Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第542号(2023.03.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆鰆(サワラ)の旬は春。魚編の漢字は、多様な魚介類を利用する和食文化の証だが、1980年代以降、遠洋漁業や沖合漁業の漁獲量が減少してしまった。世界全体の17%を占めていた漁獲量が近年は3%程度である。海外でも魚食が味と健康志向で歓迎され注目される。天然・養殖、国内・輸入、加工方法など消費者の選択肢も増えており、水産業の新展開が期待されている。
◆日本沿岸における密漁の検挙数が増えている。漁業者による違反操業は減少したが、漁業者以外の密漁が増え、悪質化・巧妙化している。そのため、水産資源を守り、漁業者を守り、消費者が信頼できる水産物の採捕と流通を目指した法整備について、水産庁加工流通課の冨樫真志課長補佐に解説をいただいた。2020年12月に施行された改正漁業法では、アワビ、ナマコ、シラスウナギが特定水産動植物に指定された。ほぼ時を同じくして公布された水産流通適正化法では、IUU漁業への対策として4魚種を特定第二種水産動植物に指定し輸入を規制している。国内で取り扱われる水産動植物の信頼性の向上や適正な市場環境の実現に向かっている。
◆2021年の栄養塩類管理制度を柱とする瀬戸内法の改正(本誌第506号参照)に並行して、兵庫県は2022年10月に兵庫県栄養塩類管理計画を策定した。神戸~明石・姫路地方はイカナゴのくぎ煮が名産だが、近年、イカナゴは不漁が続く。このイカナゴの生態はユニークで、初夏から12月まで砂に潜って夏眠し、その間に成熟する。兵庫県立農林水産技術総合センターの反田實技術参与は、2015~2019年に貧栄養化とイカナゴ漁獲量の関係を調査し、窒素濃度の変化が影響すること、夏眠中の成熟が要因となることを示した。イカナゴを育む豊かな海の実証が始まりつつある。
◆江戸城の石垣は、主に伊豆半島から運ばれた石でできている。3,000隻もの石船が月に2度往復し、60㎝角の石材約81万個を30年かけて運搬したという。なお、天守台の白い花崗岩は岡山県の犬島から海路で運ばれた。江戸城の建築費用の8割は石の切り出しと運送に費やされたことも頷ける。江戸時代は物資の輸送にも水路が利用されたが、水路の構築にも船が利用された。船なしに江戸は成り立たなかったのである。(公財)笹川平和財団海洋政策研究所の黄俊揚主任研究員より江戸時代の国内の水運、海運の発展と都市計画について論考をいただいた。海洋国家日本で都市計画が歴史的にどう変遷してきたかの検証が今後も重要である。(窪川かおる)

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