Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第543号(2023.03.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆本年1月25日、奈良市の富雄丸山古墳から蛇行剣と呼ばれる国内最大級の鉄剣とこれまで出土例がない盾形の銅鏡が発掘された。どちらも4世紀後半の古墳時代の国産品とみられ、当時、日本に高い金属加工技術があったことがわかった。こうした陸の考古学のみでなく、考古学には水中考古学という新たな分野が存在する。
◆山舩晃太郎水中考古学研究・船舶考古学研究家に水中考古学の魅力を語っていただいた。対象は水中遺跡であるが、その中で「沈没船遺跡」が圧倒的に多いという。UNESCOの試算によると、全世界の海底には100年以上前に沈み歴史的な価値がある沈没船が300万隻以上あるとされ、現在、その存在が知られているのが数万隻程で、学術調査が行われた遺跡は数百隻程度に留まるという。まさに未開の学問分野といえる。水中考古学の父といわれるバス博士の「人類は農耕民である前に船乗りであった」との言葉は、人類の営みと海との関係のロマンに誘う。読者には、陸の考古学とは異なる、発掘の難しさを含め水中考古学の魅力にぜひ触れて欲しい。
◆小堀洋美東京都市大学環境学部特別教授からは、持続可能な社会を目指す新たなアプローチとして注目されている「市民科学」についてご寄稿頂いた。科学研究の7つのステップの市民の関与の度合いによって貢献型、協働型、共創型があること、市民科学の目標と得られる成果に基づく科学主導型、政策主導型、個人の興味・関心型、社会課題への関心型という4つの分類があることを教えられた。同時に、日本発の海を対象とした市民科学の先進事例として、環境DNAを用いた魚類調査プロジェクト(協働型/科学主導・社会課題への関心型)、拾って調べるゴミ調査の事例(協働型/社会課題への関心型)、マイクロプラスチックの国際モニタリングプロジェクト(貢献型/科学主導型)があるという。市民科学の裾野の広がりに期待したい。
◆海洋ガバナンスの先駆的名著『海洋の輪』の著者として高名なエリザベス・マン・ボルゲーゼ氏によって1972年に設立された国際海洋研究所(IOI)は、設立50周年目の2022年に「全ての人のための国際的な海洋リテラシー」を目標に加え、その機関誌『World Ocean Review(WOR)』は刊行当初から読者の海洋リテラシーを向上させるよう企画されてきた。Antonella VASSALLO IOI事務局長と山口健介東京大学大学院公共政策大学院特任講師からIOIと東京大学による連携事業としての『WOR』翻訳プロジェクトについてご紹介いただいた。ぜひご一読を。(坂元茂樹)

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