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オーシャンニューズレター

第542号(2023.03.05発行)

水産流通適正化制度について

[KEYWORDS]漁獲番号/IUU漁業/情報伝達の電子化
水産庁加工流通課課長補佐◆冨樫真志

違法に採捕された水産動植物の流通過程での混入やIUU漁業由来の水産動植物の流入を防止することを目的とした「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が2022(令和4)年12月に施行された。
本法律は、特定の水産動植物を取り扱う漁業者等の行政機関への届出、漁獲番号等の伝達、取引記録の作成・保存、輸出入に際する証明書の添付等を義務付けており、同法に基づき水産動植物の国内流通の適正化を図る。

制度制定の背景および目的等

「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」(水産流通適正化法)は、2020(令和2)年12月に公布され、2022(令和4)年12月1日から施行されました。
近年、わが国の沿岸域において、漁業者以外の者による漁業関係法令違反、いわゆる密漁の検挙件数が増加傾向にあり、この違反事例の中には、組織的に潜水器を用いて夜間操業をしたり、探照灯(サーチライト)を照射するなど悪質・巧妙化した密漁事案も確認されています。
こうした法令違反に対応するため、2020(令和2)年12月1日に施行された改正漁業法では、アワビ、ナマコ、シラスウナギを特定水産動植物に指定し、漁業許可、漁業権等に基づかない特定水産動植物の採捕禁止の罪や密漁された特定水産動植物の流通の罪を新設し、悪質な密漁に対する罰則強化が行われました。
また、国際的には、違法・無報告・無規制漁業、いわゆるIUU漁業への対策として、違法に採捕された水産動植物等の国内への流入を防ぐ輸入規制を講じる必要性が高まっています。
2001(平成13)年に、国際連合食糧農業機関(FAO)において、IUU漁業への国際行動計画が定められ、2015(平成27)年の国連持続可能な開発サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)、2019(令和元)年のG20大阪首脳宣言等でもIUU漁業撲滅に向けた目標が設定されています。また、欧米等では、既に輸入規制を講じています。
このような状況を踏まえ、特定の水産動植物等について、違法に採捕された水産動植物の流通を防ぐための取扱事業者間における情報の伝達、取引記録の作成および保存、輸出入に際する証明書の添付等の措置を講ずることにより、違法な漁業の抑止および水産資源の持続的な利用に寄与するため、水産流通適正化法が国会で審議され、2020(令和2)年12月11日に公布されました。

制度の概要

まず、国内の密漁対策として、アワビ、ナマコ、2025(令和7)年から制度適用のシラスウナギの計3魚種を特定第一種水産動植物等(加工品も含む)に指定し、①漁業者等による行政機関への届出、②採捕事業者による漁獲番号等の伝達、③取扱事業者間における情報の伝達、④取引記録の作成・保存、⑤取扱事業者の届出、⑥輸出時に国が発行する適法漁獲等証明書の添付の計6つの義務が課せられています。
それぞれの留意点として、①および⑤の届出については、原則として農林水産省共通申請サービス(eMAFF)で行うこととしています。②および③の漁獲番号等の伝達については、番号の伝達と聞くと一つ一つの漁獲物に附番し、伝達すると思われがちですが、販売する単位ごとにおいて、漁獲番号等を伝達することも可能です。この番号に加えて、特定第一種水産動植物等の名称、販売者の氏名または名称、重量、譲り渡した年月日も併せて伝達する必要があります。また、取扱事業者間における情報伝達については、採捕事業者から伝達された漁獲番号をそのまま次の販売先に伝達しても構いませんが、荷口の統合や小分け等のロット等を整理して販売する際には新たに荷口番号を附番して、次の販売先に伝達することができます。④の取引記録の作成・保存については、採捕事業者や取扱事業者が特定第一種水産動植物等の販売や仕入れ等を行った場合は、漁獲番号等を含む取引記録を作成し、3年間保存が必要です。⑥の輸出時に添付が必要となる適法漁獲等証明書の交付申請については、「一元的な輸出証明書発給システム」で手続きを行うこととしています(図1)。

■図1 特定第一種水産動植物等に係る制度スキーム

次に、違法に採捕された水産動植物等の国内への流入を防ぐための輸入規制として、国際的にIUU漁業のおそれの大きい魚種のうち、イカ、サンマ、サバ、マイワシの4魚種を特定第二種水産動植物等(加工品も含む)に指定し、輸入する際に採捕漁船の旗国の政府機関が発行する適法採捕証明書の添付と、旗国以外の第三国で加工され輸入される場合は、第三国(加工地)の政府機関等が発行する加工申告書等の添付の義務が課されています(図2)。

■図2 特定第二種水産動植物等に係る制度スキーム

旗国政府が発行する適法採捕証明書等については、直近で日本に輸入実績のある各国・地域との二国間協議を順次終了し、法施行日以降に採捕された特定第二種水産動植物等を日本に輸入される時から適用となります。
この制度においては、国産原魚を海外で加工した後に、日本に輸入される場合も規制対象となることについて、留意が必要です。
本制度が施行されることで、制度の対象となる国内外で密漁や違法漁獲が懸念される魚種由来の水産物について、国内流通からの排除が期待され、違法漁獲による乱獲等の抑止にもつながるとともに、信頼できる水産物の流通の増大にもつながることから、消費者の皆様にも大きなメリットが期待されます。

今後の展望

わが国は広大な領海や排他的経済水域を有しているとともに、世界三大漁場といわれる好漁場を有しており、わが国の漁業は、潜在的な生産力は大きいものの、水産資源の減少や海洋環境の変化等により生産量は長期的にみると減少傾向にあります。水産流通適正化法の施行によって、違法に採捕された水産動植物の流通を防止し、漁業法の罰則強化と合わせて、違法な漁業の抑止や水産資源の持続的利用を可能とし、国内の流通事業者や加工事業者等の取り扱う水産動植物の信頼性の向上や適正な市場環境の実現などにつなげていきたいと考えています。(了)

  1. 水産流通適正化法に関する届出について https://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/tekiseika_shinsei.html

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