフ地震への影響を恐れる声を聞く。気象庁によれば、日本周辺では、海のプレートである太平洋プレートとフィリピン海プレートが陸のプレート(北米プレートやユーラシアプレート)の方へ1年あたり数センチの速度で動いており、陸のプレートの下に沈み込んでいるという。このため、日本周辺では、複数のプレートによって複雑な力がかかり、世界でも有数の地震多発地帯であり、地震はいつ起こっても不思議でないという。
◆小平秀一(国研)海洋研究開発機構海域地震火山部門部門長より南海トラフ地震に備える、ゆっくりすべり地震観測監視計画についてご寄稿いただいた。駿河湾から日向灘にかけての南海トラフは、固有地震モデルでは理解できない、多種多様なパターンの地震が起きる海域という。南海トラフの半分の海域で地震が発生する半割れ地震や、同海域で発生するゆっくりすべり地震である。2019年から運用が開始された「南海トラフ地震臨時情報」の迅速化や精度向上のための地震観測システムの全容については、ぜひ本誌をご一読ください。
◆駒井智幸千葉県立中央博物館動物学研究科科長より、地球上の生物多様性の解明を目指す学問である分類学について、十脚甲殻類(エビ・カニ類)を例にご説明いただいた。分類学の目的は種レベルでの多様性の解明であるという。海洋生物において新種が発見されやすいのは深海とのことで、そうした海域で得られた標本を調べたら新種だったという例は多いという。北海道根室海峡でとられ地元で食用とされていたダイオウキジンエビが、2016年にやっと新種として発表されたとの話を聞くと、この世界の奥の深さがわかる。
◆NPO法人日本水中ロボネットの浅川賢一事務局長から、人材育成の観点から行われている水中ロボット競技会についてご紹介を頂いた。水中ロボットの開発と運用には、機械工学、電気工学、情報工学、流体力学、材料力学などの幅広い技術が必要であるため、科学技術教育のテーマとして格好のものであるとされる。2010年から毎年横須賀市の(国研)海洋研究開発機構で行われている水中ロボットコンベンションは、(1)中高生対象のジュニア部門、(2)中学生以上対象のフリー部門、(3)大学生以上対象のAIチャレンジ部門から構成されているという。この水中ロボット競技会により、若手の人材育成がなされることを期待したい。(坂元茂樹)

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