Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第543号(2023.03.20発行)

国際海洋研究所と東京大学による連携事業

[KEYWORDS]国際海洋研究所(IOI)/ワールドオーシャンレビュー/海洋リテラシー
国際海洋研究所(IOI)事務局長◆Antonella VASSALLO
東京大学大学院公共政策大学院特任講師◆山口健介

エリザベス・マン・ボルゲーゼによって1972年に設立された国際海洋研究所(IOI)は、2022年に設立50周年を迎えた。
海洋ガバナンスに関する一つの大きな節目となったこの年、日本においても海洋リテラシーを高めることを目的として、東京大学海洋学際教育プログラムにおいて、IOIの機関誌『World Ocean Review(WOR)』の翻訳プロジェクトが発足した。
IOIと東京大学によるこの連携事業について紹介したい。

50周年を迎えた国際海洋研究所(IOI)

国際海洋研究所(International Ocean Institute, IOI)※1は、1972年にエリザベス・マン・ボルゲーゼによって設立された、国連における特別協議資格を有する国際的な非政府・非営利組織である。IOIは、全世界で毎年開催する能力開発プログラムを通じて、海洋は「人類の共同財産」であるという国連海洋法条約(UNCLOS)における原則を支持し、拡大することを主な取り組みとしている。
ボルゲーゼにとっての海とは、天然資源の衡平な利用に向けたさまざまな倫理原則を実践するための最適な場所だった。彼女は1970年に国際会議「Pacem in Maribus(Peace in the Ocean)」を立ち上げ、その2年後にIOIを設立した。世界各国に置かれた下部組織や、IOIによる教育プログラムの修了生、連携機関との国際的なネットワークを通じて、海洋ガバナンスにおける実践的かつ知識豊富な未来のリーダーを生み出すべく、IOIは世界規模で活動している。
2022年、IOIは設立50周年の節目を迎えた。この年は、1982年の第3次国連海洋法会議におけるUNCLOSの採択と署名から40年を迎える年でもあり、世界の海洋コミュニティにとって、海洋ガバナンスに関する一つの大きな節目の年となった。
一連の活動成果によって、持続的な海洋管理の原則および「人類の共同財産」の原則に基づいた、海の持続的かつ平和的な利用に向けて、広範囲にわたる影響を及ぼしてきた。これまでカナダ、中国、マルタ、南アフリカ、タイ、ラテンアメリカ、トルクメニスタンで毎年開催される教育プログラムや、海洋ガバナンスの分野における大学院の講義を支援してきた。2022年には、IOIによる海洋アカデミーが始まった。これは、IOIの目標に「全ての人のための国際的な海洋リテラシー」という側面を加えた、50周年の節目を祝う素晴らしい記念事業となった。
これら全ての取り組みは、海洋ガバナンスにおける知識豊富な指導者や実務者を生み出すことや、人々がアジェンダ2030と海洋の公正かつ衡平なガバナンスを達成するために必要な知識や理解、手法を身につけるための手助けとなることを目指しており、これまで、約140カ国から約2,000名の修了生が、責任ある海洋リーダーシップを身に着けてきた。

World Ocean Review (WOR)

これらの取り組みに加え、「海の知識」を全てのステークホルダーに広めるにあたり、機関誌『World Ocean Review (WOR)』が大きく貢献していることは間違いないだろう。IOIの200名以上の科学者の学際的なネットワーク「The Future Ocean」や、海に関する雑誌『Mare』とともに、WORは海におけるさまざまな要素の相互作用に対する一般の人々の意識を高め、より効果的な海洋保全に貢献することを目的としている。
この目的において、WORは刊行当初から、読者の海洋リテラシーを向上させるよう企画されてきた。知識と科学の相互関係や、海を基盤とした経済活動、海との相互作用や海への依存の社会文化的な側面に配慮されてきた。これらの側面は持続可能な開発と健全な海洋ガバナンスの柱そのものといえる。
これまでのWOR全7部では、「海とともに生きる」「漁業の未来」「海洋資源」「持続可能な海の利用」「沿岸域」「北極と南極」「生命を守る海」を取り上げてきた。WORに関わる団体の有機的な連携により、本シリーズは世界中の読者にとって非常に利用しやすく、分かりやすく、相互参照可能かつ最新の知識を提供するものとなっている。本シリーズの出版物は無料で配布され、ウェブサイトからダウンロードすることができる。と同時に、複数の言語に翻訳されてきた※2

日本でのWOR翻訳プロジェクト

IOIにとって特別な年である2022年、日本における海洋リテラシーを高めることを目的として、東京大学海洋学際教育プログラムの、山口健介博士を中心とした2021年度の東京大学の講義「海洋科学技術政策論」において、WOR1作目「海とともに生きる」の学生による翻訳チームが発足した。仮訳の後、各分野の第一線の専門家からのフィードバックを経て、2022年末にオンラインで出版された※3
また、この翻訳版を2022年度の「海洋科学技術政策論」の授業において教科書として使用することで、改善すべき内容も見えてきた。第1に、2011年に出版された原語版に対して、最新の海洋科学に基づいたアップデートをする必要があることが分かった。第2に、本書で取り上げられた事例は、現状では主に欧州のものが中心となっているが、日本の読者を想定して、日本や東アジアの事例を盛り込むことも提案された。
海、地球、そして人類社会の相互連間に関して、受講生が本書から得た幅広い知見は、大学院修了後もキャリアの糧になるに違いない。海洋問題に関する議論や政策立案に対し、積極的かつ学識豊かに関与することができる次世代の「海のリーダー」となることを期待している。
IOIと東京大学海洋学際教育プログラムは、今後も社会の多様な利害関係者と協創することを通じて、責任ある文化や理性的な政策立案に貢献し、母なる海との衡平で持続可能な関係を希求していきたい。(了)

2022年度「海洋科学技術政策論」の最終授業 『World Ocean Review 1(日本語版)』https://www.oa.u-tokyo.ac.jp/news/images/WOR_B5WEB%20(最終).pdf
  1. ※1International Ocean Institute
    https://www.ioinst.org/
  2. ※2World Ocean Review
    https://worldoceanreview.com/en/
  3. ※3東京大学海洋アライアンスHP
    https://www.oa.u-tokyo.ac.jp/news/266.html
  4. 本稿は、英語の原文を翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。
    https://www.spf.org/opri/en/newsletter/

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