Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第544号(2023.04.05発行)

ジオパークで佐渡島を学び、楽しむ

[KEYWORDS]ジオパーク/持続可能な地域づくり/環境教育
佐渡ジオパーク推進協議会事務局◆大塚靖人

地球活動の痕跡が随所で見られる佐渡島は「島全体がジオパーク」であり、大地と生き物、人の暮らしのつながりを楽しみながら、好奇心をもってめぐることができる大きなフィールドだ。
ジオパークを訪れると、私たちを取り巻く環境は、大地の動きと共に変化し、長い年月をかけてできたことがわかる。
ジオパークの視点で見る佐渡島の魅力とジオパーク活動を紹介する。

ジオパークって何だろう?

「ジオパーク」という言葉を知っていますか。
最近、テレビや雑誌等でも地形や地質と関連した旅行が特集されることもあり、聞いたことがある方も多いと思います。一方、ジオパークに関する講座の参加者から「ジオパークって何ですか」と聞かれることも度々あります。
ジオパークを正式に名乗るには、国内では、日本ジオパーク委員会から日本ジオパークに認定される必要があり、2023年1月現在、46地域が認定されています。また、ジオパークに認定されるには、地質学的に重要な場所であるだけでなく、その場所を保全し、教育や地域振興に生かす取り組みを実施していることが必要です。つまり、ジオパークは、教育や地域振興の取り組みが行われている地質的に重要な場所ということになります。
佐渡市では、ジオパーク活動を通じて持続可能な地域発展と島民の郷土愛醸成を図ることを目的に2011(平成23)年5月に佐渡ジオパーク推進協議会を設立し、2013(平成25)年9月に日本ジオパークに認定されました。佐渡ジオパークは佐渡島全域を対象としており、保全、教育、地域振興を図るため、行政(県、市、教育委員会)、大学、専門家、農業協同組合、漁業協同組合、観光事業者など多様な関係者で、話合いをしながら、それぞれの団体が佐渡ジオパークを活用し、活動の輪を広げています。

ジオパークの視点で見る佐渡島の魅力

■図1 佐渡島 国土地理院のデータを利用して作成

佐渡というと世界文化遺産を目指す「佐渡島の金山」、野生下で見られる国際保護鳥のトキ、長編アニメーション映画『千と千尋の神隠し』(2001)に取り上げられた「たらい舟」をイメージする人が多いのではないでしょうか。また、島の形もとても不思議な形をしています。蝶やアルファベットの「S」に例えられることもあります(図1)。なぜ、佐渡で金が採れ、日本最後のトキの住処となり、たらい舟があるのか、との疑問に答えるには、佐渡島の成り立ちにヒントがあります。
佐渡の大地をつくる岩石には、プレートの運動によって大陸の縁に付加した約3億年~2億年前の岩石、陸上の火山活動でできた約3,000万年~2,000万年前の岩石、日本海の底に堆積した約1,700万年~500万年前の堆積岩、そして約300万年~10万年前の比較的新しい堆積岩や砕屑物(砂や泥など)が見られます。これらの岩石は、佐渡島ができるまでの歴史が、大洋の底にあった時代(太古の時代:3億年~1億年前)、ユーラシア大陸の一部だった時代(大陸の時代:約3,000万年前~1,700万年前)、大陸の端が切り離され海に沈んだ時代(海の時代:約1,700万年前~300万年前)、海底が隆起し海面から顔を出した時代(島の時代:300万年~現在)に分けることができ、それぞれの時代がどのような環境でどのような様子であったかを教えてくれます(図2)。
先ほどの疑問に答えると、大陸時代の激しい火山活動によって金銀鉱脈が形成され、現在の佐渡島にその時の鉱脈が現れました。また、相川金銀山の発展により、多くの人が佐渡に住むようになり、食糧確保のため段丘等も開田されました。そして人々が暮らし維持された里山は、トキにとって餌場やねぐらとなり、トキが生息し続ける絶好の環境になりました。さらに、島が隆起したことにより、海底が浅くなった岩礁海岸では、漁にたらい舟が使われるようになりました。
このようにジオパークの視点で佐渡島の何気ない景色を眺めると、大地の成り立ちと生き物や人々の生活に深い関係があることに気づき、目の前にある当たり前の風景が意味をもったものになることを実感できます。

■図2 現在の佐渡島になるまでの歴史年表

佐渡ジオパークの活用

佐渡ジオパーク推進協議会では「トキが舞う金銀の島 3億年の旅とひとの暮らし」をテーマに佐渡の自然・歴史・文化を次世代につなぎ、持続可能な地域づくりに取り組んでいます。特に小中学校へのジオパーク出前授業やジオパークガイドによる現地案内を通じて、自然の豊かさに気づくことを大切にしています。身近な大地と自分たちの生活が密接に関わっていることを知ると、興味と探求心が生まれます。また、実際に大地が動いた証拠を目の当たりにし、自然のダイナミックな活動を理解すると、その地域の自然を保全しようという意識が芽生えます。
さらに、佐渡は海に囲まれた島であるため、津波などの災害、山地や丘陵では土砂災害の危険性があります。島の成り立ちは繰り返された地震によって海底が隆起したことに起因し、これらの動きは今も継続しています。つまり、佐渡島は今後も地震が起き続けることが想定できます。このような佐渡の成り立ちと地震、そして災害に目を向けた防災教育も実施しています。ジオパーク活動を通じて、自分たちの地域の宝に気づき、保全・活用していくことが将来にわたって持続可能な地域社会の実現につながります。
佐渡ジオパーク推進協議会では、佐渡ジオパークセンターでの展示や見どころへの看板設置、佐渡ジオパークガイドの養成を行い、佐渡ジオパークを楽しむことができる仕組みを整備しています。佐渡ジオパークを訪れる際には、書籍『よくわかる佐渡ジオパーク:自然とひとの暮らし』(2022、文一総合出版)やガイドブック『トキが舞う金銀の島 3億年の旅とひとの暮らし』を携えて佐渡島というフィールドを探検してみてください。佐渡島は、訪れた人それぞれに多様な気づきをもたらし、再度、佐渡島を訪れたくなる気持ちを高めてくれる場所だと思います。(了)

  1. 佐渡ジオパーク公式サイト https://sado-geopark.com/

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