Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第549号(2023.06.20発行)

水中ロボット競技会と人材育成

KEYWORDS 海洋教育/水中ロボットコンベンション/水中ロボットフェスティバル
NPO法人日本水中ロボネット事務局長◆浅川賢一

水中ロボットの開発と運用には、機械工学、電気工学、情報工学、流体力学、材料力学などさまざまな分野の知識と経験が必要であり、若手教育の魅力的素材でもある。
ここでは、若手育成の観点から見た水中ロボット競技会の現状を紹介する。
人材開発から見た水中ロボット
海洋は、水産、海運、レジャー、海底鉱物資源などで、人間社会に関係しているだけではなく、海洋環境変動は地球全体の環境変動に深く関わっている。このことをよく理解し、利用することは、人類の持続的発展にとって必要不可欠である。そのためには、海洋に対する理解と関心を深めるとともに、海洋に関わる若手研究者・技術者の育成が重要であることは、言うまでもない。
NPO法人日本水中ロボネットは、その前身である水中ロボコン推進会議を含めて、2006年より毎年水中ロボット競技会等を開催してきた。これらイベントは、単に水中ロボット愛好者が集まって技術を競いながら交流するだけではなく、若手の育成を主たる目的としている。本稿では、人材育成の観点から、当団体の活動を紹介する。
水中ロボットは、海洋技術の中心的技術であり、最近では水中ドローンとして比較的廉価なものが普及し始め、さまざまな場面で利用されている。その開発と運用には、機械工学だけではなく、電気工学、情報工学、流体力学、材料力学など幅広い技術が必要である。そのため、水中ロボットは、科学技術教育のテーマとしても魅力的である。
しかし、一般の人が水中ロボットを開発し、動かすためには、水密の問題や駆動方法など、陸上ロボットに比べても超えるべきハードルが多い。また、経験豊富な指導者も限られている。これらの課題への対応も含めて、以下に、NPO法人日本水中ロボネットの活動の一つである水中ロボットコンベンションの概要を紹介する。
水中ロボットコンベンション
水中ロボットコンベンションは、2010年から毎年横須賀市にある(国研)海洋研究開発機構で行われている水中ロボット競技会である。イベントは、(1)中高生対象のジュニア部門、(2)中学生以上対象のフリー部門、(3)大学生以上対象のAIチャレンジ部門(2018年以前はAUV部門)から構成されている。2022年のイベントには、20チーム、161名が参加した。
ジュニア部門は、初心者でも参加しやすいように、初めての参加者にはキットを支給し、事前に準備した状態でイベントに参加してもらう。会場では、指導者の下で機体を完成させ、オペレーションの楽しさも体験できるように競技を行っている。
支給する工作キットMark3(図1)はアクリル板をボディーとしたもので、独自の構造を工夫できるように、耐圧穀やスラスタ(推進器)、錘はマジックテープで固定する。競技では、プールの底に沈めた空き缶(海底鉱物資源を模擬したもの)やカニの模型などを回収し、獲得数などを競う。海藻に見立てた障害物を配置し、これを避けるように操縦する必要がある。参加者は、高得点を得られるように、戦略を立て、スラスタの配置や重心の位置、マグネットや籠などの獲得手段など独自の工夫を行うように促される。中には、カメラやアームを新規に追加する参加者もいる。このように、Mark3はマニュアルに沿ってただ組み立てるだけでなく、自発的に創意工夫が容易にできるように工夫されている。
イベントは2日間にわたって行われる。初日は、機体を完成させ、水中での試験を行う。指導者は、自発的に考察を行い、工夫をするように指導する。参加者の多くはハンダ付けや水密加工などに失敗を重ねるが、試行錯誤を繰り返すことにより、すべてのチームが2日目には水中で動かせるようになる。この過程で、参加者は工作の体験をするだけでなく、チームワークの大切さや失敗から学ぶことの重要性など、多くのことを学ぶことができる。
参加者は、作成した機体の紹介や競技に対する戦略などを発表する。また、競技終了後には、水中ロボットに対する関心がさらに高まるよう、チーム間で相互に出来栄えを評価するとともに、指導者はアドバイスを行っている。競技終了後には、全参加者を対象にアンケートを行い、イベントの効果を確認するとともに、今後の指導の改善点を探っている。アンケート結果によると、ほぼ参加者全員が満足し、受験時期などを除くと、さらに継続した参加を望んでいることが確認できた。
2020~2022年は新型コロナウイルス対策のためオンラインで開催したが、毎年、上限いっぱいのチームが参加し、運営もスムーズに行うことができた。
フリー部門では自作した水中ロボットのアイデアと完成度を競う。ジュニア部門経験者や個人での参加を含め、さまざまな人が参加している。大きさなどの制限があるものの、ロボットの形式は自由である。通常のスラスタで駆動する水中ロボットだけでなく、魚やイカ、タコ、ヘビなどをイメージしたさまざまな独創的な生物模倣ロボットが出展される(図2)。イベントでは、水槽でデモを行うほか、ワークショップで自作ロボットの特徴や構造、性能、アピールポイントなどを紹介する。プレゼンも競技の一部として採点される。
AIチャレンジ部門は2019年に新設された部門で、AIを搭載した自作の水中ロボットで競う部門である。2019年度のルールは、AIで水中に浮かぶ風船を認識し、針で割ることで得点する。風船の色で点数が変わる。また、プール壁面に置いた二次元コードを視認することで得点する。フリー部門と同様に、ワークショップでのプレゼン点数も含めて競う。
このように、水中ロボコンは、ジュニア部門からAIチャレンジ部門まで、初心者から上級者までしだいにレベルアップする体系になっている。
■図1 ジュニア部門で提供しているMark3を使った作品の一例

■図1 ジュニア部門で提供しているMark3を使った作品の一例

■図2 2018年にJAMSTEC理事長賞を受賞した「コバンザメと私」チームのロボット

■図2 2018年にJAMSTEC理事長賞を受賞した「コバンザメと私」チームのロボット

残された課題

NPO法人日本水中ロボネットでは、このほか関西以西で水中ロボットフェスティバルと水中ロボット競技会(国際会議Techno-Ocean主催)を毎年交互に開催している。2022年には、山口県、岩国市、防衛装備庁等の協力を得て、岩国海洋環境試験評価サテライトで水中ロボットフェスティバルを開催した。これらのイベントでは、ジュニア部門とAUV部門を開催している。そのほか、国内では2015年から沖縄海洋ロボットコンベンションが、2019年からは全国水産・海洋高校マリンロボットコンテストが開催されている。
このように、次第に水中ロボットコンテストは拡大されてきたが、欧米やシンガポールなどの諸外国に比べると規模や頻度が大きいとは言えない。今後、中心となる指導者を増やし、さらに広げていくことが課題である。(了)

●NPO法人日本水中ロボネット http://underwaterrobonet.org/

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